第153話 妖精?
サマルカンドの西門に集合した俺たち。
門にはたくさんの獣人達が集まっていて、熱烈な歓声を受けつつ、竜人の集落へ向かうこととなった。
俺だけタブレットを片手に自転車を漕ぎつつ、進む先の土地を購入して行く。
ヒャッハー。資金は全く問題ないぜ。
住人の皆さんの寄付があり、使いきれないほどのゴルダが貯蓄されているからな。
「ありがたやー」と手を合わせたくなったけど、生憎両手が塞がっているので、心の中で感謝するにとどめる。
馬をはじめとした騎乗生物を人数分準備することだって出来たけど、タブレットによる土地購入を鑑みて他のみんなは徒歩になった。
でも念には念をとリュティエの提案で、いざという時のため騎乗生物があった方がよいとの事で、シロクマを一頭だけ連れてきている。
……使うことないよなあ。ちらりと横目でモフモフの白い毛皮へ目をやる。
シロクマは人間でもリュティエのような大柄な獣人でも乗せて駆けることができるんだ。
以前一度だけシロクマに乗せてもらったことがあるけど、のっしのっしと進む割に俺が全力疾走するより遥かに速かった。
誰でも乗ることができることがシロクマの利点だが、偵察なら空を飛ぶハトの方がよい。それに加えて速度に関しては、話にならないほどシロクマとハトじゃあ開きがある。
ワギャン以外の誰かが急ぎで移動しなきゃいけない事態になった時以外に、シロクマが活躍することは無いだろう。
活躍する事態になったら困るけどね。
シロクマは見てて癒されるのがいいんだよ。夕飯の後にモフモフさせてもらおう。
うふふ。
「ふじちま殿?」
悦に浸り「土地を購入する」作業が止まっていた俺へリュティエが不安気に問いかける。
「ごめん。シロクマの事が気になってしまって。魔力切れとかじゃないから安心してくれ」
「了解です。シロクマとは『オツォ』のことですか?」
「う、うん」
シロクマさんにオリジナル種族名があったとは。
いや、俺の脳がリュティエの言葉を勝手に翻訳しているに過ぎない。
クーシーの時と同じで、オツォも地球にある神話に登場する名前だ。
オツォはノルウェー神話に出てくるクマの精霊の名前だったはず。
記憶が定かじゃあないけど、俺以外に地球の神話を知ってる人なんていないから、聞くこともでき……あ、本をタブレットで発注すれば分かるか。
忘れがちだけど、タブレットの注文リストには本もある。これまで注文したのは子供向けの音が出る「ひらがな学習セット」を使った時くらいだったよな……。
植物図鑑とか土木、農業の本は役に立ちそうだから、いずれ見てみることにしよう。
リュティエの導くまま途中昼食を挟み、日が暮れるまで進む。
あんまり方向を把握していないけど、ざっくりと西南西に進んでいる気がする。
「先に魔法を使うからその場で待っていてくれ」
そう前置きしてから、タブレットを取り出し広めの土地を購入する。
続いて丸太のベンチ、炉、宝箱(小)、水栓などを設置した。これでお食事に関する施設が揃った。
お次はっと。いよいよお楽しみのお家建築タイムだ。
いろいろあるけどどんな家にするかなあ。
タブレットでクラッシックハウスをざあああっと流し読みしていく。
「よし! 君に決めた!」
円盤とどちらにするか迷ったけど、これまで流していたネタっぽい家の名前が並ぶところから引っ張ったぞ。
位置を合わせて、決定をタップ。
するといつものごとく音も立てずに一瞬でタブレットの映像が現実に反映される。
「なんだか可愛いお家だね」
タイタニアが両手を胸の前に合わせて目を輝かせた。
「これが家ですか? 木のうろに住む種族の話を聞いたことがありますぞ。これはそれを模したものですかな」
腕を組んだリュティエが何やら分析をはじめる。
いや、そんなに深い意味があるわけじゃあないからさ。
各々の感想を述べるみんなをよそに改めて完成した家を見上げる。
この家は赤にクリーム色のボッチが目に鮮やかなドーム型の屋根が特徴的だ。屋根からはクリーム色に塗りたくられた円柱が伸びている。
うん。紛れもなくキノコだな。こいつは。
ちゃんと扉と窓もあるから家として利用できるんだぜ。
残念ながら部屋割りがないので全員広間で雑魚寝になっちゃうけど、キノコハウスには一点利点がある。
それは、家具がセットになっていることなんだ。
「入ってもいい?」
「うん。そこの扉から」
扉を指差し、ワクワクした様子のタイタニアに返事をする。
彼女は俺の手を引き、扉の前まで来るとチラリとこちらに目をやった。
彼女に頷きを返すと、タイタニアはドアノブを掴みクルリと回す。
ガチャガチャ――。
こぎみよい音とともに扉が開き、中の様子が見えた。
「可愛い!」
「そ、そうだな……はは」
ちょっとファンシー過ぎたかもしれない。家具も赤白のキノコカラーのものが多く備え付けられていた。
キノコのクッション、キノコの椅子、キノコの……。
この家にはキッチンがなく、トイレもないので部屋自体は非常にシンプルだ。
「おとぎ話に聞く妖精の
俺たちの後ろから部屋の様子を覗き込んだリュティエが呟く。
「妖精かあ」
「妖精達はこのような鮮やかな色を好むと聞きます」
「妖精ってどんな姿なんだろう?」
「私も妖精にあったことがありませぬ故、噂で聞いたことしかないのですが……」
リュティエはそう前置きしてから話を続ける。
獣人の立ち入らぬような深い山や森の中に妖精達は暮らしているという。独自の言葉を持ち、体は手のひらより少し大きいくらいで空にふよふよと浮かぶ。
妖精達は人間の子供に似た容姿をしていて、トンボのような羽を左右二枚、合計四枚持つ。
髪色と羽色が様々で、妖精の一群を見たものはあまりの美しさに目を奪われるそうな。
「妖精さんってどんな姿なんだろうね」
どんな妖精を想像しているのか、タイタニアは目線を上にあげ顎の下に人差し指を当てる。
「そうだなあ。案外食いしん坊なのかもしれないぞ」
「ん?」
「あ、いや。何でもない」
タイタニアを見て食いしん坊を想像したまではよかった。だけど、食い意地のはった妖精たちがケーキにわらわらと群がる姿が頭に浮かび微妙な気持ちになる。
ちょうどその時、タイタニアの興味が違うモノに映ったようだった。
今度はキノコの腰かけに興味津々のご様子。
「変なフジィ。ねね、ここに座ってみてもいい?」
「適当にくつろいでくれて大丈夫だよ」
「ありがとう! きゃ」
タイタニアが腰かけたところ、キノコの腰かけが半ばほどでぐにゅーっと曲がり彼女は転げ落ちてしまい尻餅をつく。
キノコの腰かけに見えて、クッションか何かだったんだろうか。
試しにキノコの腰かけに手を伸ばし軽く力を入れると、あっさりと横に曲がってしまった。
「大丈夫?」
「うん」
タイタニアの手を引き立ち上がらせる。
彼女は手のひらを側頭部に当て、照れたようにはにかむ。
『パネエッス!』
外から煩いハトの鳴き声が聞こえてきた。
どうやら、偵察に出ていたワギャンが戻ってきたようだな。
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