第143話 長考
その日の晩、集会所でプールの報告会を行う。
マルーブルクとリュティエをはじめ、まだ視察をしていない人たちも折を見てプールへ赴くと言ってくれた。
日常的に使用しないスタジアムはともかく、プラネタリウムの時と同じで誰がプールを管理して行くのかって問題がある。
なので大型施設を作る際は事前にマルーブルクらに相談しているわけだけど……。
彼ら曰く規模感は分かるが管理や使用頻度が見てみるまで分からないとのことだった。
なので今回は先に作ってしまったってわけだ。
毎回同じような気もするけど……ね。
プールの概要を俺から説明したところで、さっそくワギャンが手をあげた。
「一度に使用できる人数を決めたらどうだ?」
「それでいいんじゃない?」
対面に座るマルーブルクがコクリと頷きを返す。
「プールの大きさから、十五人以上は必要だ」
ワギャンが意見の続きを述べる。
「魔道具の部分はふじちま殿に見てもらわないといけませぬが……いかにいたしますか?」
納得した様子のリュティエが俺に顔を向けた。
ちょっと待って……俺の理解が追いついていない。
えっと十五人以下じゃあなく、十五人以上にしたいってことだよな。
あ、そういうことか。
なるほどと膝を打つ。
使う人が掃除をして帰るってわけか。
ポンプ施設とかプールの水の入れ替えなんて大掛かりなメンテナンスも必要なわけだけど……水の入れ替えは何とかなるかな。
水は掛け流しにして入れ替えなくて済むようにすればいい。
ポンプ故障の時は俺が向かう。基本機械のメンテナンスは俺しかできないからな。
ん? 機械に詳しいのかって?
そんなわけない。故障した時の対処法は、「新品と交換する」これだけだ。
「魔道具のところは大丈夫だ。プールは誰でも入ることができるようにしておこうか」
「ううん。プラネタリウムと同じで許可制で行きたいかな」
マルーブルクの声にリュティエも同意する。
「ちゃんと清掃して帰る習慣がつくまでは予約制がよいと思いますぞ」
「分かった。それでいこう。あと……兼ねてから相談していた件だけど」
一旦言葉を切り、マルーブルクとリュティエへ順に目をやる。
「サウナのことかな?」
「うん。こっちも自分達で掃除するスタイルでよいかな」
「そうだね。だけど、場所はキミの通路に隣接していた方がいい」
「俺もそう思う」
現在街には水道、ゴミ箱、トイレといった公共施設がある。そこにサウナも追加する形だ。街に疫病やらが蔓延らないように清潔さには気を払っている。
なので入浴施設を作りたかった。
お風呂はメンテナンスが手間だとなったから、ならばと考えた結果がサウナってわけなのだ。
それぞれの敷地のど真ん中に作ってしまうと、俺がメンテナンスに向かう時に支障が出る。なので、俺の家から続く我が土地の通路沿いがいいってわけだ。
それなら、左右対称になるような形でサウナを……。
「もう少し待って」
「そうですな」
「フジィは賢者なんだから……」
「そうだな」
うーん。
ん?
ついつい長考してしまった。
「どうした?」
何かしらんがみんなが俺を見て吹き出しそうな感じになってるんだけど。
「クスクス。キミらしいからつい、ね」
よく分からん。
マルーブルクは頭が切れる。なので言葉尻そのままで捉えると意味が捉えきれない時があるんだよなあ……。
そんな時、タイタニアと目が合う。
彼女は演技をしなくなってからよく見るにへえっとした笑顔を浮かべ俺に微笑みかけた。
「フジィらしいなって。悪い意味じゃないよ!」
「あ、う、うん」
「どれだけの大事を行おうが、増長せずありのままであるふじちま殿に皆尊敬の念を禁じ得ないのです。いえ、大魔術師たる貴殿にとってこのようなこと些事かもしれませぬが……思えば――」
ぐおお。リュティエが朗々と語り始めてしまった。
手放しに褒められると顔から火が出そうだ。
ワギャン。何とかして……あちゃあ聞き入ってるよ。
こんな時のストッパーたるマルーブルクは俺の気持ちが分かってて天使の微笑みを浮かべてるし……。
「俺は俺のやれることをやれる範囲でしかやってないんだよ。ゴブリンのことだってプールのことだってそうだ」
リュティエの言葉を遮るように自分の思いを伝える。
「そういいつつ、いつも長々と考え事をしていることをみんな好ましく思っているんだよ」
「な、なるほど……」
マルーブルクがようやく口を挟んでくれたところで、誉め殺しタイムは終わりを告げた。
「じゃ、じゃあ、サウナを公国側と獣人側の二箇所に設置する。石鹸とかの備品は箱に入れておくから、無くなったら俺に伝わるようにしてくれるか?」
「もちろんだよ」
「了解です」
二人のリーダーが即座に了承の意を示す。
会議はこれで終わりかなと思ったら、ワギャンから提案があるみたいだ。
「周辺の偵察を行いたいと思ってる。どうだ?」
「ハトに乗ってってことかな?」
「そうだ。この地はお前がいるからこそ安住の地となっているが……」
お、おおい。
怖いところで言葉を切らないでくれよ。
あ、そういう事ね。
この先はリュティエが語ってくれるってことか。
さりげなくリーダーを立てるワギャンに目尻が下がるってもんだ。
「ふじちま殿。そしてマルーブルク殿。以前話をしたかもしれませぬが、この地はふじちま殿無くして安住の地には決してなりませぬ」
真っ直ぐに俺の目を見て話すリュティエから憂いを感じる。
「確かに。スカイフィッシュやかたつむり、ミミズ……僅かの期間にいろんなものが出てきたよなあ」
「我々はこの地に決死の覚悟で来ました。何度も偵察を行った結果、ここは生きていくに環境が非常に厳しいことが分かりました」
「う、うん」
「我らとて一年を通してこの地に住んだことはありませぬ。ふじちま殿の魔法があるとはいえ、這い寄る外敵を察知することは肝要かと」
「確かに。でもワギャンに危険が及ばないか?」
「大丈夫だ。空から観察するからな」
「空だって……」
グバアみたいなのがいるじゃあねえか。
「そこで一つ頼みがある」
「ん、仕事の調整かな?」
「いや、お前からは何ら仕事を受けていないだろう?」
「お、おう……」
いろいろ頼んでる気がするんだけど、そこはまあいいか。
ワギャンの様子から見てとるに、どうやらリュティエと仕事の調整が済んでいるようだな。
今後は偵察業務に専念したいってことか。
「お前が物見で使っている『遠見の魔道具』を貸してくれないか?」
「それならもらってくれ。より遠くから危険を察知できるのなら安全性が高まる」
「ありがとう。それで、お前は同意してくれるか?」
「分かった。でも、決して無理はしないでくれよ」
「任せろ。目と鼻があれば大丈夫だ」
あまり気は進まないけど、彼の意思は固そうだし、サマルカンドのために何かやりたいって気持ちは無碍にはできない。
俺がプールやらを建築するのと同じことなんだよな。危険度と労力が違いすぎるってことはおいといてだ。
議論はこれにて終了となり、フレデリックの夕食を頂きこの場は解散となった。
久しぶりに彼の料理を食べたが、絶品だったとだけここに記しておこう。
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