第92話 そんな馬鹿な……俺が最弱だというのか

 ラオサムの足を拭き拭きしてから、ワギャンも連れて風呂に入る。

 少し狭かったけど、フサモフさん達と一緒だったから俺のテンションは上がりっぱなしだった。

 最後にドライヤーでぶおんぶおんラオサムの毛を乾かしていたら、彼が気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らすんだよ!

 そらもう、うはうはだった。


 この日は雨が屋根を打ち付ける音を聞きながら就寝する。

 そして、雨の音で目覚めた。


「ふああ」


 降っているなあ。

 窓の外へ目をやる。昨日と同じようにバケツをひっくり返したような激しい雨が容赦なく屋根を叩いていた。


 三日が経過する……。

 しかし、雨は勢いを弱めることもなくずっと降り続いていた。


 こうも雨続きだと暇を持て余して仕方がない。幸いなのがワギャンとタイタニアも一緒に家に居てくれることかな。

 彼らも雨が激しすぎるから、外で仕事をすることができないでいるそうだ。


 こんな時は何かハウジングアプリから出してみるか。

 タブレットを手に出しメニューを表示させ目ぼしいアイテムが無いか探っていく。

 テレビゲームは……既に持っているけど全くやってないし、ワギャンがコントローラーをちゃんと操作できるのか分からないからパス。

 あ、いや……ワギャンがコントローラーを持つ姿を妄想し口元が緩む。

 アリだな。

 しかし、テレビゲームは最後の手段にしよう。


 トランプやスゴロクもアラビア数字が地球と同じか分からないからパス。


「フジィ? それは?」

「これはオセロっていうボードゲームだ」


 そんなわけで、俺が選んだのはオセロだった。

 これなら白黒を見分けるだけでいいし、ルールも至ってシンプルだからだ。

 今はタイタニアとワギャンをさっそく呼んで、リビングテーブルへオセロを置いたところ。


「どんなゲームなんだ?」


 ワギャンも興味津々といった様子でしげしげとオセロを眺めている。


「オセロはとてもシンプルなボードゲームで、白と黒の石をお互いに置いていき、自分の持つ色の石が多い方が勝ちになる」

「順番に置いていくだけならゲームにならないな」

「うん。こうやって白で黒を挟むと色がひっくり返るんだ」

「試しにやってみよう。タイタニア」


 ワギャンはタイタニアを向かいに座らせて、俺の言葉を待つ。

 最初に置く石の事を説明し、ワギャンが白、タイタニアが黒でゲームをスタートさせた。


 結果、大方の予想通り盤面は白で染まったわけだが……。

 次に俺とワギャンで勝負したら、負けちまった……。な、なんてこったい。二回目の彼にあっさりと敗北するとは。


 内心動揺しつつも、今度はタイタニアと俺でゲームスタート。


「フジィ、勝たせてくれてありがとう!」

「あ、うん」


 タイタニアは良いように勘違いしてくれてるけど、手加減なんてしていないし、素で負けちゃった。あはは。

 もう一度総当たりをして、勝負の結果が同じに終わる。


「おっと、腹が減ってきたと思ったらもうすぐお昼じゃないか」

「そういえば、朝はスープだけだったな」


 俺とワギャンが呟きつつも、タイタニアへ目を向けた。

 

「ん? どうしたの?」

「ごめん、タイタニア。何か食べたいものある?」

「うーんと。うーんと。ちょっと待ってね」


 食べることといえば、食いしん坊のタイタニアなのだ。

 朝はシンプル過ぎたからお昼はちゃんと食べてもらわないとな!

 

 しかし、そこまで真剣に悩むことはないと思う……。眉間に皺を寄せて、頭を抱えて肩を震わせているんだもの。

 このまま放っておくと頭から湯気があがりそうだったから、思いついた料理を告げてみることにした。

 

「んー。じゃあ、カルボナーラにでもするか。パンもつける」

「わー! ねね、フジィ。パンだったらわたし……フランスパンがいいな!」


 コロコロと表情が変わるタイタニアに微笑ましい気持ちになる。


「ワギャン、ラオサムへはハムでもいいかな?」

「ああ。ありがとう。ふじちま」


 ◆◆◆

 

 昼食を終え、食後のコーヒーを飲んでいるところでワギャンが何かに気が付いたように鼻をヒクヒクと揺らす。

 

「どうした?」

「スコールが弱くなっている」

「おお、やっと雨が止むのかな?」

「いや、一時的にだろうな。でも、スコールはたまに止むんだ」

「おおお。晴れが恋しいよ」


 ん、タイタニアが虚空を見つめて口がだらしなく開きっぱなしになっているな。

 ツンツン。

 彼女の肩をつつくが、反応がない。

 この様子に思わずワギャンと顔を見合わせると、お互いに吹き出してしまった。

 

「タイタニアは雨が止んだ時のことを想像しているのだろう」

「雨続きでたまに晴れると嬉しいものな」

「そうだな。特にスコールの合間は」


 この時俺はワギャンと同じ風景を想像していると思っていた。

 しかし、それは大きな誤解だったんだ……。

 

 ――ピンポーン。

 お、誰か来た。

 

「今出るー」


 扉を開けると、マッスルブとジルバだった。

 二人は大きな蓮の葉を傘にしてここまでやって来たようだ。

 カエルが傘をさしているようなあんな感じの傘で、よく壊れなかったなあと感心する。

 

「蓮の葉は意外に強靭なんだぶー」

「へええ。俺も一度試してみたいな」

「使ってみるといいぶー」

「おお、ありがとう。でも、今はせっかく来てくれた君達を中に迎えたいさ」

「ありがぶー」


 この後、マッスルブとジルバともオセロをやったが……結果は聞かないでくれ。

 

 ◆◆◆

 

 ――三日後。

 キラキラとした太陽の光が窓から差し込み、目を細める。

 ベッドから起き上がり、大きく伸びをした。

 

「うおおお、晴れた。晴れたぞお」


 久々の晴天に朝から俺のテンションがあがりっぱなしだ。

 一階に降りたら、既にワギャンもタイタニアも出かけているようで、俺一人取り残されたようだった。

 

 彼らもこの太陽の光に早朝から外へ出て行ったんだな。

 よおし、俺も行くぜ。

 

 寝間着のジャージから、外用のジャージへ着替える。

 言うまでもないが、見た目は全く一緒だ。

 

「行くぜえー」


 外に出た。

 右を見る。左を見た。

 扉を閉じ、家の中に戻る。

 

 再度、扉を開けて、右、左を確認。

 

「な、なんじゃこらああああああ!」


 思ってもみなかったとんでも光景に力一杯叫び声をあげる俺であった……。

 さ、さすが異世界。

 何でもありだな。ピラニアが空を飛ぶくらいだし……。

 

 そういや……。

 俺はタイタニアのある言葉を思い出していた。

 雨の時期の楽しみとかなんとかって彼女は言っていたよな。

 それが、まさか、こんな……。

 

 いや、彼女のことだから食べ物に関することなのかなあと何となく思っていた。

 雨が来て、熱い夏になる頃に何か収穫できるのかとばかり考えていたのだ。

 それが……これほど直接的な意味だっとは。

 

 いや、待て。

 まだ食べるとか決まったわけじゃない。

 スカイフィッシュの時みたいに、天災扱いかもしれないじゃないか。

 

「フジィ! 朝ごはんー」

「え……」


 立ち尽くす俺の元にタイタニアが笑顔で戻って来たではないか。

 や、やっぱり食べるのね、それ。

 

 彼女は殻の大きさだけで直径一メートル近くある巨大なカタツムリを抱えていた……。

 

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