第46話 扉のアクセス権限

 次に鳥居を出してみたところ、タイタニアは「綺麗ー」と乙女ちっくに両手を合わせて喜んでいたが、フレデリックは派手過ぎるとあまり反応がよくなかった。

 電飾系とかもあるんだけど……「CAJINO」とか書いた看板がついたやつ……さすがにこれは出さない方がいいな。

 

 んじゃこれでどうだ?

 

「少々大げさかもしれませんが、遠くからでも目立ちますし良いのではないでしょうか?」

「お城みたい!」


 お、二人とも感触がよさそうだ。

 選んだのは古代ギリシャ神殿風のゲートだ。

 中央が膨らんだ白亜の柱に上部は四角柱が二本横に走った堂々たる頑丈そうな見た目をしている。

 しかし、あくまでギリシャ「風」であり、柱は電柱より一回りほど太いサイズで、本物よりかなりコンパクトな作りをしていた。

 

 いや、似たデザインでもっと太い柱のものもあったんだけど、最初に出したアーチのものを見せた反応から細めの方がいいと判断したんだ。

 思惑通り、二人ともいい反応を見せてくれた。

 

「じゃあ、これで一旦決めておいていいかな? 後からいつでも変更はできるから」

「了解しました。私はこのゲートで賛成です」

「わたしは見せてもらったものの中からだったら、どれでもいいよ!」


 二人の賛同を得たところで、残りのゲートも設置にしに行くことにした。

 

 ◇◇◇

 

 ――その日の晩。

 意外なことに集会場には公国、獣人ともに全員出席していた。みんな忙しいと思っていたんだけど……。

 全員といってもいつものメンバーになる。マルーブルク、フレデリック、クラウス、タイタニア、リュティエ、ワギャン、マッスルブ、ジルバの八人だな。うん。

 

 俺はと言えば、移動式の黒板を集会場に運び込み、説明する準備を整えている。

 さあて、お勉強の時間ざますよ。


「集まってくれてありがとう。まずは机の上を見て欲しい」


 黒板の前に立ち、テーブルを指し示す。

 集まったみんなはそれぞれテーブルへ目を向けるが、微妙な顔で首を捻る。


「ふじちま殿……机に一体何が?」


 リュティエが代表して疑問を投げかけた。

 あれ?

 テーブルの上には、子供の学習用な見た目の青い枠がついたタッチパネルが置いてあるんだけど……みんなには見えないのか。

 これは困ったぞ。


「ちょ、ちょっと待ってね」


 踵を返し、みんなから背を向けたが、内心冷や汗がダラダラと。

 タッチパネルが見えなきゃ何も出来ねえじゃないか。


「ふじちま、鳥居の許可とか何とかの話ではないのか?」


 ワギャン、もちろんそのつもりだったさ。でもさ、肝心のアクセス許可を設定するためのタッチパネルがだな。

 ん?

 アクセス許可か。

 そういや、鳥居やギリシャ風ゲートはパブリック設定のままでアクセス許可リストには誰も登録してなかった。


 プライベート設定であろうがパブリック設定であろうがアクセス許可は設定できる。パブリック設定をプライベート設定に変更した時に、アクセス許可を適用するか俺のみオーナーか選ぶことができるんだ。


 ……ひょっとしたら……。

 タブレットを操作して全体図を表示させてっと……鳥居とギリシャ風ゲートにアクセス許可を設定してみた。


「きゃ!」

「うお!」

「突然、机に」


 驚く声に振り返ると、みんなが机に並べられたタッチパネルを凝視している。


「お、見えたようだな。よかった……」

「これは何なんだい?」


 マルーブルクがワクワクした様子でタッチパネルから目を離さず尋ねて来る。

 しかし一番好奇心旺盛であろう彼であっても、タッチパネルには触れようとしない。

 彼らは俺が触れてもいいと言うまで、決して触ろうとしないだろう。この辺り、俺のことを立ててくれてることが分かって結構嬉しいんだよね。


「今から説明するよ。後からその長方形の板……タッチパネルに触ってもらうので」

「りょーかい」


 マルーブルクは名残惜しそうにタッチパネルから目を離す。

 他のみんなも無言で頷きを返し、前を向く。

 

「今回設置した街の入り口用の『ゲート』は、ここにいるみんなが『誰を通過させるのか』を決めることができる」


 「アクセス権限」とか言ってもゲームはもちろん、パソコンにさえ触れたことがないみんなだと理解が進まないだろう。

 なので、少し言葉を変えて説明していくこことにした。

 扉や宝箱、ゲートなどは、それぞれ個別に「サブオーナー」の権限を与えることができるんだ。サブオーナーはアクセス許可を設定することができる。

 サブオーナーを誰にするか決めることができるのは、もちろんオーナー権限を持つ俺のみ。

 サブオーナーはいつでも追加できるし、削除することも可能。それに加え、サブオーナーだけでなくオーナーである俺もアクセス許可を設定することも可能だ。

 

 今回の場合、鳥居にはワギャンらを、ギリシャ風ゲートにはマルーブルクらへサブオーナーの権限をさきほどセットした。

 

「誰を通過させるのかをこれに書くのかい?」


 察しのいいマルーブルクがタッチパネルを指さす。

 

「その通り。そいつの使い方は難しくないんだけど、一つ問題があるんだ……とその前に」


 一旦ここで言葉を切り、タッチパネルへ目をやる。

 

「さっきまでみんなに見えていなかったそれ……タッチパネルと言うんだけど、俺が触れて良いと決めた人以外には見えないみたいだ」

「なるほど。それで先ほどまで見えなかったのですな」


 リュティエの言葉へ頷きを返す。

 触れてよいというのはサブオーナー権限のこと。サブオーナーとオーナーである俺だけがタッチパネルを目視することができるってわけだ。


「タッチパネルの操作方法はとても単純。鳥居なら鳥居の前に行ってタッチパネルへ『名前を描き』、赤い丸へ触れるだけだ」


 書くと表現すると、炭か何かでタッチパネルへ書くのと勘違いするかなと思って、あえて描くと言ってみた。

 実際触って確かめればすぐに分かると思うけどね。

 タッチパネルは対象が見える位置にないとアクセス許可を設定できないんだ。その辺不便なんだけど……まあ、仕様だから仕方ない。

 

「名前を描く……のですか。我々は数字を使いますが、文字は使いません」


 リュティエが「ううむ」と残念そうな唸り声をあげた。

 

「うん、それがさっき言いかけた問題に繋がるんだ」


 指を一本立て、白のチョークを手に取る。

 黒板へ「あ、い、う」と文字を書いてみんなの顔を見渡した。

 

「これが読めるだろうか?」


 元々文字を使用していないという獣人側はもちろんのこと、マルーブルク達にも分からない様子。

 彼らが日本語を使っていたらと思ったけど、そう都合よくはないか。

 

「見たことのない字だね。その字で……えっとタッチパネルに名前を描かなきゃいけないってことかな」

「その通り。少し複雑かもしれないけど、覚えてもらう必要がある。覚えるまでは俺が代理で行うよ」

「面白そうじゃないか」


 マルーブルクは興味津々に目を輝かせ口の端をあげる。

 絵を描くことに慣れていなかったら、ひらがなという字体を書くことは難しいかもしれない。でも、ひらがなを読むだけならそれほど時間はかからないんじゃないかなと思っているんだ。

 

 彼らと俺の言語体系はまるで違う。

 でもさ、俺の言葉を彼らの言葉に翻訳して聞こえているわけだろ。

 じゃあ、「あ、い、う、え、お」でも「みかん」でも彼らの言葉にある発音に切り替わって聞こえるはずなんだ。

 

 ひらがなは表音文字だから、聞こえたまんまに記載すれば大丈夫。

 

「学習用に何かいい物がないかと思って、準備したモノがあるんだ。少し待っててくれ」


 そこで俺は考えた。

 「音」からひらがなを学ぶ方法を。

 

 ふふふ。驚くなよお。

 これはこの世界でしかできない画期的な方法なのだ!

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