第42話 やめろ、それはやめろ

「いいんじゃないか。ふじちまあってこその街だからな」


 ワギャン! 乗っかるんじゃねえよお。

 

「ヨッシー。ちゃんと復唱してもらえるかな?」


 おそらくだいたい何を言っているのか察しているマルーブルクが笑顔を絶やさず聞いてきた。


「あ、いや。リュティエが『ふじちまタウン』はどうかと言っている」

 

 ワザとここだけ復唱をしていなかったのに……。

 言葉に出して言うととんでもなく恥ずかしいんだが!

 

「クスクス。ボクはそれで良いよ」


 マルーブルクぅうう。笑い過ぎだろ。

 腹を抱えて笑うとはまさに今俺の前で机をバンバン叩いているマルーブルクのような様子をさすのだろう。

 ツボに入ったらしく、彼は一旦落ち着いても俺の顔を見た途端にまた机を叩き始めてしまった。

 

「私はマルーブルク様のご意見と同じくします」

「俺も。公子は俺の上司だからな」


 二人の護衛が口を揃える。

 

「フジィの名前を付けるって素敵と思う」


 タイタニア……。

 

「みなさんの意見が揃いましたな。それでは」

「ま、待ってくれ。リュティエ」


 このままでは「ふじちまタウン」で名称が決定してしまう。

 それだけは避けなければならないのだ。

 し、しかし、突然街の名前と言われてもだな……すぐに良い案が浮かんでこない。

 

 どうする?

 何でもいいから絞り出さないと。

 

「ふじちま殿。妙案がおありで?」

「えー、あー。うん。えっとお。サマルカンド、いや、マラカンダ……クテシフォン……パルティア……」


 東西の交流地になったであろう中央アジアの古都の名前をあげていく。

 最後のパルティアは違ったが。

 しどろもどろになり更に名前をと考えていたら、マルーブルクが右手をあげる。

 

「サマルカンドをマラカンダって言いなおしたのって何か意味があったの?」

「あ、うん。旧名がマラカンダでサマルカンドって名前は新しい方だよ」

「どんな意味を込めていたんだい? さっき出した名前は」

「『東西の交流』を思い浮かべてだよ」

「どれも聞いたことのない名前ばかりだよ。キミが『外へ出ていた時代』の話かな」

「あ、うん……」


 そういや世捨て人の賢者の設定がまだ生きていたんだった。

 一体、マルーブルクの中で俺がどんな存在で定義されているのか……。悠久の時を過ごし、稀に世界へ顔を出し交流するおとぎ話の中の人みたいなイメージかな?

 いずれ、俺は違う世界から来たってことを話さないとだな。

 

 おっと、復唱しないと。

 俺の復唱を聞いたところ、次はワギャンが意見を出す。

 

「ふじちまタウンほどじゃないけど、ふじちまがあげた中だったら、僕は『サマルカンド』を推す」

「私も同意見です。悠久の時を生き抜いた都市の名前にあやかろうと」


 ワギャンにリュティエが同意した。

 

「いいんじゃないかな。サマルカンドで。獣人(東)と公国(西)が時を同じくする過ごす場所にして、長く続いた都市の名前ってことで」


 マルーブルクもサマルカンドを推してくる。

 タイタニアや護衛の二人も彼らに同意した。

 

「では、新たな街の名前は『サマルカンド』といたします」

 

 リュティエの言葉にこの場に集まった全員が頷きを返す。

 よっし、ふじちまタウン回避成功だ。

 それにしてもサマルカンドか。適当に言ったとはいえ、なかなか的を射てるんじゃないか?

 サマルカンドはウズベキスタンにある古くから栄えた都で、抜けるような青空から別名「青の都」と呼ばれている。

 ここはオアシスじゃあないけど、雨の日も少なく地平線に見える青空と草原の境目がとても美しいんだ。

 

 考えている間にも会議は進む。

 

「見取り図はここへ置いておきますので、各自、時間のある際に確認を」


 リュティエは慣れた様子で概略図が描かれた羊皮紙を指し示す。

 誰からも追加で意見があがらないことを確認し、リュティエは会釈を行った。


「それでは受け入れ準備でお忙しいと思いますので、何かあれば招集をかけてください」


 ◇◇◇

 

 ――翌日の早朝。

 

「ぴんぽんぱんぽーん」


 拡声器を手に持ち、メロディを口ずさむ。

 やはり、拡声器で周知する時はこのメロディから始めないとさ。


 俺は今、公園にある滑り台の上に来ている。

 これからいよいよ街の外周を取り囲む土地を購入しようと思ってね。


 さあ、行くぞ。

 滑り台の上にある手すりを片手で持ち、大きく息を吸い込んだ。

 

「町内のみなさん。これより作業を行います。移動していただく場合もありますのでご了承ください!」


 同じことを一分おきに、三度繰り返す。

 現在、獣人、公国共に受け入れ準備の真っ最中だ。俺が土地を購入している間にも続々とここへ人がやって来ることになるだろう。

 既にどこに土地を購入するか決まっているから、いつやってもよかったんだけど……マルーブルクの指示に従い、朝からやることになった。

 

 先に壁があった方がやりやすいってことかな?

 

 まずは、北側の道を伸ばすところからやるか。

 中央……つまり俺の家を中心に元からある一キロの長さがある土台へ二キロの道を追加する。

 突き当りを東西にそれぞれ二キロ伸ばし、あとは長方形になるように周囲を囲っていく。

 

 道幅はゴージャスにも一マスではなくニマスだ。

 なので自転車でも安心して進んで行くことができる。

 

 かかるゴルダ? うん、かなりの金額になったよ。

 でも、マルーブルクとリュティエの協力があって、丸太やら石材、金属の塊やら錆びた武器や防具までいろいろ提供してもらい必要金額は集めきった。

 マルーブルク曰く、普通に城壁を作ることに比べたら材料費だけで千分の一以下。人件費まで含めると……とんでもない差額になるとのこと。

 建築期間も半年くらいはかかるそうで。

 それに比べ、さすがチートハウジングアプリだ。俺がやるなら一日どころか数時間で完了するんだぜ。

 

 自転車にまたがり、前を向く。

 

「藤島いきまーす!」

 

 一人ごとのつもりだったんだけど、元気が良すぎたらしい。


「よろしくお願いします」

「がんばれー」


 なんて声がどちらの側からも聞こえてきた……。

 そうだ。ここには俺一人じゃあないのだ。常に誰かしら近くにいると思っていた方がいい。

 

 顔が火照りながらも、自転車をこぎ始める俺である。

 

 家の北側へ行くと、一マスの道を広げるようにして土地を購入していく。

 やはり、横幅二メートルあれば自転車で進んでも怖くは無いな。

 

 イエーイ。

 ノリノリでアプリを使い作業を進めて行くが、歩きタブレットは危険ということを忘れていた。

 途中で転びそうになり、タブレットを操作する時は立ち止まることにする。

 

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