第33話 集会場を建築しよう
貨幣をゴミ箱へ入れようとしたマルーブルクを制し、木材や鉄なんかが無いか聞いてみる。
一応「資源」と銘打っているから、お金より資材の方がいいだろうと思ってさ。もちろん、貨幣がゴルダになることは証明済みなんだけどね(意識せずやってしまったけど)。
「りょーかい。じゃあ」
マルーブルクは近くにいたお付きの戦士? へ何事か呟くと、すぐに馬車へ丸太を積んだ兵士たちがやって来た。
彼らを率いているのは、クラウスだ。
いないと思ったら、指揮を執っていたんだな。
「ゴミ箱へ投入すればいいんだな?
最初の挨拶以来言葉を交わしていなかったクラウスの声は相変わらずのだみ声で、無精ヒゲを指先でいじる姿も相まって騎士らしさがまるでない。
「うん、半分に切らないと入らないかな」
「あいよー。ノコギリ持ってこい」
部下に命じたクラウスは、ノコギリを受け取ると……って自分でやるのかよ。
少しびっくりしたけど、彼は慣れた手つきであっという間に丸太を半分に切ってしまった。
部下も特に動揺した様子はなく、彼が自ら作業をすることは日常茶飯事なのだと分かる。
騎士らしくない見た目といい、部下に見せる気さくさといい……俺が想像する公子の護衛とはまるで異なるけど、俺にとってはこの方が好ましい。
堅苦しいより、こういうあけっぴろげな方が親しみが持てるじゃないか。
「ん? どうした? 兄ちゃん?」
「いや、ノコギリの扱いがうまいなあって」
「子供の頃からやってるからな。お手のもんよ」
へへんと鼻をさするクラウス。
「じゃあ、俺が合図するまでドンドン丸太をゴミ箱へ放り込んでいってくれ」
「応」
兵士たちが次から次へとゴミ箱へ丸太を投入していく。
『おいちいいい。こんないい物を』
どんどん増えるゴルダを見つつ、ちょうどいいクラッシックハウスがないか調べる。
広さがある程度あればどんな家でもいいんだけど、問題は「付属品」なんだよな。
現代的な品物は余り見せない方がいい。となると、付属品が少ないか、全く無い方がよい。
条件に合う家が無かったら、カスタマイズハウスにするしかないかも。
……。
『名称:段ボールハウス(平屋)
サイズ:縦十、横五
価格:一万ゴルダ
付属品:宝箱(小)、トイレ、蛍光灯付き』
さすがにこれは見た目的にダメだろ。仮にもリュティエやマルーブルクと会談する場所だし。
『名称:港にあるような倉庫(平屋)
サイズ:縦十、横五
価格:一万二千ゴルダ
付属品:宝箱(小)、トイレ、蛍光灯付き』
ほう。何やらテレビドラマの刑事物とかで見る「取引現場な倉庫っぽい」見た目だ。
これなら……胡散臭いけど一応使えることは使えるか。
いや、ダメだダメだ!
『名称:田舎風レストラン(平屋)
サイズ:縦九、横九
価格:三万二千ゴルダ
付属品:宝箱(中)、トイレ、電気、キッチン、食器一式、テーブルセット一式』
キッチンが付いてるけど、これならまあいいか。
よっし。ちょうど丸太の買取価格も三万五千ゴルダを越えた。
「丸太投入終了でー」
「あいよー」
さてと。
「もういいのかい? 丸太十五本程度じゃあ作れる建築物も限られてるけど」
俺たちの様子を興味深そうに眺めていたマルーブルクが作業が終わったと見て声をかけてくる。
「大丈夫だよ。丸太をそのまんま使うわけじゃないから。どこに建築しようか?」
「そうだね。ボクらとリュティエとの境界線があっただろ? 真ん中に」
「うん」
「キミの家のすぐ北側でどうだい? 境界線を潰してしまうけど」
「ちょうどいいかも。左右に芝生を作って、そこに君たちの名前を登録すればいい」
「うん。ちょうど境界線をまたぐってことが大事なんだ」
マルーブルクが言わんとすることは俺にも理解できる。
集会場を人間とモンスターの協調の象徴にしたいってことだよな。
おっと、建築する前に彼に伝えておかないと。
「一つ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「なんだい?」
「これから建築する家には魔法の品物がいくつか含まれているんだよ」
「それは興味深い。しかし、中にある品物は口外しないようにするか……すぐに隠蔽できるようにするか考えないとだね」
「うん、しばらくはマルーブルク達三人とタイタニア。あっちはリュティエとワギャンら三人以外には入れないようにするけど」
「りょーかい。ボクの方でも運用方法は考えておくよ」
マルーブルクは何でもないと言った風に指を左右に振る。
◇◇◇
家の北側の土地を買い足して、縦十三マス×横十三マスの土台にする。
前後左右に二マス余るように緑の枠をセットしてっと……「決定」をタップ。
次の瞬間、音も立てずに「田舎風レストラン」が出現した。
このレストランも外観はなかなかなんだぜ。
ログハウス風の丸太を組み合わせたような三角形の赤色の屋根が可愛らしい家だ。
地面から五十センチほど高い位置にくるような作りになっていて、入口のところには木製の階段を三段登って扉へ行く仕組みになっている。
扉は木の板を横にはり合わせたようなデザインで、上部に手のひらサイズの黒い鈴がついていた。
「中を見に行こうか」
マルーブルクへアクセス許可を設定し、彼と共に家の中へ入る。
扉を開けた時のカランコロンって音がなんとも言えず懐かしさを誘う。
中はというと、なるほど。確かに「レストラン」だな。
屋根の骨組みが見える高い天井にはプロペラ型の電気が備え付けられていて、広い窓から差し込む光は店内を明るい雰囲気に保つ。
全てが自然木で作られた屋内は優しい感じがして、落ち着いてゆっくりとした時間を過ごせそう。
木のテーブルと背もたれ付きの木の椅子は全部で三セットあって、奥にはカウンターを挟んで厨房が見える。
一言で言うと、この家は名称の通り田舎にあるロッジ風の隠れ家的なレストランだ。
「いい感じだね。見たことのない物が沢山あるよ」
マルーブルクは目を輝かせて、テーブルに触れたり奥にある厨房や食器類を物色し始めた。
「どうだろう?」
「少し改装したいね。テーブルを撤去して大きなテーブルを置こう。それなら全員で集まって会議ができる」
「分かった」
「大きなテーブルはボクらで準備するよ。クラウスとフレデリックにも入れるようにして欲しい。でも、彼らを中に入れる前にリュティエに入ってもらって」
よく気が付くなあ。
一応、礼儀として共同で使うものだから、部下を中へ入れる前に相手のボスにってことか。
感心して彼を見ていると、思い出したようにポンと手を叩きマルーブルクは言葉を続ける。
「あ、そうそう。リュティエにも家具の入れ替えをすることを伝えておいて。もし彼が難色を示すようだったらまた違う案を出そう」
「ほんと何から何までちゃんと考えてるなあ」
「そうするように育てられたからね……」
うんざりとした表情を見せるマルーブルクだったが、すぐにまた目を輝かせてワイングラスを手に取って眺めはじめた。
「マルーブルクはしばらくここにいる? すぐにリュティエを呼んで来るけど」
「りょーかい。もし時間が来たらいないかもしれないけど、その時はその時で」
ワイングラスから目を離さないまま、マルーブルクは軽く手をあげる。
んじゃま、俺は俺でリュティエを呼んでもらうように頼みに行くとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます