第32話 新居でルンルン気分
朝日と共に目覚めた俺は、さっそく家の建築へ取り掛かることにする。
今住んでいる藁ぶき屋根の家からマグカップや鍋などを外に出し、台車の上へ乗せておく。
『藁ぶき屋根の家を取り壊しますか? はい/いいえ』
「はい」をタップすると、相も変わらず瞬時に音も立てずに家が消失した。
「解体」を選ぶと中の物も含め全て消えてしまうみたいだ。次に解体する時には、その辺を注意しておかないと。今回は事前に物を運び出していたから問題ない。
しっかし、しばらく住んだ思い出深い家だったけど、一瞬で跡形もなくなるから情緒もへったくれもないな……。
次に土地を大きくする。
ワギャンたちとバーベキューをした芝生も含め、二十マス×二十マスになるように土地を購入した。
剥き出しの土は後から床材を芝生へ変更しようかな。
ともあれ、俺が選んだクラッシックハウスはこれだ。
『名称:大理石の庭がある家(二階建て)
サイズ:縦十五、横十五
価格:十二万五千ゴルダ
付属品:宝箱(大)、電気、トイレ、キッチン、浴室、モニター、ベッドなど家具付き
購入しますか? はい/いいえ』
緑のマスを合わせて……「はい」をタップする。
どーん。
って音は鳴らないけど、待望の我が新居が出現した。
「いやっほー」
素晴らしい。素晴らしいぞ。我が新居。
まるで白亜の城のような外観だ。上品な真っ白の囲いに、タイル状になった大理石の庭……いやテラスと言った方がいい。
テラスにはガーデニング用品売り場にあるようなおしゃれな背もたれ付きの椅子とテーブルが二組置かれており、パラソルを広げることだってできる。
テラスの広さは五マス×七マスほどで一人で住むには広すぎるけど、マルーブルクらを招いて会議をするにはちょうどいい。
「中に入ってみるか」
家の外観はL字の逆型に近い。四角い作りで、屋根も真っ平になっていた。
全て大理石調の外壁が使われていて、テカテカしておらず光を反射しない作りになっている。
二階部分はL字の長い部分が三部屋に分かれていて、L字の短い部分はテラスになっていた。
入口から一マス分は大理石のパネルが敷き詰められており、上には建物と同じような真っ白の屋根がある。
キョロキョロと落ち着きなく、こげ茶色のマホガニーの両開きの扉の前に立ち、洒落た黒色の取っ手を掴み――扉を開く。
「うおおおおお。すげえええ」
分かっている。ここを作った人は俺の好みを分かっているじゃないか。
入口はL字の上から入った形で、一階部分は縦十四マス×横七マス大広間とL字の短い棒線の横側に当たるところで間仕切りの壁といった作りになっていた。
壁材は柔らかな自然木を感じさせる淡いブラウンの木目調。床は灰色のカーペットが敷かれていて、キッチン部分は若干黒が濃い灰色になっている。
大広間には前の家と同じく四十インチほどのテレビが左側にあった。テレビは壁かけになっていて、ちょうどいい位置にカウチとL字型のソファーが置いてある。
対面型キッチンの前にはこげ茶色の四人掛けのダイニングテーブルがあり、人を招いて楽しく食事ができそうな雰囲気を醸し出していた。
右手にある壁に備え付けられた扉を開くと四マスの正方形の空間が脱衣所になっていて、一マス四方のトイレとトイレの分だけ脱衣所より小さい浴室へ続く黒い扉が二枚並んでいる。
今回は脱衣所がついているんだな。脱衣所には洗濯機も置いていたぞ。
しかし、俺が最も気に入ったのは右手にある大きな窓だ。この窓から直接テラスに出られるようになっていて、バーベキューをしながらここから出入りすると楽しそうだぜ。
二階は三部屋あって、同じ作りだった。それぞれの部屋は同じ大きさをしていて、縦四マス×横六マスと充分すぎる広さだ。
セミダブルのベッドとクローゼットに小さな机と椅子。まるでホテルの一室のような配置なんだけど、空間が怖い……余裕がある時に何か物を置きたいところだな。
二階のテラスは縦四マス×横八マスもあるが、ベンチだけしか置かれていないからだだっ広く感じる。でも、ここで星を眺めるのにはいいかもしれないぞ。
靴を脱いで、ベッドにダイブしぼよんぼよんさせながら満足するまで転がった後、キッチンに移動する。
「食器とかはあるのかなあ」
キッチンは二口のIHクッキングヒーターと大きなシンクがあり、壁面側にはよく見る天井までの高さがある備え付けの食器入れが用意されていた。
冷蔵庫とレンジ、トースターも揃っていたから、これで食生活はかなり充実しそうだ。
キッチン下の棚を開けると、包丁や鍋、ポットなんかもあって、細かいところまで手が届いているなあと感心した。
食器棚にも整然と皿やコップが並べられていて、追加で注文する必要はなさそう。
「すげえぞ! 我が新居!」
一人大声で叫び、その場で変な踊りを踊ってしまった。
それだけ俺のテンションは高くなっていたってことだよ。
これで十二万ゴルダなら安いもんだ。
それじゃあ、仕上げと行きますか。
ルンルン気分で外に出て、更地になっていた床を芝生へ変える。
そこで初めて俺は気が付いた。
突然家が消えて、新しい家が建ったんだからそら集まるよなあ……。
人間側からもモンスター側からも野次馬が集まってきていたじゃないか。
ん、人間側の群衆が突然割れた。
割れた人垣の間から、マルーブルクがゆっくりとこちらに歩いてくる。
「やあ、ヨッシー」
右手をあげ、マルーブルクは気さくに俺へ向け挨拶をした。
「何かあったのか?」
「いや、昨日の今日では何も無いよ。ボクらは昨日伝えた通りの動きだね」
そう言いつつも、「あの」マルーブルクが用もないのに俺のところへ群衆をかき分けてまで訪れるとは思えない。
彼はいつも飄々としているけど、本国と折衝したりとめぐるましく動いているんだ。
暇だから来たってわけじゃないだろうから……。
「何か用があるんだろう? なんだろう?」
と聞くと、マルーブルクは感心したように大げさに頷いて見せた。
「キミも分かってきたね。いいことだ」
「ま、まあな。君の事情くらいは多少把握しているさ」
「ボクもいずれ暇だからここへってやりたいところだけど……前置きはともかく」
「うん」
「その家、魔法で作ったんだよね?」
「一応な。魔法だけでは構築できないんだけど……」
俺はワギャンらに説明したことと同じことをマルーブルクへ伝える。
彼に伝えてもいいと思ったきっかけは、紅茶のことがあったからだ。
あの時彼は、俺をおだてて食材と金銭を交換しようと持ち駆けてもよかった。俺はあの時にマルーブルクから「食材を買い取ろう」と言われていたら、ゴルダを得るために喜んで食材を出していたかもしれない。
彼にとっても、公国領にとって珍しく質の高い食材の買取は利益になる。
しかし、彼は俺のことを鑑みて、「外に見せるべきではない」と言ったんだ。
俺が狙われるかもしれない危険性と引きこもりたいって願望を満たすには、隠した方がいいってね。
だから、今度は俺の番だと思ったわけだよ。
俺がハウジングアプリを使うためにはゴルダがいる。ゴルダがないと何もできないことを別の形であっても説明することは、俺にとってリスクだ。
しかし、資源(ゴルダ)が必要だと誰かに知ってもらうことで、協力を仰ぐことだってできる。
「なるほどね。じゃあさ。試しにボクの屋敷を作ってみてよ」
「え?」
「いや、屋敷じゃなく集会場の方がいいかなあ。ボクたちのために素敵なテラスを作ってくれたみたいだけど、毎回キミがボクらを家に招くのも気が張るだろう?」
「確かに」
「なあに。元々、集会場は作る予定だったんだ。その資金を……えっとゴミ箱に入れればいいんだよね?」
「ちょっと待ってくれ。入れるなら俺も付き添う。限りある資金なんだろ? 足りる分だけでいい」
「キミは人が良すぎるよ。そのうちいい様に騙されないか心配だよ」
「でも、マルーブルクは俺を騙したりしないだろう?」
「……全く……」
憎まれ口を叩きつつも、マルーブルクは悪い気がしないのか口元にほんの僅かだけ笑みを浮かべた。
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