第7話 決着
必殺の一撃を受けた魔王は力尽き地に伏した。今ならその首をはねることも容易い。
だが・・・
「俺は貴方を殺さない。・・・たとえ魔王になり世界を滅ぼそうとしたとしても、貴方が世界を救った勇者イブである事に違いはないんだ。」
シーティアは剣を納めた。
「それでもし貴方が世界を憎み滅ぼそうというなら・・・俺は何度でもこの剣を振るってやる。・・・それが勇者の役目だから。」
そして納得がいったなら、もう一度姫の元へと帰ってあげて欲しい・・・そう伝えるとシーティアは天空魔城から飛び去った。
「・・・。」
魔王は何も答えず、ただ虚ろな目でその様子を見ていた。
英雄の凱旋・・・アルマージ王国へと戻り魔王が滅びた事を伝えた勇者は皆に歓迎され、大いに感謝された。
だがシーティアは程々にそれに応えると、一直線に城へと向かった。
英雄の余韻に浸るのはまだだ。その前に決着をつけねばならない事がある。
「おお勇者シーティアよ!此度の活躍、見事であったぞ!!」
「必ずや魔王ハベルトを打ち倒してくれると思っておりましたぞ。」
王と大臣は次々に称える。だが隣の姫は人形のように俯いたままだ。
シーティアはそれをちらりと見ると、再び王へと視線を戻した。
「王様・・・貴方は魔王ハベルトの正体をご存知で?」
「正体?・・・いや、我が国を襲う魔物達からその名を耳にしただけで姿を見た事は無いが・・・。何せ奴は天空魔城から出てくる事は無いのでな。」
「・・・そうですか。では聞き方を変えましょう。この国の牢獄から脱出した勇者イブ様が、その後どうなったかご存知ですか・・・?」
きっ、と鋭い目でシーティアが王達を見る。
すると彼等の表情はみるみる曇っていった。
「なっ、何だと?何故お主がそれを・・・まさか!!」
「・・・その通り。魔王ハベルトは・・・勇者イブ様でした。」
動揺したように王と大臣が顔を見合わせる。やかましい弁明が飛んでくる前に、シーティアは言った。
「心配しなくても貴方達をどうこうする気はありません、俺の力を恐れると言うなら・・・すぐにでもこの国を出て行きましょう。・・・でもこれだけは覚えていてください。勇者の力は人を傷付ける為にある物じゃない、勇者は・・・いや魔王だって他の皆と同じように心を持っているんだ。」
本当は一発殴ってやりたい程だったが・・・シーティアは気持ちを抑えくるりと背を向けた。
しかし、彼の行く手を兵達が阻んだ。
「ふふっ、行かせはせん。勇者を魔王に変えてしまったなどと・・・そんな情報をばらまかれてはこの儂の名誉に傷が付くからな!・・・捕らえよ!!何なら殺しても構わん!!」
王の号令と共に一気に兵達が襲い掛かる。
「違う、俺はそんなつもりは!!くっ・・・!火炎中魔法(ネオファイア)!!」
人間と戦うつもりなどない。シーティアは天井に穴を空けると、天空の指輪の力で飛び立った。
「おのれ・・・追えっ!!絶対に逃がすな・・・!!」
王は苛立ちながら叫んだ。
翼で天を駆けながら・・・シーティアは唇を噛んだ。
(どうして・・・どうしてこうなるっ・・・!)
イブは言った、己に待つのは人々に虐げられ・・・滅亡する運命だと。
違う、そうなりはしない。
自分は魔王には・・・ならない。
決意を胸に、シーティアは更に高く舞い上がった。
天空の指輪はあくまで天空魔城へと到達する為のアイテムだ。長距離飛行用の物では無い。
故に、飛ぶ為にはかなりの魔力を消耗する。勇者たるシーティアでも、数分飛ぶのが精一杯だった。
彼はアルマージ王国から少し離れた森に降り立っていた。
「はあ・・・はあ、追っ手は撒けたはずだ。何処かで休まないと・・・。」
見ると、森を抜けた先に小さな村がある。
ここで休ませてもらい・・・翌朝早く、より遠くへ旅立とう。
シーティアは村長に一晩の宿を頼んだ。
「ええ、構いませんとも旅の方。お若いのに大変ですなあ。」
心身ともに披露した様子のシーティアを見て、村長は訳も聞かず快諾した。
今はそんな優しさが嬉しかった。
そして、翌朝・・・。
安心したのか、シーティアは昼過ぎまで寝込んでしまった。
村長の家から出ると、皆が村の中心に集まっている。様子がおかしい。
「おはようございます、これは一体・・・。」
「ひえええっ!!間違いねえ!!」
シーティアの顔を見ると、村人達は一斉に慌てふためいた。逃げ出し腰を抜かし、命乞いをする者までいる。
ふと、その一人が何かを落とす。紙切れ・・・お触れ書きのようだが・・・。
そこに描かれた言葉と似顔絵を見て、シーティアは言葉を失った。
『この者、勇者イブを殺した魔王ハベルトなり。人に化け、潜伏せし。見つけし者はすぐに衛兵まで。』
そこに描かれた顔は・・・正しくシーティアの物だった。
「あの者です!!昨日村にふらりと現れて・・・。」
村長が叫びながら走ってくる・・・その後ろには王国の兵達の姿も。
嵌められてしまったのだ、卑劣な罠に。王や大臣達はシーティアが真実を知らせるより先に、彼を勇者イブ殺しの魔王に仕立てあげたのだ。
シーティアは再び飛び上がりその場から逃げ出した。
彼は悲しかった・・・別に、真実を知らせ王を貶めようなどという気は毛頭ない。
ただ、世界を平和にしたかっただけだ・・・。
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