第2話 誤算
こんな何の変哲もない酒場の主人など相手になるはずが・・・。
シーティアの油断はほんの数手で覆された。
強い。
これまでシーティアは、元々は有名な騎士だったという父に剣を仕込まれ、街一つを支配するという魔王軍の幹部をも打ち倒して来たが・・・
その誰より強いのだ。
「ほらほら、どうしたよ?」
マスターの踊るような剣さばきがシーティアに迫る。
避けようとしてもあまりの速さに避けきれず僅かながら体を斬られ・・・
ならばと受ければ、剣を落としそうな程の衝撃が腕を襲う。
その一手一手が確実にシーティアを追い詰めていった。
(くっ・・・こうなれば・・・多少汚い手だが。)
「火炎中魔法(ネオファイア)!」
僅かに距離ができた瞬間を狙いシーティアが魔法を放つ。
だが・・・。
「火炎強魔法(オーバーファイア)!!」
「何・・・っ!?」
すかさずマスターも魔法を唱えそれを迎撃した。突き抜けた炎がシーティアを襲う。
「ぐわああっ!」
「へっ、どんな手を使ってでも勝ちを取りに来るその心構えは大いに結構、嫌いじゃねえが・・・ほんの少し威力が低かったな。」
ぐるぐると、マスターは腕を回した。どうも運動不足らしい。
「俺はな、魔王グロルドンを知ってるが・・・ありゃ強かった。そして勇者イブはもっと強い。・・・だがお前が相手にしようとしてるのはそれを倒した魔王ハベルトなんだ。並の強さじゃ・・・死ぬぞ?」
「うっ・・・!」
シーティアは悔しそうに歯を食いしばった。その姿を見て、マスターはこう続けた。
「おっと、別に意地悪で言ってんじゃねえんだ。魔王を倒そうってのは立派だと思うしな。ただ、それには少しばかり力が足りねえ・・・だから・・・」
すると彼はシーティアに手を差し伸べた。
「俺が揉んでやるよ。・・・魔王を倒せるレベルまで、お前を鍛えてやる。」
僅か三日・・・。
だが、マスターの鍛錬は飛躍的にシーティアの力を強めた。
「へっ、いよいよだな。」
「短い間でしたが、お世話になりました。」
頭を下げるシーティアの指には、天空の指輪が輝いていた。
「一つ、一つだけいいか・・・?」
「はい?」
がっ、とマスターは踏み出そうとしたシーティアの肩を掴んで引き止めた。
「お前、この世界や人間は好きか?」
「え?・・・はい!勿論です!」
何故そんな事を聞くのか・・・?
答えは決まっている。好きだからこそ、勇者として戦うのだ。
すると・・・マスターは今度はその肩をぽんと叩き笑った。
「そうか。・・・ならいい、その気持ちを忘れるんじゃねえぞ。・・・へっ、頑張れよ。」
マスターに押され、シーティアは力強く踏み出した。
その背に光の翼が生え・・・彼は天空へと舞い上がっていった。
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