勇者は永遠に

クロット

第1話 天空魔城

世界を闇に陥れるべく突如現れた魔王ハベルト・・・。


その討伐に出る為に故郷ミルミラ村を出た勇者シーティアは、世界有数の大国・・・アルマージ王国の王の元へ挨拶へと参っていた。


「お初にお目にかかります、王様。この度魔王ハベルト討伐に出る事になりましたシーティアと申します。」

少年が玉座の前で膝を付く。


「おお、お主が新たな勇者という訳か。頼むぞ、ハベルトを見事打ち破り世界に平和を取り戻してくれ。さすればきっと我が娘の失った心も戻るであろう。」

王は渋い顔で、自身の左に座す美しい女性を見た。彼女は生気を失った目で俯いている。

・・・彼女の名はフィガナ、この国の姫君だ。何でも、魔王軍の脅威に晒され心を傷めたショックでこうなってしまったらしい。


「はっ・・・。必ずや前勇者イブ様のように魔王を打ち破って見せましょう。・・・ところで王様、そのイブ様は一体何処へ?十年前、魔王討伐後にこの国へと移り住んだと聞きましたが・・・。」


十年前、前の魔王を倒した勇者イブ。その名は辺境のミルミラ村にも伝わってきた。

イブこそ、シーティアの憧れだった。姿こそ見た事は無いが、彼のような勇者になりたいと・・・シーティアはずっとそう思ってきた。


「むっ、それは・・・。」

王は何故か眉を顰め視線を逸らした。代わりに、右にいた大臣が前に出る。


「その質問には私めが答えましょうぞ。・・・当然、彼もまた魔王ハベルトが現れた際にはそれを打ち倒すべく名乗りを上げた・・・が、彼は魔王軍に敗れ去り、その命を散らしてしまいましたのじゃ。」

「・・・そ、そうだ。その通りなのだ。」

大臣の言葉に王もうなづく。


「そうか・・・イブ様はもう・・・。」

薄々察してはいたが、残念で仕方がなかった。


「この事はこの国の国民にしか明かしてははおりませぬ。伝説の勇者イブがやられたとあっては余計に絶望を煽るだけですからな。シーティア殿、手強い敵となるじゃろうが・・・何とぞお願い致しますぞ。」


頭を下げる大臣に、シーティアは胸に拳を当て応じた。



城を出たシーティアは、情報収集の為に城下町に出ていた。

鎧にマントをはためかせるその姿は人々に希望を与えた。


「あれが新しい勇者様か!!」

「勇者様!頑張って!!」

「魔王なんかぶっ倒してくれー!」


街行く人々が声を掛ける。その期待を受け止め、シーティアはより一層気を引き締めた。



魔王ハベルトは、前勇者イブにより倒された前魔王グロルドンが根城にしていた天空魔城をそのまま自身の居城としている。

遥かな天空に浮遊しそびえているそれは、そのまま何者もの侵入を妨げた。

いくら勇者といえども空は飛べない。

この城へ突入する為には『天空の指輪』という装着した者に翼を授けるアイテムが必要だった。


『勇者の墓場』

縁起でも無い名前をした街外れの酒場だ。

天空の指輪を探し、シーティアはそこを訪れていた。


この国のどこかには必ず、使われていない天空の指輪があるはず・・・シーティアはそう読んでいた。


前勇者イブが使っていた物が残っていれば容易いのだが・・・彼が魔王軍の手にかかった今、それを見つけるのは困難だろう。

だがもう一つ・・・彼は前魔王グロルドンを倒した際に、グロルドンが使っていた天空の指輪を手にしているはずなのだ。

聡明な彼の事だ、隠すなり託すなりして指輪を残しているに違いない。


もしも自分に何かがあった時の為に・・・。



「・・・むう。」

情報の集まる酒場なら何かを掴めると考えたが・・・何の手がかりも掴めずシーティアは途方に暮れていた。


「へっ、ぼうや・・・お困りのようだな。」

掛けられた声に振り向くと、酒場のマスターがグラスを拭きながらニヤニヤと不気味に微笑んでいる。

長髪サングラスに髭をぼうぼうと伸ばした、胡散臭い男だ。


「ええ、少し探し物を・・・だが無駄足だったかもしれません。」

そう言うとシーティアは溜息をついた。


「へへっ、まあそう言いなさんな・・・あと少しで閉店だ、それまで待ってな。」

やはり不気味に、そして意味深気に・・・マスターは笑った。





そして・・・閉店の時間となった。


「さて、時間だな・・・。まずはお探しの品だが・・・こいつだろう?」

すると、マスターはいとも何気なく、天空の指輪をカウンターにコトッと置いた。


「・・・!これは・・・!!マスター、何処でこれを!?」

かすめ取らんばかりの勢いで身を乗り出すシーティアに、マスターは慌ててそれを拾い上げた。


「おっと、何もやるとは言ってねえぜ。・・・何て、意地悪したい訳じゃなくてな。」

そう言うと、マスターはガチャリと立てかけてあった酒瓶を倒した。

どうやらそれはレバーだったようで、いきなり壁の一部が回転し剥き出しの剣が現れた。


「っ!?・・・一体?」

困惑するシーティアの前で、がっ・・・とマスターはそれを掴み取るとこう言った。


「どーせ宝の持ち腐れだからな、くれてやるのもやぶさかじゃあねえんだが・・・まあ、俺に勝ったらくれてやるって奴だな。」


しゃきん!マスターは剣を構えた。

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