第3話 魔王

天空魔城。


遥かな空にあるそこへは天空の指輪を持つ者しか入れない。よって、勇者は一人でそこに挑まねばならない。


だがそれは相手も同じことだ。例え翼を持つ魔物ですらそこまでの高さには到達できないのだ。


故に、中の警備は薄いものだった。魔王の間まで、一直線だ。




そして辿り着いたシーティアが見た玉座にいた者は・・・意外なものだった。




(人間・・・?)




羽も無ければ角もない、その姿はシーティアと何も変わらぬものだった。


間違いない、彼は人間だ。


だがほとばしるその禍々しく凄まじい力は・・・彼が魔王である事をこれでもかと示していた。




魔王ハベルトは・・・シーティアの姿に気付くとゆっくり玉座から立ち上がった。




「訪問者だと?・・・なるほど、な。ここにいるという事は・・・貴様はそうなんだな。」




自分以外でここに来る者・・・つまりは、勇者。


ハベルトは目の前の少年が倒すべく相手だということを理解した。




「そうだ!俺の名はシーティア!!お前に倒された勇者イブの後を継ぐものだ!!」




ぴくり。シーティアの名乗りにハベルトはその眉を動かした。




「俺に倒された勇者イブ・・・?フフフ、ハッハッハ!!そうか、そういう事になっているのか。」


ハベルトは一人、何かに納得したように笑い出した。




「何がおかしい・・・!」


「フフッ、何でもないさ。さあ、かかってくるといい。何も俺と雑談しに来た訳じゃないんだろう?」


「・・・そうさせてもらう!!」




瞬間、シーティアは抜刀し斬りかかった。


だが、ハベルトはそれを片手で止めると容易く剣をへし折った。




「・・・!」


「どうした、そんなもんじゃないだろうっ!?・・・暗黒中魔法ネオダークネス!!」




急いで距離を取ろうとする相手を逃さんと、ハベルトの紫の魔弾が狙い撃つ。


それはおよそ中魔法とは思えぬ速さと威力だった。




「うわああっ!!」


シーティアはその衝撃に吹き飛ばされた。




「・・・ふん。他愛も無い。どうだ?今なら見逃してやらん事も無いぞ。・・・引き返したらどうだ?」


ハベルトは余裕の微笑を浮かべながら問う。




「・・・嫌だ。お前のせいで一体どれほどの人が苦しみ恐怖してると思ってるんだ。俺は絶対に逃げたりしない。」


シーティアは力強く答えた。




「・・・。では聞こう、その苦しみ恐怖する人々は勇者が世界を救った後、何に恐怖するか知っているのか?」


「何だと?」


「・・・勇者だよ。人知を超えた力を持つ魔王を倒す者・・・即ちそれもまた恐怖の対象でしか無いという事さ。己が苦しい時は半ベソで救いを乞う癖に、今度はその勇者を危険なものとして排除しようとする・・・人間とはそういう生き物なんだ。」


「・・・違う!魔王のお前に何でそんな事がわかるんだ!!」




すると魔王は・・・邪悪に笑い出した。


・・・そしておよそ信じ難いセリフを吐いたのだ。




「ハッハッハ!!わかるさ・・・。フフッ、まだ気付かないのか?貴様が言う勇者イブとは・・・俺の事だっ!!」

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