G:Sakura
新月は、明日――――。
リュータは、1階のソファーに座って、機器類のメンテナンスをしていた。
PCは、今日は朝から珪が使っている。
「ねー、アキィ?」
リュータが、少し困ったような顔をして、正面の一人がけのソファーに足を組んで座る
「そんなにまじまじと見られたら、やりづらいんだけど……」
いつものコーヒーを飲みながら、
「見てて飽きないんだよねー。ここから見ると、ちょうど、タローちゃんの向こうに珪ちゃんの背中があって、なんていうか、日常の風景?いいなぁって」
「リュータだってば。……いつもと変わんないよー?」
リュータは、不思議そうに
そして、傍に置いていた上着を手に取り、徐に立ち上がった。
「俺、ちょっと出掛けてくる」
「いってらっしゃーい」
リュータが、笑顔を向けた。
「いってらっしゃい」
珪も、手を止めて肩越しに
「いってきます」
上着を着ると、
「なに?」
「いーや。なんでもない」
悪戯な笑みを残して、
その日、
「ねぇ、珪ちゃん」
「んー?」
月のない、次の日の夜――――。
リュータと珪は、遅咲きのサクラの木を持つ公園に来ていた。
二人とも上下黒い服を身に纏い、これから、その先の人工の森へ向かう。
「侵入の前に、アキん家寄って行かない?」
「…………後にしない?」
昨日、「出かける」と言って出た後、まだ彼は帰ってこない。
サクラに会いに行く前に、
確かめて、いなかった場合、侵入どころではなくなる。それは、後々リュータを後悔させるだろうし、今回は、
「珪ちゃんが、そう言うなら」
2人は、森へと歩き出した。
桜の木の傍で、リュータが立ち止まる。
「珪ちゃん、覚えてる?」
数歩前で珪が立ち止まり、振り返った。
リュータは、まだまだ咲きそうにない桜の木を見上げて続ける。
「初めて出会った時のこと」
「リュータと?」
珪は、思い出すように眉を曲げて、短く唸った。
「確か、ビルの間の、細い路地……」
「あはは。覚えてないのー?ここで初めて会ったんだよ?」
目を丸くして、珪は、リュータと桜の木を交互に見つめた。
「え?ここ?」
「珪ちゃんが言ってるのは、あれでしょ?俺が落とし物した時でしょ?」
「そう。違うの?」
「この公園で、俺が珪ちゃんに声をかけたのが最初。珪ちゃんの覚えてるのが2回目。3回目は、やっぱりここで、大好きな場所で最高の相棒ができて、俺、もう運命だって思ったもん」
「あー、なんかそんなこと言われて口説かれた気がする」
「今、すっごい実感してる。珪ちゃんが傍にいてくれて、本当に良かったって。珪ちゃんがいなかったら、サクやアキにも出会ってないかもだけど、もし、この状況に珪ちゃんがいなかったら、って思ったら、ゾッとする……」
リュータの言葉を聞いて、珪は、静かに微笑んだ。
「それは、俺のセリフだよ。今、お前がいなかったら、お前と出会ってなかったら、きっと俺は何もできない」
微笑み合うその顔に、決意が見える。
「行こうか、珪ちゃん。取り戻しに」
「あぁ。取り戻しに」
少しずつ崩れていく日常に嘆きながら、それでも、目の前にある、
―― カギになるから ――
そのひとつが、LABまでの道のり。
元4区だった土地を利用して作られた人工の森は、深く広い。LABの関係者でなければわからない入り口と、経路だった。
しかし、珪がこの情報をリュータに見せた時、彼は、真剣な眼差しで口元に深い笑みを浮かべた。
―― やっぱり、ここかぁ…… ――
LABが4区だった場所にあると考えていたリュータは、その場合、施設を作るなら何処なのかを、いろいろと想定していたらしかった。そして、その第一候補が、まさにLABが建つ場所だった。
それなら、入り口は何処であろうと、監視とセキュリティを躱すことさえできれば、リュータにとってはそれほど難解な道のりではない。近道さえできる。
春になれば、何度も通った道。
大好きな人たちと、美味しいものを持ち寄って、幾度も往復した。
リュータがかつて住んでいた、大きな集合住宅から、桜の木の下まで。
昔は雑然としていた町並みは、作られた自然に変わり、名残はまるでない。
「リュータ?」
昔を思い出していたリュータは、珪の声に、ハッと我に返った。
「え?なに?」
「いや、だから、ホントにこの道でいいの?って。アキの情報と、微妙に違うから」
「あ、ごめん。大丈夫。こっちのが近道っていうか、入り口までまっすぐ行ける」
「それから、」
珪は、言葉を切り、リュータの眉間をグッと人差し指で押した。リュータの頭が、少しだけ後ろに倒れる。
「うわぁ」
「眉間にシワ。キレイな顔して、睨まないの」
軽く眉間を弾いて、珪は、悪戯に笑った。
リュータは、無意識に力んでいた自分に気がついた。そして、スッと心が軽くなる、力が抜けていく自分を感じていた。
先へ進むと、やがて、白い半球状の建物が見ててきた。屋根部分は緑化されていて、上から見ると、森と同化しているのだろうことがわかった。
珪は、入り口の傍にあぐらをかいて座り、PCと幾つかの機器を取り出す。それから、
「じゃ、サポートお願いねー」
「はーい」
イヤホンとマイクの位置を確認して、リュータは、建物の中に入った。
明るい色の木の床と、白い壁。
あと少し――――サクラのいる研究室まで。
あと少しで、サクラは、帰ってくるはず。
扉に、「SA」と書かれたプレートがはめ込まれている。リュータは、喜びを顔いっぱいに表して、それを見つめた。
扉の横には、透明なアクリル板が窓代わりに嵌められていた。
ひょこっと、そこから中を覗く。サクラが、真剣な表情でPCを見ている。アクリル板をコンコンとノックすると、不思議そうな顔でサクラは振り返り、そして、顔面蒼白な様子で、目を丸くして慌ててアクリル板の傍までやってきた。
「リューノスケ!何やってんの?!こんなところで!」
「サクー!会いたかったぁ」
「ダメだよ、こんなとこ来ちゃ!」
「サク、いっしょに帰ろう?」
リュータが、アクリル板にグローブをはめた両手をついて顔を寄せると、サクラは、悲しげな顔で、片手を彼の手に合わせた。
「珪ちゃん、外で待ってるし、このあと、アキんとこ行く予定なんだ。一緒に行こうよ!」
サクラは、なにも答えず、悲しげにじっと、リュータを見つめていた。
「もー、サク、仕事しすぎなんだってば。ちょっとは楽しなさい。ホラ、帰ろ?」
それでも、サクラはなにも答えない。2人の間に、嫌な沈黙が流れる。次第に、リュータの中に生まれる焦りと恐怖。このまま、なにもできないような、嫌な予感――――幼い頃と同じ。
「…………サク?」
リュータの顔から、笑みが消えた。代わりに満ちていくのは、深い悲しみと寂しさ。
「ねぇ、帰ろうよ……」
また、ただ奪われるだけ――――。
「サクと帰りたい……。ここ、開けてよ」
「(泣かないで、リュータ。泣かせたいわけじゃない。)俺は、ここを出られない。ごめんな、リュータ」
「(イヤだ……。奪わないで……)サク……」
しかし、サクラは、アクリル板の向こう側で、その名前の通り、儚げに、しかし、凛として美しく穏やかに微笑んでいた。とても、彼らしく。
「花束持って、ちゃんと行くから」
奪われる――――また、ここから。
胸が、ひどく苦しかった。目頭は熱くて、両手のグローブが涙を拭って濡れている。
納得など、できない。
それでも、理解するしかなかった。
サクラは笑っている。彼らしく、穏やかに、凛と。
「わかった……。コーヒー用意して待ってるから……きっと、また遊びに来いよ?」
リュータの言葉を聞いて、サクラが、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、リュータ。またね」
「うん……」
最後まで、名残を残して、リュータは、研究室に背を向け、とぼとぼと歩き出した。
来た道を辿り、珪の待つ扉の向こうへ。
「リュータ……」
扉を開けると、珪がいた。機器類は片付けて、撤収を待つばかりだ。
「……珪ちゃん……」
名前を呼べば、抑えていた苦しさと悔しさと、悲しみが、一気に溢れた。
珪は、辛さと悔しさをにじませた表情で、それでも微笑んだ。
「帰ろう、リュータ」
「うん、かえるっ…………」
声が震える。それだけ言うのが、精一杯だった。
顔は涙で、ぐしゃぐしゃになっていた。
公園を出ると、リュータは一度立ち止まった。右が
涙で赤くなった目元を隠すことなく、ぼんやり地面を見つめる。
歩き出したのは、左。
珪もリュータも、口を開くことなく、ただ家までの道を歩いた。
玄関を開けると、明かりのない暗い空間が広がる。
「シャワー浴びてくる……」
力なく呟いて、リュータは、風呂場へ歩いていった。
それを見送って、珪は、荷物を片付けると、キッチンへ向かった。後悔しか出てこない。今、ソファーに座ったら、その感情に押しつぶされる。
何故、一緒に行かなかったのだろう。
何故、こうなるまで気づかなかったのだろう。
何故、リュータは、これほど辛い経験ばかりを背負ってしまうのだろう。
彼の背負うものを、軽くしてやりたいと思いながら、その方法が、わからない。
きっと、あのカーテンの向こう、リュータは、今も泣いている。
「(……無力だな、俺は……)」
ゆっくりとカーテンが開けられる音がして、珪は振り返った。
真っ黒な格好のままのリュータが、2人がけのソファーへ歩いてきて、そのまま倒れ込んだ。
調理台の上には、トレーに乗せられた丼の中に、優しく湯気を上げるうどんがある。具は、蒲鉾とわかめ、それから斜めに大きく切ったネギ。
珪は、トレーの上のうどんを、ソファー前のテーブルへ運んだ。
「お腹空いただろ?食べよう」
「…………うん」
のそりと、ゆっくりした動作でリュータが体を起こす。座り直して、テーブルのうどんを見て、泣きはらした顔で笑った。
「美味しそう」
「召し上がれ」
いつものように丁寧に咀嚼して、ひと口食べたあと、リュータはもう一度笑った。今度は、珪を見て。
「あったかいね」
「あぁ……」
日常がここにはあるのに、同時になくしたものがある。
「リュータ……」
珪は、食べる手を止めて、真剣な表情で彼を見た。
「……ごめん。俺、何もできなかった。せめて、お前と一緒に行けばよかったよ。ごめんな……」
リュータの目に、涙が滲んでいく。
「今言わないでよ、珪ちゃん。うどんの味、わかんなくなるっ……」
「あ、悪い……」
リュータは、ごしごしと服の袖で涙を拭った。
「俺は、珪ちゃんがいてよかったって思ったとこだったんだからぁー……」
「悪かったよ、空気読めなくて。ゆっくり食べてください」
「……はい」
答えるリュータの顔は、涙と鼻水で濡れていた。珪が、黙ってボックスティッシュを差し出す。
「ありがとう……」
* * * * *
LABに侵入した日から、一週間がたっても、1ヶ月が経っても、サクラも
リュータは、あの日から、1人になるのを極端に嫌がった。珪が行くところには、必ずついていった。彼にとって、大切な人を奪われるのは、これで2度目。当然といえば、当然の状態だった。
しかし、それは珪も同じだった。リュータがいないと、どこか落ち着かない。それでも、リュータ程ではないのは、彼が自分を置いていくはずないという、根拠のない自信と、リュータの方から自分についてくるからだった。
あれから、1年――――今年も桜は、咲いて散っていった。
今は、遅咲きの桜が咲いている。
数年前、サクラの出版祝パーティーをしたことを、リュータも珪も思い出していた。これから先、春が来る度に思い出すのだろう。
賑やかな、日常の風景を。
「珪ちゃん、今日、行きたいとこあるんだけどさぁ」
カメラの手入れをしながら、PC作業をしている珪へ声をかけた。
「どこ?」
「出会った場所へ」
リュータは、そう言って、ニヤリと笑った。
「いいよー」
午後、太陽の暖かな日差しの中を、2人は、1年ぶりにあの公園へ向かった。
街中の桜は、もう緑の葉を広げている。
1年ぶりに来た公園の中では、遅咲きの桜が、満開になっていた。
近くの店で、コーヒーをテイクアウトして、果物やら甘いお菓子も買って、2人は、桜がキレイに見える公園のベンチに座った。
「すっげー。改めて見ると、キレイだなー」
「でしょ?俺の思い出。いろぉんな、思い出が詰まってる場所」
「ハジメテの場所か」
珪の言いように、下世話な響きを感じて、リュータは、呆れ顔で彼を見た。
「……珪ちゃん、言い方」
珪は、それを笑い飛ばして、桜を見つめる。そうしていると、ふと思い出すことがあった。
「あれ?お前さぁ、もしかして、初めて会ったときも、カメラ持ってた?」
「あ、思い出した?そうだよ。この公園で、珪ちゃんが桜に見とれてたのを、撮らせてって言ったのが、最初」
「あぁ!あのときの!」
第一印象を思い出して、珪は、声をたてて笑いだした。リュータが、隣でそれを、訝しげに見ている。
「思い出したー!俺、あの時、一瞬男なのか女なのか、迷ったんだよ」
「うわっ、失礼なっ!」
「だって、もっと華奢だったしさ。あー、あと、お前がやけに楽しそーにカメラもって現れたから、撮られてもいいかなぁって思ったんだよな。考えてみれば、あの時から、お前は俺の道しるべだったのかもな」
「道しるべ??」
「俺を惹き付けて、飽きさせない存在」
「あはは。珪ちゃんにそう言ってもらえると、光栄です」
1年前とは違う、新しい日常が、生まれ始めていた。
すこしずつ、前に向いて。
その時、珪が体にかけているウエストバッグの中で、ケータイがメロディーを奏でた。
「はーい」
電話の相手は、史那だった。
「珪ちゃん?」
「久しぶりー。なに?」
「そこに、リュータもいる?」
史那の声は硬く、緊迫したようにも感じて、珪は、戸惑うしかなかった。
「いる、けど?」
「今から、こっちに来られる?」
「え?診療所に、ってこと?」
「そう。すぐに、こっちに来てくれる?リュータも一緒に」
「……わかった」
戸惑いのまま、珪は、通話を終わらせてケータイをもとの通りにカバンに入れた。
「誰?史那?」
「あぁ。今すぐ、診療所に来てくれって」
「珍しいねー。なんだろう?」
「とりあえず、行くか」
まだ残している果物やお菓子を手に、2人は公園を後にした。
史那の診療所は、この時間は昼休み中だ。ガラスの扉に、午後の診察時間を知らせる札が、内側からかけられ、カーテンが閉まっている。
鍵のかかっていない扉を開けて、中に声をかけると、受付から史那は顔を出した。
「こっち」
挨拶もなく、辛辣な表情で受付の中に案内される。
珪もリュータも、胸がざわつくのを感じた。嫌な予感しかしない。
「これ……見てくれる?」
史那が示したのは、彼のPCの画面だった。表示されている、ひとつの通知。
珪も、リュータも、表情をなくした。
言葉が出てこない。
理解ができない。
『 サクラ博士の死亡を、お伝えいたします。 』
前置きと、後に続く言葉が添えられた、A4用紙なら半分に満たない、事務的な文書。
簡素なそれは、メールで届いたものだった。
「…………なに、これ……?」
いつもよりも低い声で、リュータが呟く。
言葉なく、ただじっと画面を見つめていた珪は、リュータの声で我に返った。
「サクはどこだよ……?」
リュータらしからぬ、低く唸るような声が、部屋に響く。その声が、震えていた。
答えは、どこからも返ってこない。
「サクの体は、どこなんだよっ!」
グッと拳を作り、リュータは叫んだ。
「リュータ……」
彼の中の感情を思うと、珪は、かける言葉が見つからなかった。
「あるはずだろ?!死んだっていうんなら、その体がどっかにあるはずだろ!こんな通知ひとつで死んだとか、バカにすんな!!納得できるか!!」
振りまいているのは、怒りか、悲しみか、絶望か、それとも、その全てか。
「何なんだよ!……何だと思ってるんだよ、あいつら!俺……俺たちを!!」
リュータの声は、いつの間にか、涙声に変わっていた。
「サクラを返せ!!」
そのまましゃがみこみ、リュータは、大声で泣き始めた。
収まるまでは、見守るしかない。
珪は、リュータの隣に座り、彼の爆発した感情が収まるのを待った。
やがて、泣き声が小さくなり、なにも聞こえなくなった頃、珪が、リュータの肩にぽんと手を置いた。
「落ち着いた?」
「なんで、珪ちゃん、そんな大人なの?」
「大人な訳じゃないよ。ムカつくし、怒ってるし、悔しいし、でも、さっき、リュータが全部言ってくれたから」
「そっか…………」
リュータの表情が、少しだけ和らいだ。
「リュータ、口開けて?」
「え?」
「え、じゃなくて、あー」
「あー?」
珪は、ニヤリと笑って、そこに残っていた形のよいイチゴを押し込んだ。反射的に、リュータは、モグモグと食べていた。
「幸せの味」
珪が、にやりと笑ったままで、そう言った。
思わず、リュータも笑顔になる。
「ふふっ」
コーヒーの香りがする。
リュータが振り返ると、史那が、トレーにカップを3つ乗せてテーブルに置くところだった。
リュータは立ち上がり、開いたままのPCを見つめて口を開いた。
「ねぇ、珪ちゃん、」
「ん?」
「俺、今日から“さくら”になる!」
「は?」
訝しげな顔をして、珪は、立ち上がった。
リュータは、強い決意を表した瞳で、まっすぐにディスプレイを睨みつけていた。
「サクとアキが帰ってくるまで、リュータじゃなくて、“さくら”になる。リュータは、隠しとく」
「リュー……」
「さくら!表記は、桜に蔵」
そこへ、4人でいたリュータを隠して。
「桜蔵ね」
「史那ー、コーヒーありがとう」
リュータは、いつもと同じに笑って、テーブルの上のコーヒーを手に取った。ひとくち飲んで、美味しいとご満悦だ。
「なぁ、桜蔵?」
「なぁに?」
「俺、サクは生きてると思うんだけどさ」
「珪ちゃん、」
「あいつが、そう簡単に死ぬと思えない。病気とか聞いてないし。でしょ?史那センセ」
史那は、一言「まぁね」と笑った。
「アキとサクがなんか企んだとしか思えない(俺に、研究データなんて消させるし)。だから、取り戻そう、桜蔵」
「うん!取り戻す!」
* * * * *
あれから、4年が経ったが、
「桜蔵ぁー、そろそろ史那センセのとこ行くよー」
2階で支度中の桜蔵へ、珪は叫んだ。
桜蔵は、すぐに吹き抜けの柵から顔を覗かせた。
「お待たせー」
カンカンと、階段を降りてくる音が、室内に響く。
「イチゴ大福とー、おつまみとー、シャンパンとー、」
birthday partyの持ち物をひとつひとつ挙げて、桜蔵は、すこぶる機嫌がいい。
史那の診療所は、変わらずにそこにある。サクラも
今日は、party。
診療所ではなく、2人は、住居スペースの入り口へ回った。桜蔵が、扉を開けて中に声をかける。
「史那ー」
「お邪魔しまーす」
今日は、party。
2人を取り戻すための、予祝の集い。シャンパンを入れた、3人のグラスが合わさる音が響く。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
変わらずに傍にあるもの、ここが今味わえる、桜蔵の幸せ。
ー第0話:END and continue……
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