F-1/2:カラ


 次の新月の日――――LABに侵入する。

 大切なものを、取り戻すために。

 大好きな時間を、取り戻すために。

 もう、奪われないために――――。


 リュータは、ひとつの公園に来ていた。そこは、アキの家から珪の家までの道の途中にある、大きな公園だった。隣接するように、人工の森が広がっている。

 オレンジ色が、西の空を彩る。

 枝を広げる、一本の桜の木。

 小さな芽が、細い枝のあちこちに見える。

 ここで、昔、何度も花見をした。

 身寄りのない小さな子供だったが、育ててくれた大人たちは優しくて、血の繋がりはなくても、家族より強い絆があって、あたたかい空間だった。

 ここは、かつて4区だった場所。

 リュータが暮らしていた場所だった。

 目を閉じれば、瞼の向こうに、会いたい人たちの姿が浮かぶ。笑顔で名前を呼んでくれる。一筋、涙が頬を伝った。

 公園の向こう、広がる人工の森も、あれは、自分たちの駆け回っていた場所だ。暮らしていた。生活があった。昔、そこにあったのは、木々ではなく、雑居ビル、古びたマンション。

「(これ以上、なにも奪わせない…………!!)」

 珪が集めたセキュリティの対策と、アキが作ってくれた機器と、考えている侵入の計画。サクラのところまで行けば、きっと、サクラは、賑やかな毎日に戻ってくる。そこまで辿り着けたら、盗み出せるはず。

 リュータは、強く強く、公園の向こうの森を睨みつけた。

 LABは、ここにある。

 アキのくれたヒント――――自然の中の不自然。

 リュータが出した答えは、ここだった。

 ここは、人工の森。そして、かつての4区で、それを潰して作られた場所。

 リュータにとって、一番不自然な場所だ。

 不意に、上着のポケットの中でケータイが鳴る。

 リュータは、我に返った。

 画面に記されたのは、珪からの電話の受信だった。

「はいはーい」

『リュータ、帰りに好きな揚げ物買ってきて』

「えー、俺の好きなのでいいの?」

『予祝するって言ったの、リュータだろ?』

「わぁーい。そーだったー。今すぐ買って帰るぅ』

 珪の声を聞いた途端、心はもう、浮かれ始めていた。

『じゃあ、よろしくー』

「珪ちゃん」

『ん?』

「珪ちゃんって、ホント天使だねー」

 その声は、心に巣食うドロドロとした感情を、浄化してくれる。

 あの存在は、笑顔をくれる。本当の笑顔を。

『お前が言うか?』

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