E-1/2:大事

「ちょっと、アキ、あの写真なんなの?」

 LABの研究室で、サクラは、久しぶりに訪問してくれた親友に抗議した。メールで届いた、アキ、珪、リュータの、賑やかな写真だ。

 当人は、サクラのデスクチェアに座り、PCを弄りながら楽しげに笑った。

「いいだろ?あれ。この前、あの二人が来たときに、お前に送ってやろうって、珪ちゃんが言い出して、みんなでふざけてた。ついでにさぁ、懐かしい写真送ったから」

「え?まだあるの?」

「これ」

 PCの画面に写っているのは、幼い頃のサクラとアキの写真だった。アキの後ろから画面を見つめ、サクラは、優しく目を細めた。

「うわぁ、ちっちゃーい。懐かしいな……」

「だろ?」

「ありがとう、アキ。この前の写真も、見てると元気でる」

「お礼は、リュータに言って。あいつが、俺にフォトブックをくれなきゃ、この写真はない」

「リュータ……」

 サクラは呟いて、スライドショーで流れていく写真を見つめた。

 そして、気を引き締めるように息をついた。

「で、今日はLABまで何の用?」

「この前、チップのサンプル置いてったろ?それの、打ち合わせ。あと、ついでにここの最先端の材料を使って、内緒でアレ作ってて」

 悪戯な顔で笑うアキに、サクラは、頭を抱えた。

「……アキ」

 アキの言う「アレ」に、サクラは見当がついた。

 眼球型機械――――以前、2人で話をしていたモノだ。ヒトの目以上の機能を持ち、義眼としても利用可能なモノ。それを作るとしたらと、アキは、設計図まで作っていた。

「形になってきたから、お前にも報告しとこうかと思ってさ」

「こんなとこで、なに作ってんの?!」

「見る?」

「アキ……」

 こんなところで新しいなにかを作り出せば、そしてそれが、目に留まってしまえば、どうなるか。

「お願いだから、誰にも見つかるなよ?」

「わかってる。ほら、これ」

 アキが鞄から取り出したのは、透明な、円柱型のケースだった。手のひらに収まるほど小さなケースを、デスクに置く。ヒトの眼球にしか見えないものが、液体のなかで浮かんでいた。

「…………グロい」

 サクラの呟きに、アキは呆れ顔を向けた。

「グロいって。お前が言うか?」

「これ、完成品?」

「まだ。でも、あとちょっと弄れば、できあがり。でさ、サクラに意見聞こうと思ってさ」

 サクラは、アキがそう言う前から、専用の手袋とピンセットを用意していた。

 ケースから慎重に取り出して、観察を始めている。

「グロいって言うわりに、結構マジで見てる……」

「だって、アキと話してたアレでしょ?スゴいねー。本当に形になってる」

 サクラは、目をキラキラさせていた。大好きなおもちゃを見つけた子どものように。

「アキ、これもう一回り小さくならない?リアリティを求めるなら、そうだな、あと2ミリ小さくして?」

「努力しまーす」

 2人は、ここがLABであることも忘れて夢中で話をした。それは、サクラに呼び出しがかかるまで続いた。

「悪い、長居した」

「いや。楽しかったよ。あ、そうだ、それの名前、どうするか考えた?」

 タブレットを抱えて、サクラが支度をする。

 アキは、ちょっと考えて「いや」とだけ答えた。

 サクラは、楽しげに笑った。

「EyesとAndroidでEyesroid」

「アイズロイド……」

 呟いて、アキも楽しげに笑った。

「いいね」

 LABから出るまでの間、アキの頭の中は、Eyesroidのことで一杯だった。あと2ミリ小さくすること、この名前。

 自然と笑みがこぼれていた。

 上手くやれている、つもりだった。

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