D-1/2:仲間

 キッチンで、パーティーの残骸を片付けていたリュータは、チラリと後ろを振り返った。機器が収められた棚を前にして、珪とアキが、夢中になって楽しげに話し込んでいる。

 時計の針は0時を越え、birthdayは終わったと、リュータが片付けをかって出たのだ。

「あの2人、何やってんの?」

 隣で、後片付けを手伝ってくれているサクラは、振り向くことなく軽く笑った。

「お前にはわからないレベルの、大人の遊び」

「えー?なにそれー。アヤシー!」

「ドロボーがいう?それ」

「あはは」

「そういえば、タローちゃん、アキにいろいろ作ってもらったんだって?」

 リュータは、イタズラな笑みを浮かべた。

「すっごい使い勝手よくて、助かってるー」

 メンテナンスの仕方まで、アキは丁寧にレクチャーしていた。

「ねぇ、サクー。今日は、2人とも泊まってくでしょ?」

「アキは、もうそのつもりだろうけど、急にいいの?」

「うん!お客様用あるから!珪ちゃんの朝ごはんもおいしいよー」

 リュータが「お泊まりだ」とはしゃぎだす。それを見て、サクラは、目を細め微笑んだ。少し、寂しげに。

「なら、せっかくだから、ここに布団4つ敷いてさ、みんなで寝てみる?」

 サクラの提案を聞いて、リュータの目はキラキラと輝いた。

「珪ちゃんに聞いてみるー!!」

 駆けていく背中を見送って、サクラは、切ないため息をついた。

 リュータのbirthday partyをやると決めた日、サクラは、LABへ出掛けていた。答えを告げるために。

 もっとも、告げる答えなど、サクラに選べるはずもない。「はい」か「わかりました」以外に、用意されてなどいないのだから。

 その日から、史那の診療所で働きながら、時々、LABへ出向いている。サクラが、唯一出せた条件だった。

 今の生活を、できるだけ保ちたい。

 しかし、今の時点で、割合はLABの方が多い。

「サクー!」

 リュータが嬉しそうに戻ってきた。

「こっち終わったら、布団運ぼう?珪ちゃんに、OKもらってきた」

 リュータの笑顔につられる。サクラは、微笑みを返して、中断していた作業を再開させた。

 ソファーとテーブルを動かして、4枚の布団を敷く。そこから、またひと騒ぎして、結局静かになったのは、深夜2時を回っていた。

 サクラは、3人が眠ったであろうことを感じて、半身を起こした。

 暗闇の中に、3人それぞれの寝姿が浮かび上がる。

 珪は、うつ伏せで枕を抱えている。アキは、サクラの方へ体を向けているし、珪の隣で、リュータは、きれいな仰向けで眠っている。

 サクラの布団は、リュータとアキの間だった。

 左右を見て、サクラは泣きそうな顔で微笑んだ。

「サークーラ」

 眠ったと思っていたアキからの声に、サクラは、驚いて目を丸くした。振り向くと、手で頭を支えて、少しだけ体を起こしたアキが、こちらを見て、彼らしい明るい笑みを浮かべていた。

「プレッシャー?」

「最悪を予感してたとこ」

 サクラが笑ってみせると、今度は、反対側から声がした。

「じゃあ、あとは、対策するだけだね」

 リュータが、大きな目でこちらを見ていた。

 その向こう側で、珪が、少しだけ体を起こして、クールに、どこかいたずらに笑った。

「水くさいんじゃないの?俺たちも混ぜて?」

 サクラが、今度は、楽しげに笑った。

「さっさと、LABと手が切れるようにするよ。とっとと仕事終わらせる」

 早く、この仲間の元に、帰って来られるように。

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