C-1/2:No.

「お前、風邪とかひくんだなー……」

 妙な感心をして、珪は、ベッドに沈むリュータを、腕組みをして見下ろした。

 サクラのスーツ姿を見て、散々茶化した数日後、リュータは、熱を出した。

「俺も、同じこと思ってたぁー」

「動ける?」

「ん?うごけるよ?」

 なぜ、そんなことを訊くのか、とリュータの顔に、分かりやすく書いてあるようだった。

「よし、なら史那のとこ行くぞー」

「なんで??」

「なんで?じゃないだろ?診てもらって、さっさと治せよ」

 2人の間に、沈黙が続く。そして――――。

「いい。寝てれば治るよ、たぶん」

 布団をかぶり直すリュータを見て、珪がニヤリと意地悪に笑った。

「へーえ。そうか、そうか。そんなに行きたくないかぁ。だーいじょうぶ、注射はされないって」

「なんのこと?」

 リュータは、珪の言い様に、むくれ顔を布団から出した。

「病院こわいんだろ?」

「怖くないよ。行ったことないもん」

「え?一度も?」

「一度も。ねー、史那のとこ、珪ちゃんも行く?」

「病人1人で行かせないでしょ」

「……仕組みが、わかんないんだけど」

「仕組みって……」

 そこまで言って、珪は、気がついた。彼の出生と、今までの人生が、どんなものだったのか。

「あー……そっか。わかった。史那のとこだし、社会勉強にはちょうどいいかもな。社会登録ナンバー、どこに保存してる?」

「……んー、覚えてない。ケータイかな?」

 この世界から国がなくなったとき、同時にできたのが、社会登録ナンバー。生まれると同時に、番号を与えられ、それにより、手続きや、銀行、病院など各証明や登録、保険が可能だ。

 リュータが、昔は持ってなかったものだ。

 時々、思い知らされる。

「リュータ」

「なにー?」

「今、楽しいか?」

「えー、病人にそれ聞く?」

「でしたね……」

「まぁ、幸せだけどねー。熱あるけど」

 その答えに安堵して、珪は優しく微笑んだ。

「診療所行くか」

「ちゅうしゃ、って、怖いの?」

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