B-1/2:予祝

夜空に半分の月が輝く。春とはいえ、さすがに、夜はまだ寒かった。上着のポケットに両手をしまって、リュータ、珪、サクラは歩いていた。史那は、ルートが違うため、先程別れたところだ。

「リュータ」

珍しく、サクラが正しく名前を呼ぶ。リュータは目を丸くして、サクラの方を見た。

「今度、リュータの過去こと聞かせてよ。リュータの話が聞きたい」

 リュータの顔が、徐に喜びへと変わり、満面の笑みとなる。

「うん!」

 遅咲きの桜が、脇の公園に一本植えられている。見事に咲きほこり、月明かりと街灯に照らされ輝いていた。サクラとそこで別れ、2人で夜道を歩く。

「珪ちゃん」

「ん?」

「俺、生まれてきてよかったよ」

リュータの身体中から、喜びが溢れていた。これ以上ないくらいに幸せそうな微笑みが、彼の端正な顔を象る。

 珪は、それを見て自然と微笑んでいた。まるで、リュータの微笑みが伝染したように。

「そうか」

「あの時、負けないでよかった。苦しいとか悲しいとか…………もう、いなくなりたいとか。ありがとね、珪ちゃん」

「俺の方こそ」

 そう返して、珪は、昔を懐かしく微笑んだ。

「組織のなかで、腐らなくてよかったよ。お前と出会ってよかった。今、スゲー楽しいわ」

 2人の笑い声が、重なる。

「珪ちゃん!帰ったら、もっかい、乾杯しよう!」

「なにに?」

「未来に!俺たちの、賑やかで楽しい未来に!」

「いーね!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る