A- 1/2:2人

アキは、一人、金属製の小さなケースを片手に、裏通りを歩いていた。人通りの少ない細い裏通り。そこに、一つの診療所があった。古びた看板に「芝表通り医院」と書かれた、3階建ての建物に入る。

「シナ先生ー。サクラ、下?」

史那シナと呼ばれ、受付から顔を出したのは、髪の長い、長身の男だった。書類に落としていた優しい目を、アキへと向けて、短く「あぁ」とだけ答え、微笑んだ。

アキは、Staff Onlyと書かれた扉の中央に、手の平を一度押し当てた。するとそこが青白く光り、直後、ピッという音と共に、解錠音がきこえた。

扉を開け、コンクリートの階段を下っていくと、カーテンの仕切りがある。ケースを持たない手でそれをよけて中に入ると、そこは、研究室となっていた。

「サークラ」

入り口に背を向けていた白衣のサクラが、笑顔で振り返る。

「アキ」

「“サンプル”持ってきた」

アキが、ケースを胸の高さに掲げてニッと笑った。

サクラは彼へと歩み寄りながら、それを、驚きの表情で見つめた。

「え?ウソ?!あんなにイヤがってたのに……一番乗りなんだけど。え?因みに何を想像したの?」

「何聞いてんだよ……」

サクラにケースを渡したアキは、やれやれとため息をつきながら、近くの椅子に座った。

「つーか、こんな大層な入れ物持ってきといて、よく言うよ」

「あはは。でも、一番茶化してたクセに」

「俺もある意味、研究者だからな。サクラの気になったら突き詰めたい気持ちは、よく分かる。それに……――――」

言葉を切り、アキは、サクラを見て柔らかに笑った。

「他でもない、親友サクラの頼みだし?」

「ありがとう、アキ」

「貴重な俺の、大切なDNAだ。ありがたく使えよ?」

「足りなくなったら、またお願い」

「オイ……」

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