-Sakura-
A:4人
「俺、今日から“さくら”になる!」
強い決意を表した瞳は、まっすぐにディスプレイを睨みつけていた。
珪と
そして、サクラを、
「桜蔵、
「えー?なにぃ?」
今は訪問者のいないこの家に、
「招待状。月末にBirthday Partyだってさ」
「Birthday……あ!」
「一応、聞くけど、行く?」
「行くー!そーだ。珪ちゃんは、何ほしい?」
数年前までは別の名前を持っていた桜蔵が、今のように笑っていた。
「なんで、俺?俺のためのPartyじゃないだろ」
「えー?だって、サクと珪ちゃんの誕生日、2日しか違わないし。何ほしい?」
「ん~、
「え?!それ、早く起きて並ばなきゃ買えないヤツじゃん!」
昔の桜蔵は、1人で、徹夜をして買いに行っていた。今は、珪が彼を起こして2人で買いに行く。
「桜蔵が早起きすんのが見たい」
「そこなのー?それ、イチゴ大福じゃなくてよくない?」
「誕生日には、イチゴが付き物だって言ったの、お前だろ?」
毎年、11月の月末に開く「Birthday Party」は、数年前から、主役のいないパーティーとなっていた。
11月26日、サクラの誕生日――――。
主役がいなくても毎年開催しているのは、彼が何処かで生きているのではないかと、そして、いつか戻ってくると、誰もが思っているからだった。
「とりあえず、
「はーい」
桜蔵が、弾むように答えた。
それは、約9年前――――。
桜蔵が珪と出会って1年が経つか経たないかの頃だった。
まだ、セキュリティも空調も改良前のこの家に、哲とサクラがやってきた。
扉横のパネルに示された5桁の数字を押せば開く玄関扉。それが、住人は中にいるにも関わらず、カチャリと音をさせて開いた。
「珪ちゃん、いるー?」
低すぎない男の声が、吹き抜けの1階に響く。玄関の引き戸を開けて、男が1人入ってきた。
「アキ!」
目を丸くして、珪は、それまで座っていたソファーから立ち上がった。
彼の視線の先、入って来たのは、金に近い薄茶色の伸びかけのストレートショートの髪をした、茶色い目を持つ男、
伸びかけの髪のせいで、表情が少し隠れてはいるが、楽しげに微笑んでいるのが、彼の持つ空気でよくわかった。
そして、彼の後に続くようにして、室内の様子を窺いながら入ってくる男がいた。茶色い短い髪と黒い瞳、そして細身の体つきをした男だった。
「久しぶり、珪ちゃん……って、あれ?先客?」
「アキ、久しぶり~。先客じゃなくて、同居人の」
この頃、桜蔵はまだ「桜蔵」ではなかった。PCに向かっていたため、デスクチェアに座ったままだった彼は、珪の言葉で立ち上がった。
この頃の名前は――――。
「リュータ」
リュータは、その大きな目で、じっと
「リョータ?」
「リュータ!」
初対面の
「リュータね、ハイハイ」
楽しそうに笑う
「俺、珪ちゃんの元同僚で、アキ。はじめまして」
「あ、はじめまして」
むくれ顔を改めて、リュータは返した。すると、
「あはは。いい子~。あぁ、そうだ。俺の友人連れて来た。こいつ、サクラ。昔からの友だちで、今、医者やってる」
それまで室内を見回していたサクラが、2人の方へと視線を向けてニコリと笑った。
「どーも。えっと、珪、さんと……リョー……」
「リュータ!」
サクラの迷いを遮るように、リュータは、2度目の訂正をした。
サクラが申し訳なさげに笑った。
「ごめん、ごめん。アキがややこしい間違え方するから、わかんなくなっただろ」
「俺かよ」
けらけら笑いながら、
サクラは、それを見送ったあとで、改めて、リュータに自己紹介をした。
「リュータ、ね。よろしく。俺はサクラ」
「よろしく」
リュータも、今度はニコリと笑った。
「これ、おみやげ」
そう言って、サクラが差し出した紙の手提げ袋からは、コーヒー豆のいい香りがしていた。濃茶色の紙袋に、ベージュいろで「R」の文字が大きく書かれただけの、シンプルなデザイン。「R」の文字は、よく見ると、たて棒のラインは、ホームページのアドレスでできていた。
「あ」
「あ」
紙袋を見て、リュータと珪は、同時に小さく声をあげた。
「え?」
紙袋を差し出した形のまま、サクラは、不思議そうに2人を見つめた。
答えたのは、珪だった。
「これ、この前、お前がしてた仕事だよな?」
「……うん!」
殊更に嬉しげな声で、リュータは答えた。
「うわぁ!こんな身近で自分のデザインしたの見るとか、感動~!普段は受けない仕事だったけど、やってよかったぁー」
サクラから紙袋を受け取って、リュータは、改めて、まじまじと自分がデザインしたロゴを見つめた。
「サク、ありがとー!」
「どういたしまして」
子どものように喜ぶリュータをみて、サクラが笑った。
珪はそれを、驚きの表情で眺めていた。
「(もう呼び名が変わってる……)そのロゴ、コーヒー豆の店だったよな?淹れるからかして、リュータ」
「俺も手伝う~!」
キッチンへ向かう珪に、リュータが嬉しげについていく。弾むようなリュータの少し小さな背中と、クールで広い珪の背中とを見つめながら、サクラは
「アキと珪さんは、警捜で一緒だったんでしょ?」
コーヒーを用意する広い背中に、サクラが言葉を投げる。
警捜は、国際警備捜査機構の略称だ。
珪が、肩越しにサクラを振り返る。
「俺は、辞めてるけどね」
その答えに、
「俺も、辞めてるけどねー」
「え?!マジ?!」
珪は思わず、コーヒーメーカーをセットする手を止めた。
「なんで?」
「珪ちゃんが、それ聞く?」
明るく笑いながら、
「あー……まぁな」
苦笑いで表情を引きつらせ、珪は、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。
室内に、コーヒー独特の香りが満ちていく。
「今は?何やってんの?」
背を向けたまま、珪が訊ねた。
「個人で細々とプログラマー。あと、依頼を受けて、メカニック系も作ってる」
「え?メカニック?」
温め中のコーヒーカップをそのままに、ソファーへ駆け寄る。そして、1人掛けのソファーの背越しに、リュータは
「アキ、メカニックも得意?」
その目は、真剣そのもの。
「うん。むしろ、そっちが得意。なんで?」
「あのさ!」
リュータが、その灰色がかったターコイズの瞳を、キラキラと輝かせて話そうとした時だった。
「待った!」
珪が、慌てたように、キッチンからスタスタと戻ってきた。
「タローちゃーん?お前、なに頼もうとしてる?」
「リュータだってば!いーじゃん。珪ちゃんの友だちなんだし」
「ホント、わかってくれ。俺はともかく、フツーの人は、そういうの受け入れねーの」
「え?でも、珪ちゃんの友だちだし」
リュータはポカンと珪を見上げている。
「だーかーら!お前の仕事、なに?」
「グラフィックデザイナーと、ド……――――」
当たり前のように答えようとするリュータの口を、珪は、慌てて手で塞いだ。察してほしかった珪の思いは、通じなかったようだった。珪は、がっくりとうなだれて、両手をリュータの肩に乗せた。
「タロー、頼むから、そこは隠せ」
「あー、そういうこと。……って、だから、リュータ!」
「珪ちゃん、タローって!」
「リュータって名前の面影、どこにもないじゃん!」
珪は、二人の興味が逸れたことにホッとしていた。
「リュータローだから、タロー」
「リュータ!!」
コーヒーを入れに戻る珪を、リュータが追いかける。
部屋は、コーヒーの香り。満ちていく、4人分の明るい笑い声、少々のむくれ声。
この時、この家は、賑やかさに溢れていた。
* * * * *
「珪ちゃん、いるー?」
サクラを連れてきた日から、
今日は扉を開けずに、中へ声を投げてきた。
珪は、朝食を作る手を止めて彼を招き入れると、キッチンに戻った。
「早くないか?まだ、9時半」
「早くないでしょ。もう、9時半」
「リュータは?」
「あいつが、この時間に起きてたら、奇跡だよ」
「……見てきてもいい?」
見上げたまま、
珪は、彼に背を向けたままで答える。
「あぁ。ついでに、起こせたら、起こして。上がって、すぐの部屋」
珪の「起こせたら」という言い様に疑問を抱きつつ、
2階に来ても、扉の前に立っても、リュータの部屋からは物音ひとつしない。扉を3回ノックして、寝ているらしいリュータを呼んでみる。
「おーい、リュータ!起きてるー?」
中からの返事はない。
扉を開ける。正面に見える窓は、青いカーテンががっちり閉まってはいるが、日の光はさすがに透けていて、部屋は明るい。カーテンが、まるで澄みきった青空のようだ。ここまで爽やかな朝の部屋ができあがっていて、寝ていられることが、
「めちゃくちゃキレイな寝相。ホントに寝てんの?つーか、ホントに人間か?生きてる?」
近づいて見下ろすリュータのベッドは、全く乱れていない。その上、彼自身も、仰向けのまま、キレイな寝姿を保っていた。
「リュータロー、起きろー」
カーテンを開けて、日の光がダイレクトに差し込むようにすると、ベッドから抗議の声が聞こえた。
「ん~……」
「あ、生きてる。つーか、生身の人間だ」
しかし、リュータはまだ、穏やかに眠っている。
「おい、起きろ!朝だぞ!」
「遠慮します」
「すんな……。珪ちゃんの朝メシ、うまそうだったぞー?」
ベッドの端に腰かけて、リュータの体をゆすってみる。リュータは、仰向けになって、うっすらと目を開けた。
「知ってる~。ん~……起きたいのに、眩しくて目が開かない」
「太陽のせいにすんな」
開けたままの扉の向こうから、階段を登ってくる音がした。
やがて、珪が顔を覗かせた。
「起きた?」
それは、起きていないことを予測していた顔だった。
「眩しくて目が開かない、とか言ってる」
珪は、予測した通りの答えだったらしく、
「今日は、太陽か。毎日、毎日……」
珪は、ベッドへ歩み寄ると、顔を覆っているリュータの両腕を取り、無理矢理ベッドから引き剥がした。
「ホラ、起きろ。メシ、できたぞ」
「珪ちゃんのオニ~」
「起こせっつたの、お前だよ!ハイ、起きて顔洗う」
ここで手を離すとベッドに戻るのは、この1年で学習した。珪は、リュータを洗面所に押し込んでから、支度に戻った。
「いつも、こう?」
「いつも、こう。もう少ししたら、アレが信じらんねぇくらい、機嫌いいリュータが出てくるから」
ソファー前のローテーブルに、二人分の朝食と、
そして――――。
「アキ、おはよー。珪ちゃん、今日の朝メシなに~?」
珪の言葉通り、にこやかなリュータが、洗面所から出てきた。
「……マジか」
「な?」
2人を他所に、リュータはソファーに座り、キラキラした目で朝食を見つめている。
「わぁ、おにぎり好き~。具は?入ってんの?」
「塩昆布」
「さすが、珪ちゃん。いただきます!」
リュータが、きっちりと手を合わせてから食べ始めた。
「どうぞ、召し上がれ」
感情を込めずにそう言って、珪もおにぎりにかぶりついた。
正反対の2人を面白いと眺め、
「あ、これ、サクラのコーヒー?」
「そう、前にもらった、リュータがロゴデザインした店の。もらった分は、もうないんだけど、二人とも気に入ってたし、同じの買ってきた」
リュータの食事が、半分終わる頃、珪の器は空になっていた。
季節は、秋。
寒くも暑くもない気候。もっとも、この星に国が存在しなくなってから、気候までも科学の力でコントロールしているため、不自然な自然しか感じることはない。
「リューノスケは、いつも春なのかもなー」
「リュータだってば。なに?どーいうこと?」
聞き返して、添えられている漬け物をポリポリとかじった。
「春眠暁を覚えずってやつ。朝、起きらんないんでしょ?」
「違うよ。朝が来るのが早いんだよ」
自分は悪くない、と言いたげな言い分に、珪は呆れ、
「目覚ましかけないの?」
「それでコイツが起きてくれるなら、とっくにやってる」
珪は、別に怒っているわけでも、不満に思っているわけでもない。それは、
この不思議な二人の関係に、
「そりゃそうだよな。あ、そーだ。俺が作ってやろうか?」
「え?!」
子どものように目をキラキラさせて、リュータが
「俺特製の目覚まし時計、作ってやるよ」
「やったー!」
玄関扉のセキュリティが解除される音がして、扉が開いた。
「アキ、いるー?」
顔を出したのは、サクラだった。
「ここって、誰の家だった……?」
食後のコーヒーを味わっていた珪が、がっくりと項垂れて呟いた。
それを見て、リュータと
「珪ちゃん、愛されてるねー」
そう言ったリュータの顔は、幸せに満ちていた。リュータは、友だちが増えることが嬉しくて、一緒に過ごせることが楽しくて、ただそれだけで幸せな気がしていた。
* * * * *
イルミネーションと赤と緑、それから大きなリボンがついたプレゼントボックス。クリスマスが溢れる町を通り抜け、リュータと珪は、表通りから2つほど奥へと進んだ路地を入った。
「ここー?」
周りに見えるのは店の裏口ばかりで、とても目的地がある場所には思えなかった。
「みたいだな」
教えられた住所もそれを示す地図も、2人の頭に入っている。
「えー?だって、この辺り明らかに住宅街じゃ……あ」
「あ」
明るい色の木の扉と、白に近い灰色をした外壁が見えた。三角屋根は、周りの四角ばかりの建物の中で、ひっそりと、しかし、確かな自己主張をしていた。
「あれだ」
珪が、誰にともなく呟いた。
「アキっぽーい!」
リュータが、はしゃいだ声を上げた。
インターホンを押すと、スピーカーから哲の明るい声で、どうぞ、と聞こえた。
引き戸を両手で持って、リュータが開けながら声を掛けた。
「アッキー!」
「いらっしゃーい」
片手にインターホンの子機を持ち、機器やPCが収まったいくつかの棚の間にある、作業台の前に、哲はいた。
「イチゴ大福、持ってきたよ〜」
リュータが、翠晶堂の袋を差出して見せた。
「ありがとー。珪ちゃん、コーヒー淹れて」
部屋の中央に、玄関と平行に置かれたソファーとローテーブル。そこに腰を下ろそうとしていた珪は、信じられないと言いたげな顔で、体勢を直した。
「何で、俺なんだよ。客なんだけど?」
「俺、今、手が離せないの。コーヒーメーカーそこね。豆は冷蔵庫」
ブツブツ文句を言いながらも、珪はコーヒーを淹れ始めた。
「アキ、何やってんの?」
リュータは、機器の中に埋まるようにして座る、哲の手元を上から覗き込んだ。
彼の手元にあるのは、大判のスクリーン。タッチペンと専用の定規を使い、図面を引いていた。
「なに?これ?」
「作るって言ったろ?お前の目覚し時計」
「わぁ。結構、本格的に作ってくれてるー!」
目を輝かせるリュータを、哲はケラケラ笑って見つめた。
「そりゃ、そーでしょ。タローちゃん起こすんだから。普通の作ってどうすんの」
リュータが、感動の表情で図面を見つめている間に、玄関の方から、ピピピッという電子音の後に、ピーッという音が聞こえた。
3人共に玄関を振り返り、そして、哲がニヤリと笑った。
「解除失敗の音。サクラだ」
哲の言った通り、直後に扉を叩く音と共に、声が聞こえてきた。
「アキー、開けてー!」
「インターホンの意味な……。タローちゃん、サクラ入れてやって。戸の横にあるボタン押したら開くから」
「リュータだってば、もう……」
半ば諦め気味に反論をして、リュータは玄関へ向かい、言われた通りに扉を開けた。
「あ、リューノスケ〜。来てたの?」
涼しげな空気をまとわせたサクラが、そこに立っていた。
「うん。珪ちゃんと遊びに来た」
リュータの言葉に、サクラがキッチンを見れば、コーヒーを今まさに用意し終えた珪がいた。
「珪ちゃん、俺にもコーヒーお願い」
「はーい、ホットコーヒーひとつですねー」
珪の投げやりな口調を、3人が笑う。
リュータだけは、それでも珪のフォローに駆け寄った。
「珪ちゃん、イチゴ大福あるから怒んないで」
「ホラ、リュータ。3人分運べ」
「はーい」
サクラが、ソファーに座り、リュータはローテーブルにトレーを置いて、一つをサクラへ、そしてもう一つを自分が座る場所へ置いた。
「アキ、コーヒーはこっちに置いといていい?」
まだ図面を引く哲へ声を掛けた。
軽く「あぁ」と答えが返される。
「アキ、玄関のセキュリティーナンバー、簡単にしてよ」
サクラが、うんざりした顔で哲を見やった。
「もう、ホント覚えらんない」
「セキュリティーなのに、簡単にしてどうすんだよ」
「指紋とか、網膜とか、いろいろあるでしょ?」
「とりあえず、インターホン使えって、サクは。一度も解除できてないのに、何で毎回チャレンジすんの?」
コーヒーを喉へと流しながら、サクラは「んー」と思案するように宙を見つめた。
「“カチャ”っていう音聞いたときの快感っていうのかなー」
サクラの言葉を聞いて、リュータが目を輝かせた。
「あー!わかるー。俺も、俺もー」
コーヒーを持って隣に座った珪が、リュータの頭を軽く叩く。
「お前のは、ちょっと違うだろ」
「何が違うって?」
哲が、サクラの隣に座る。
珪は、コーヒーと共に顔をそらした。
「……こっちの話」
「えー。内緒話〜?リューリュー、珪ちゃんがイジワルなんだけど〜」
わざとらしい口調で、哲が、リュータに話を振ると、彼はニコリと笑顔を咲かせた。
「珪ちゃんが言うなって言うなら、言わなぁーい」
そして、イチゴ大福の1/3がリュータの中に消えた。
「あー、早起きして買ったかいがあったー。うまぁ〜」
正面で、サクラが笑う。
「リョータは、ホント珪ちゃんに懐いてるねー」
「珪ちゃんは天才ですごい奴なんだから、ついてった方が面白いに決まってんじゃん」
リュータは、当たり前に言ってのけたセリフに、3人が驚きのまま、表情を固めた。最初に口を開いたのは、珪だった。
「……お前は相変わらず……ストレートにそんなこと……」
珪の顔が赤くなっているのを見て、哲が、ニヤリと笑った。
「まぁ、珪ちゃんが天才なのは、認めるけどね」
「お前……。何、この仕打ち」
気恥ずかしさに耐えられなくなった珪は、眉間にシワを寄せた。
リュータは、哲の同意が嬉しくて、身を乗り出して続ける。
「だよねー!ホント、珪ちゃんと出会えて相棒になってくれて、最高に嬉しい!類は類を呼ぶって本当なんだね。アキだってサクラだって、すごい人ばっかり」
子どものような、リュータの率直な言葉。サクラは目を細めて微笑んだ。
「俺は、そんな思考ができて、素直に言えるお前が、一番すごいと思うけどね」
サクラの考えに、
「あー、もう。本当に、ここにいる3人のDNAだけは、残して欲しいもんだねー」
「そう都合よくいくかよ」
珪が、そう言って笑う。
「えー?そう?じゃあさ、サンプルちょうだい」
サクラが、実に爽やかな笑顔を浮かべた。
珪も
「はい?」
「サク、お前、なにする気?」
珪の表情が、引きつる。
「だから、3人のDNA残したいから、研究にね」
人の良さげな顔をして、サクラは当たり前のように答えた。
「えっと……確認しときたいんだけど、サンプルっていうのは?」
リュータが、恐る恐る訊ねると、サクラは何がわからないのか、と正面にいる彼を見た。
「え?何?ここで保健体育の授業しろって?」
「遠慮しとく……」
リュータは降参と言うように、両手を胸の高さに挙げて、苦笑いを浮かべた。それを、イチゴ大福にかぶりついた
「つーか、出せっつって、はいどーぞって出せるかよ。アホか」
「あはは。まーね。でも、真面目な話、生命の神秘に、そろそろヒトの手が加わっても、おかしくないかなぁってさ。俺、そっち専門だし」
サクラの考えに、「あー」と短い声で同意を示したのは、珪だった。
「まぁな。これだけ自然を色々いじってたら、あり得るかもな」
ただの、雑談のはずだった。可能性や未来、興味のあることに、花を咲かせている、それだけだった。
「えー?将来、そうなるのぉ?なんか味気ない」
ソファーにあぐらをかいて座るリュータが、不満げにコーヒーを啜っている。
「お?タローちゃんは、ロマンチストか?」
「リュータだってば!っていうか、ロマンとかじゃなくて、そう思わないの?」
「男だし?」
「アキー!」
笑い声が響く。ただ、賑やかに時が過ぎていた。
雑談だったのだ。誰もが軽口のはずで、これが大変な事態へ繋がるなど、4人とも、想像もしていなかった。
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