G

「ただいまぁ~~~~」

 玄関を入ると、珪は、疲労感たっぷりにそう言って、ふらふらと奥へと歩いて行ったかと思うと、ソファーへダイブした。帰り道で買った食材の入った袋が、足元に転がっている。

 桜蔵が、それを見てクスクス笑っている。

「おかえり、珪ちゃん」

 ソファーでクッションにうずめていた顔を上げ、珪は首をひねって桜蔵を振り返った。

 桜蔵は、この上なく嬉しそうに微笑んでいた。

 哲もサクラも、あの場所から帰ってこなかった。

 仕事がうまくいったことよりも、大切な相方を失わずに済んだことの方が、今の桜蔵には何より嬉しくて、珪にとっても、それは同じだった。

 2人で帰ってくることができて、本当に嬉しいから。

「さぁて、乾杯するか!」

 珪が、ソファーに埋めていた体を起こして立ち上がる。

「コロッケと~、お刺身と~、モチモチしたイモのやつとぉ~」

 桜蔵が、弾むような声でそう言って、買い物袋をキッチンへと運ぶ。

 今度は、珪がクスクス笑う番だった。

「あと、からあげな」

「ぃやったぁ!」

 子どものようにはしゃぐ桜蔵を見ていると、帰ってきたんだと実感する。

「つーか、その服、着替えて来いよ?」

「はぁい」

 珍しく桜蔵も料理を手伝って、ソファーの前のローテーブルに、おつまみが並び、桜蔵チョイスの酒もそろった。

「あ、乾杯の前に、データ入れとくか」

 桜蔵が酒を注いでいるのを見ながら、思い出したように珪は立ち上がった。

 スティックメモリーは、珪のPCの定位置に置いてある。

 PCを起動させて、立ったまま、珪は作業を始めた。

「っていうか、サクのPCなんて、即行で調べられると思ってた」

 桜蔵が、珪の横で画面を見つめている。

「俺も。でも、そこはさすがアキっていうか。がっちり鍵かけていったみたい」

「ん~、俺たちが行くこととか、珪ちゃんがそれを解くことを予測されてたかと思うと、アキの思うつぼ……」

「……だな」

 珪の作業の手が止まり、画面では、何日か前のように、アルファベットがランダムに動いた後で、文字を作る。

 EYESROID――――と。

 そして、

「あ、色変わった……けど、そんな増えてない……」

 落胆する桜蔵へ、珪が笑顔を送る。

「いーだろ、減ってないんだから」

「なにそれ~」

 ケラケラと愉しげに、桜蔵は笑った。

「さ、乾杯だ」

「だね」

 桜蔵は2人掛けの広いソファーへ、珪は、キッチン側の1人掛けのソファーに座った。

「かんぱーい」

「かんぱーい」

 薄い青の波打つグラスが合わさり、カチンと高い音を立てた。

「大人の遊び、かぁ~」

グラスの向こうに、桜蔵は懐かしい日々を映していた。

「は?」

「サクに言われたの」

「大人の遊び……。なんか、いろんな意味で言い得てるな」

「珪ちゃんが言うと、何かさぁ……」

「はいはい。サクが言うのとは格が違いますよ」

「珪ちゃん」

「ん?」

「遊びでも、勝ちにいくからね」

「もちろん」

 2人は再度、グラスを合わせた。

 カチンと、心地よい音が響く。

 ゲームはまだ、始まったばかり。


ー第1章:ENDー       and continue……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る