ダイヤモンド-3

 アリスと宇月は、USBの先を見つめていた。

「どう思う?」

 アリスが聞く。

「俺たちに価値あるものが、入ってるかどうか?」

「そう」

「ダイヤモンドがそのままでなかった今、ここに何か入っているか、これそのものが価値を生み出さないと」

「そう」

「…………正直に言っていい?」

「なに?」

 アリスは、石から顔を上げて宇月を見た。ためらうほど、何を感じたのか。

「ちょっと、嫌な予感する」

 宇月の言葉に、アリスは嫌味なくらいにニッコリと笑った。

「気が合うねー。俺も」

 二回も桜蔵にしてやられているのだ。今回も、なにかしらを仕掛けているかもしれない。

 しかし、こうしてダイヤモンドUSBを観察していても、中に何があるのかなどわからない。

 宇月は、覚悟を決めてUSBとPCをつないだ。自動で起動していくのを、祈りながら二人は見つめた。

 そして――――――――。


『ダイヤモンドはもらったよ。かわいいかわいい元相棒より。あんぽんたんへ』


 画面には、メッセージとあかんべしているイラストが映し出された。

 宇月は数秒固まったあと、アリスのため息を聞いて、ようやく怒りを吐き出した。

「リューータァ!!」

「ウヅキが尊敬してる意味がホントによく分かる」

「何が『かわいいかわいい元相棒』だ?!」

「顔はいいよ?サイズも、どっちかというとコンパクトだし」

「そういうことじゃない!」

「あ、待った」

 冷静に画面を見つめていたアリスが、少し身を乗り出して画面を操作する。

 その姿を見て、宇月の怒りはゆっくりと収まっていった。

「なに?」

「まだ、なんかある」

 画面にノイズが混じる。そこに、何かが侵入してくるように。

「なんだ?」

 不思議そうに画面を見つめ、宇月が呟いた。

 やがて、PCのスピーカーが音を発した。


『やぁ。これを見ているのが、幼い頃の親友であることを願っている。そこにいるのが、アリスであることを』


 PCから聞こえた言葉に、アリスは目を丸くした。幼い頃の親友、ダイヤモンドの加工、そこに宝物を隠す発想――――。思いつくのは一人だけだ。

 PCからの声は、更に続いた。


『これを見ている、ということは、リュータにまんまと先を越されたってことかな?でも、安心して。この中に、さらなる宝物を隠しておいた。アリスなら、取り出せるはずだよ。それじゃ、頑張ってねー。君の旧友、アキより』


 音声は、それで終わった。

 宇月は、そっとアリスを振り返り、様子を窺った。

 アリスはただじっと画面を見つめていた。瞳に映るのは、懐かしい昔の思い出だ。

「ウヅキ……」

 ぼんやりと呟いた後、アリスは嬉しそうに笑った。

「よくやった!お前の嗅覚には感心する」

「いや、でもこれ偽物だろ」

「俺にとって、これはダイヤモンドだよ」

 相棒は、至極ごきげんだ。

 ダイヤモンドは偽物で、出てきたのは、人をおちょくるメッセージ。ウヅキの中には怒りしかなかったが、アリスがごきげんならそれでいいような気がした。

「……結果、オーライ?」

「そういうこと。あとは、この石のどこに何を隠したのか、だな」

「アリスなら取り出せるって言ってたから、それがヒントなんだろうけど……」

「俺なら……か」

 輝く石を目の前にして、二人はまた、悩み始めた。

「昔も遊んだことがある、ってことだよな」

 アリスは、記憶を探る。一緒に遊んだことを、一緒に話したことを。

「これが、石じゃなくて木なら、寄せ木細工の秘密箱を解くみたいに開けられるんだけどなぁ」

 宇月が呟くと、アリスは、何かを思い出したように目を丸くして輝く石を見つめた。

「寄せ木細工……」

「アリスは見たことある?」

「ある、かも……」

「まぁ、この石の細工とは関係ないけど」

「……あるかも」

 ぼんやりとそう応えるアリスを、宇月は、眉を寄せて見つめた。

「なにが?」

「細工だよ。寄せ木細工と同じだ。前に見た!」 

 アリスは、USBをPCから取り外して、蓋の部分をもとに戻すと、慎重にあちこちを眺めたあと、そっと一部を動かし始めた。

 スライドしては戻し、また別の場所をスライドさせて次々とずらしていく。

 そして、12回ほどの手順のあと、石は蓋と入れ物の二つに分かれた。

「……アリス、すごい」

 宇月の言葉を聞いて、アリスは懐かしげに微笑んだ。

「小さい頃に、アキと遊んだんだよ。パズルボックスの開け方を、どっちが早く見つけるか」

「遊びが高度……」

「アキは、こういうものを作るのは上手いし、一度構造を覚えたら再現するのも上手いけど、開けるのは俺のほうが早かった」

 中には、花の形をした小さな銀細工が入っていた。

「なにこれ?花?」

 アリスが取り出した銀細工を覗き込んで、宇月が聞いた。

 アリスは、懐かしさに目を細めた。

「これは、コチョウラン。昔ね、お守りにってアキにあげたことがあるんだ」

「花を?」

「そう。家にあったコチョウランの鉢植えの中からひとつ折ってあげたの。あとで母さんにすっごい怒られた」

 鉢植えから手折りあげたという話を、宇月は信じられないという顔で聞いていた。

「……だろうな。でも、なんで花?」

「コチョウランの花言葉は、『幸せが飛んでくる』。大切な友だちへ、幸せがもっと飛んできますように」

 コチョウランが刻まれた銀細工を見つめて、アリスは小さく笑った。

「これを見つけて、俺を思い出してくれたのか……」

「連絡取り合ってないのに、なんで今のお前のことがわかるわけ?」

 PCの前に座り直して、宇月が尋ねた。

「それは、アキだから。あいつ、天才だからね」

 誇らしげな顔をして、アリスは手の中の銀細工を見つめていた。

「……天才、か」

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