後編
そんなことが3か月も続いたころ・・・
またいつものように、
「まだアレあります?」
「アレと申されますと?」
「アレよ『天国への階段』よ。」
「えぇ、それならまだございます。」
と、お決まりになったやり取りの後、
「で?おいくらか決まりまして?」
この日は幾分押しが強い様子。
店主もそれを察したようで、
「え、えぇ・・・あの商品は・・・。」
少々言いにくい様子。
「ハッキリなさいっ」
強気に出る婦人にためらいを隠せず、
「・・・お客様には、お売り致しかねますが・・・。」
「売れない!?」
「はい、申し訳ありません。」
「私には売れないと!?」
「・・・はい。」
「分かっているとは思うけど、お金ならあるのよ。」
「ぃえ、そういう問題ではなく・・・。」
渋々と、
「・・・お客様には、まだ早いかと・・・。」
「私には早い!?」
「・・・はい。」
婦人には訳がわからない。
お金で買えないものがあるとは思えない。
「まだ早い」とはどういうことなのか。
自分はこの店の常連で、幾度となく高額な買い物をしてきているというのに。
それでも「売れない」ものがあるのか。
困惑しきりの婦人を見かねた店主は、しばし黙った後。
「・・・覚悟は、おありですか?」
重々しく一言。
「覚悟?」
「はい・・・。」
店主をじっと見る婦人。
「・・・確かに、この商品で天国に行くことはできます。」
「やはり行けるのねっ!」
「えぇ、行くには行けるのですが・・・。」
「何ですの!?もったいつけずにおっしゃいなさい。」
「・・・ですが、」
「おっしゃいなさいっ!」
店主は覚悟を決めたようだ。
「・・・かしこまりました。」
「えぇ。」
「・・・こちらの商品は、お代は頂きません。」
「え・・・?いらない?」
「こちらの商品は、あなたのお命と引き換えにございます。」
数日後、
「いやぁ、遅かったかぁ。」
店の奥から紳士の声が聞こえる。
「残念だなぁ、妻の誕生日に是非にと思っていたんだがなぁ。」
たいそう残念そうにしている。
彼が見ているファイルのページには『売約済み』の札が差さっている。
そこには『天国への階段』とある。
天国への階段 八木☆健太郎 @Ken-Yagi
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