天国への階段
八木☆健太郎
前編
ここは何処とは言えないが、とある街にある商店。
名前はとりあえず『よろづや』とでもしておこう。
ここへ来れば、消しゴムからヘリコプターまで何でも揃ってはいるのだが、特別繁盛している様子もなく、なんとも不思議な空気を漂わせていた。
この店の奥には、他から隔離された「VIP」スペースがあり、時折見るからに大金持ちな人々が訪れ・・・
「まぁっ・・・」
中から貴婦人の声が聞こえる。
「コレ、売れてしまいましたの!?」
商品のファイルを見ているようだ。
『土星の土地4000エーカー』とある。
「えぇ、つい2日程前に・・・。」
「そう、残念ねぇ、やっと主人を説得してまいりましたのに・・・。」
と、さほど残念そうでもなく目を落としている。
このページには『売却済み』の札が差してあった。
「まぁ、仕方ありませんわね。」
と、パラパラとファイルをめくりだした。
すると、あるページで手が止まった。
「おやっ、これは何ですの?」
そこには『天国への階段』とある。
「天国への、階段・・・?」
「あぁ、そちらの商品でございますか。」
「何ですの?」
「その名の通りのものでございます。」
「こちらで天国への道が約束される、ということかしら?」
「・・・そう捉えていただいても構いません。」
煮え切らない反応と、
「それにコレはどういうことかしら?」
この店には珍しく『時価』とある。
「えぇ、コチラはまだ入荷したばかりでして・・・。」
「値段はまだ決まっていないと?」
「えぇ、決めかねております。」
「そう・・・。」
と、またパラパラとファイルをめくりだした。
店主も黙ってそれを見ている。
しばらくして、
「また来ますわ。」
ファイルを閉じてしまった。
気になったものは他にはないようだ。
「またお待ちしております。」
店主はいつも通り穏やかに見送った。
どうやらこの婦人はかなり気になっているらしく、3日と空けずにやって来てはこの『天国への階段』が売れていないことと『時価』であることを確認していた。
そんなことが3か月も続いたころ・・・
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