感情移入しすぎる探偵
ちびまるフォイ
犯人の独白は最後の命乞い
「すべての謎がわかりました。犯人はあなたです!」
指さした先にはこの屋敷のメイドが立っていた。
「……!」
「この中で反抗を実行できるのはあなたしかいないんです。
どうか、自供してください」
「なにもかも……お見通しなんですね……」
メイドは諦めたように悟った口調で静かに話し始めた。
「それは私がこの屋敷に最初に入ったときでした。
旦那様からは必要もないのに呼びつけられて、
体を触られたりと、行為は日々エスカレートしていきました」
「そんな……」
「私が拒むと旦那様は機嫌が悪くなり、私はもちろん
奥様ひいては坊ちゃままでに八つ当たりしてしまいます」
「ひどい……」
「仕事をはじめたばかりで職を失いたくない。
周りの人にも迷惑をかけたくないと思う末に
私はしだいに旦那様に流されるように従っていきました」
「無理もない……断られるわけないわ……」
「けれど、旦那様はしだいに新しいメイドへ手を出すようになりました。
それは私にしたことと同じ、いやそれ以上のことを。
私は許せなかった。私のような被害者をこれ以上増やすわけにいかなかった」
「それで……」
「はい、それで私はメイドをこの手で殺めてしまいました」
「しょうがないね」
「え、そっち?」
話を聞いていた警察は目を点にした。
「話を聞いているかぎり、犯行の動機としては十分なのか……。
まあ、とにかく人を殺めてしまった以上罪だから逃れることはできない」
「待ってよ! あなたにはこの子の気持ちがわからないの!?」
警察の手錠に待ったをかけたのは、
何を隠そうすべてを暴いた探偵そのものだった。
「シンデレラのように虐げられていた話を聞いたでしょう!?
彼女だって、本当は殺したくなんかなかった!!」
「いやしかし……」
「環境が彼女に殺人をさせたのよ!
もし彼女が手を汚さなかったら被害者はもっと増えていた!!」
「ちょっと、探偵! 君はいったい誰の味方なんだ!」
「弱いものの味方よ!!」
「えええええ……」
探偵は刑事の持っていた手錠を払い落とし、メイドの手を握った。
「あなたの話、ぜんぶ聞いたわ。あなたは悪くない。
こんなにも心打たれることなんてなかったわ」
「探偵さん……でも、事実、私が殺めてしまったんです!
私が罪をかぶればそれですべて済むんですっ」
「バカ!!」
パァン、と平手打ちの音が響いた。
「それじゃ、これまでと一緒じゃない!
どうして自分だけが我慢しようとするの!?
あなたはこんなにも苦しんできたじゃない!」
「探偵さん……!」
「あなたはこれ以上苦しまなくていいのよ。
悪い人がのさばって、いい人が裁かれるなんて間違っているわ」
二人がハグをしているのを警察は困った顔で見ていた。
「しかし、探偵さん。この通り、犯人は自供してますし
実際、あんたが推理した通り、犯人はこの人で間違いないでしょう」
「そんなこと、どうして言えるのよ!?」
「えええ!?」
「よく考えてみなさいよ! 私が暴いた氷のトリック。
もし、室温が少しでも高かったら成立しないわ!
密室のトリックだって、もしトイレにたっていたら実現できなかった!!」
「いや、あんたが言い出したんでしょう」
「仮説のひとつでしかないのよ!
彼女が犯人だと断定できる証拠はなにひとつない!」
「それじゃ、ちゃんと断定できる推理してくださいよ」
「そんなの知らないわよ!
「うそん……」
「そもそも、犯人を逮捕するのは警察の仕事でしょう!?
私みたいな女子高生探偵がしゃしゃり出るほうがおかしいわ!
少しは自分の頭で考えて、自分の足で行動して答えを探せばいいじゃない!」
「おまっ……」
「私が言いたいのは、このメイドが犯人であるという
確実な証拠がないかぎり、彼女が犯人だとは言わせないわ!!」
「探偵さん……///」
「いいのよ、私はぜんぶわかってるから。
あなたがどれだけ苦しんできたのか、その気持ちわかるから」
警察は頭を抱えてしまった。
悩んだ末に強引な手を使うことにした。
「探偵さん、あんたが犯人の肩をもつというなら……。
あんたも犯行を隠したとして同じように裁かれるぞ」
「犯人? どうして彼女が犯人だと言えるの!?
勝手に犯人だと決めつけないよ!!」
「それに、嘘をついたり、わざと捜査をかく乱しても罪だ。
我々警察には真実を話すんだ。そして、君の推理で得た確証を話したまえ。
探偵として君にはその義務がある」
「くっ……!」
「もし拒むようなら君を強制的に聴取してもいいんだぞ。
さぁ、犯人の手口をすべて話すんだ」
「……わかりました、すべて話しましょう」
探偵は諦めたように告げた。
「殺人の方法も、密室の作り方も、すべてお話します」
「最初からそうすればよかったんだ。
今度は嘘をついたり、わざとわかりにくく話してごまかしたり
そういったセコいマネはするなよ」
「もちろんです。推理素人の警察さんにもわかるよう
丁寧にわかりやすく再現をして見せればわかるでしょう」
「よし、素直になったか」
探偵は犯行を再現するために、犯行に使われた器具を用意した。
「それでは、すべての犯行の方法を再現してみせましょう。
犯人役としてメイドさん、警察の人が犠牲者役でお願いします」
「はい」
「いいだろう」
「犯人はまず、犯行のための準備をはじめます。
ここに糸を通して、氷にくくりつけて、滑車を準備します」
「なるほど」
警察は手際のよさと確実に仕留められる方法に感服した。
「犠牲者はこうに首を通して……ああ、そうそう。そのまま動かないで。
そして、メイドさんはヒモを引いてください」
「……ね? 簡単に犯行ができたでしょう?」
もう警察が文句を言うことはなかった。
感情移入しすぎる探偵 ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます