第10話 生徒会は今日から動き出す。
「えー、まず最初に、この前は色々と悪かった」
紅茶の香りが漂う生徒会室の空間で、俺はホワイトボードの前で5つ年下の15歳5人に向けて頭を下げる。
「そうね、彼もそう言ってることだし許しましょう」
最初に口を開いたのは意外にも
「まー
続けて
「ま、どーでもいい、好きにしなよ」
髪の毛を纏めてポニーテールを作りながら
正直、謝った後に罵倒の嵐が吹き荒れると思っていたのだが、そんなことは無かった。
いつか読んだ本で、【予想した不安の8割は実際に起きない】という記述を見たことがあるが、どうやら本当のことらしい。
「えーと、よろしくです!」
ソファの上に正座をして
「………あっ」
おい
まあ、いい落ち着こう。
今回は俺の謝罪から入ったため、少し真剣な空気が流れている。今のうちにやっておくべきことがある。
それは親密度を上げることだ。ならば最初にやるのは出会いの定番…
そう!自己紹介!!!
イェイイェイぱふぱふと俺の脳内で誰かが盛り上げてくれた。
「ここで改めて自己紹介をさせてもらう」
「えー君のこと、興味ない」
美雨の辛辣な意見には負けない。
にしても性格悪い…
「俺の名前は
「うわ、勝手に始めたし」
スマホをいじりながらではあるが、美雨は横目で俺の方を見る。この段階で根を上げていたら甘いぞ。
そしてここでさらに興味を引く…!
「年齢は今年の12月24日で21歳になる」
一瞬の沈黙。この沈黙は予想通り。
俺の年齢の話は興味を引くのにうってつけだ。理事長がこいつらに言い忘れていたらしいが、今はそれが好都合。
「………」
「はあ?」
「そ、そうなんですか!?」
可奈と沙羅は知っていたため、何も変わらない様子。しかし、後の3人は初めて耳にする情報に、頭の処理能力が追いつかず、驚きを隠せない様子だ。
ほら見ろ、あのゲームオタクの優でさえ、ゲームをやめてこちらを見ている。
「本当は職員としてここに配属される予定だったんだが、理事長が間違えて生徒として手続きをしてしまったんだと」
説明をするが、3人の目に疑念は消えていなかった。
「証拠ならあるぞ」
そう言ってポケットから身分証明書を出す。
先ほどまで座っていた3人は、俺に近づき手に持った身分証明書に目を向ける。距離が急に近くなったため、視覚以外の余計な情報が脳内に侵入してくる。
高級シャンプーの香りに大きく開かれたこいつらの目…
「ゔゔん…」
ぎこちない咳払いで頭の中の
「ま、お前らは5つ歳上というわけなのだが、俺への対応は今までと変わらなくていい、居心地が悪くなるのは嫌いなんでな」
身分証明書が再びポケットに仕舞われたことを合図に、3人は元いたソファに座りなおす。そして、掴みはバッチリだった様で、そのまま俺の顔を見て話を聞く姿勢になっていた。
「さあ、自己紹介はここまでにして本題に入るぞ」
そう、ここからが本題。今日から本格始動をしなければいけない、この生徒会を。
「みんなもう聞いていると思うが、俺らが先頭に立ち
昨日書いた『林間学校のイベント案』と言う文字が書かれたホワイトボードを叩き、声に熱を込める。
「やるのはいいけれど、一体何をするのかしら」
「いい質問だ可奈」
「あ、ありがと?」
可奈を指差して褒め、両手を肩の位置まで持ってくる。
「よし、あれを持ってこい」
——パンパン
二回掌を叩き音が響いた。
あ、勢いでドラマでありそうなシーンをやってしまった。
「何やってんの、キモ」
美雨のその意見は最もすぎて反論の余地がない。
というかこいつ本当に歳上ってこと気にしてねーな。
鞄からファイルを取り出し、数枚の企画書を取り出す。それを5人に配りホワイトボードの前に戻る。
「手書きの企画書なんて初めて見たなー」
沙羅が関心の言葉を述べてくれた。と思う。
パソコンとプリンターがねーんだよ、我慢しやがれ。
「その紙に書いてある通り、林間学校までの時間は残されていない」
そう、あと2週間くらいしかないなのだ。何にしても始まりが遅すぎた。
「だから企画を練っている時間は極めて
企画書にはその企画の土台が記載されているため、5人はその企画書に目を落とす。
それを見た俺は黒ペンのキャップを開けホワイトボードに文字を連ねた。
「林間学校は3日間ある、そのうちの1日1日にイベントを設けようと考えている。まず1日目」
ペンに一旦キャップを被せる。乾いて使えなくなった。それはもったいないからな。1秒でも多く使わなければいけない。
ホワイトボードには
【各班対抗料理対決】と書かれている。
「これは明後日決められる林間学校の班で自分たちで食材を調達し、料理を作り、審査員に食べてもらい一番ポイントを高くつけてもらった班が優勝という企画だ」
「はい、蔵沢くん」
可奈が肩くらいまで手をあげる。
「なんだ」
「食材を調達と言っても、そんなに簡単に食材が集まるかしら」
可奈の意見は予想していた。
俺がお前らに舐められない様に、何冊の対応ノートを用意したことか…
「ふふふ、甘いぞ可奈…この学校、白皇高校は財力がとにかくすごい。林間学校で行く山は食材がありったけ取れる山だ。その山を借りるのに、めちゃめちゃお金が必要だが、うちの学校なら余裕だった。だからそんな心配は不要。けど、万が一何も取れなかった場合は、事前に用意してあったご飯支給する。というか、一人前しか作れなかったとしても、旅館の飯があるから大丈夫だろ」
可奈は顎に手をやり「なるほどね」と納得をした。
そして、それ以上の意見は出なかったため、次の企画の説明に移行する。
「2日目…それは肝試しだ!驚かし役は俺ら生徒会と職員が担当する。この学校は聞くところカップルがほとんどいないらしいじゃないか。だからここで青春イベントをチョイス」
「蒼ちゃんー」
掌に顎を乗せながら俺の名を沙羅は呼ぶ
「どうした」
「驚かし役よりも驚きたいなー」
「生徒会が主体のイベントだ、どうやらまだ生徒会役員はこの6人しかいないらしいじゃないか。今回ばかりは甘んじて受け入れてくれ」
創設されて間もないこの学校は、生徒の中心となる生徒会はこの5人だけなのだという。役員というものを作ろうと試みたらしいが、そもそもこの学校はリッチすぎて本来生徒がやる作業を業者がやっているらしい。だから生徒会はそんなに沢山いても無意味なのだ。
本当にこの学校は庶民からかけ離れすぎている…
「ぶー」
沙羅は俺の返答に満足がいかなかったのか、頬を膨らまし、机に突っ伏す。
「そして最終日は…林間学校定番のあの企画【キャンプファイヤーを囲み男女でペアを組みダンス!】」
ネーミングセンスに関しては、何も言わないでほしい。
「何それ、小学生じゃん」
ネーミングセンス云々よりも、もっと初歩的なことを美雨に指摘された。
「おっとー、キャンプファイヤーのすごさを知らんな…」
「な、なによ」
俺は悪役のように笑い
「キャンプファイヤーを囲み一緒に踊ったペアは生涯結ばれる。どの学校でもそういうジンクスがある。実際に元いた俺の学校では多くの生徒が結ばれ、最近じゃ結婚したカップルも出たぞ…」
ほんの少しだけ、次出すべき言葉を見失った。
「どうしたんですか?いきなり黙っちゃって」
その様子を見た奈緒に意識を引き戻される。
「す、すまん…ゔゔん。えー、この学校を見る限り、結構なイケメンが多いじゃないか、お前らも1人くらいはいいと思っている男がいるはずだ、その時の進行は俺に任せて男子を誘って踊ればいい」
途中から美雨の顔を見て話を進めた。
性格の悪い女に限って好きな男がいるものだ。
「べつに、気になる男子なんていないし!」
美雨は少しだけ顔を赤く染めて怒気を荒げる。
「てことで今回の企画に賛成なのか反対なのか、それとも新たに付け足すのか、明日までに考えておいてくれ。それじゃ俺は理事長のところに行ってくる、じゃあな」
明日の宿題を提示して俺は生徒会室をあとにした。
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