二節 「グリーンカレー……じゃない!? 謎の創作エスニックカレー!(2)」
注文を待っていると、店の扉に提げられている鈴が鳴った。
「こんばんはー、プリチャさん!」
現れたのは、女子高生と思しき3人組だった。制服から、この近所の恋之丘高校の生徒だと言う事が分かる。
「カナデ! いらっしゃイ! 今日はオトモダチもイッショなんだネ!」
「うん! 紹介するね。こっちが
「こんばんは!」
「よ、よろしくお願いします……」
カナデと呼ばれた少女が、連れの2人を紹介する。
翔子の方は、スレンダーな体系に少し茶色掛かった短髪が特徴の、快活そうな少女だ。大きなスポーツバッグを持っているので、何か運動部にでも入っているのだろう。小麦色の日焼け跡は、健康的で活力を感じる。
アリスはきれいな金髪に西洋風の美しい顔立ちをした少女である。肌は透き通るように白く、瞳は澄んだ青色だ。日本語は普通に話せるようなので、ハーフだと考えるのが妥当だろうか。しかし性格は非常に大人しそうで、いかにも大和撫子といった具合である。
ちなみに、店に入って来た時に挨拶をしていたカナデと言う少女が、今回の主人公である。女性が主人公と言う世界はあまり多くないのだが、別にない訳ではない。
彼女の名前は、
しかし何よりも、彼女の制服のブラウスを、はち切れんばかりに押し広げる豊かな胸元が、思わず僕の目を奪う。やはり分かりやすい女性的シンボルと言うのは強力な武器だと、改めて実感させられてしまった。
……まあ、何にしても物語は向こうからやって来てくれたようだ。未だジャンルは不明だが、とりあえずかなでに注目さえしていれば、何かを見る事は出来るはずだ。
僕はわいわいと目の前のテーブル席に着く女子高生達を、さりげなく眺める。
……何だろう、この罪悪感は。
万年平社員の三十路前サラリーマンが、横目にちらちらと現役女子高生達を観察するという状況に、何やら犯罪的な物を感じる。
いや、しかしそれが僕の唯一にして絶対の使命なのだ。存在価値や
――だから、これは何も悪い事ではないのだ。
やましい事は何もない。僕は純粋に物語を眺める傍観者なのだ。そう、僕は潔白――イノセントジョージだ。
一体誰に言い訳をしているのかも分からないままに、1人で考え込んでいると、かなでたちはプリチャと呼んでいた女性店員に、注文を始めた。
「いつものカレーをお願いします! みんなもそれでいいかな?」
「うん、いいよ! かなでのオススメなら絶対美味しいし!」
「わ、私も……同じのでお願いします……」
「OK! かしこまりマシタ!」
3人は皆、同じ物を頼むようだ。
「いつものカレー」とは何なのだろうか。僕は何となく気になって、テーブルの上に残っているメニュー表を開いてみる。
その中には「香草薫る夏野菜のグリーンカレー」という表記が見つかった。ざっと見た感じでは、カレー関係のメニューは他にはないようだ。
なるほど。おそらく、エスニック料理店ならではの日本風ではないカレーを提供してくれるのだろう。
確かグリーンカレーは、タイ料理だったか。そういえば、この店の名前も「プラシット」だったはずなので、もしかするとタイ料理が一番得意なのかもしれない。見たところ、かなではこの店の常連のようだし、最も店主が得意とする料理を知っていたと言う事か。
とは言え、僕は既にフォーを頼んだし、そもそも現在の胃の状態ではカレーを食べる事は出来ないだろう。もう少し体調が優れている時にでも食べに来ようと、僕は漠然とした予定を立ててみる。
もちろん、次があればの話だが。
そんな事をぼんやりと考えながら待っていると、先程のプリチャさんがカウンターかフォーを持って僕の下まで歩み寄って来た。
「ごゆっくりドウゾー」
ようやく待っていたフォーが届いた。彼女が僕の目の前に置いた物は、かつて僕がベトナムで食べたあのフォー……とは何だか似て非なる別の物だった。
「え、あれ? これ、フォーですか?」
「そうですヨ。ちょっとアレンジしてマスけどネ!」
戸惑う僕をよそに、にこにこと笑顔を浮かべて去っていくプリチャさん。
僕のテーブルの上にある器の中は、平たい麺が浸るように透き通ったスープが満たされており、その上には具材としてチャーシューらしき物と半分に切った味玉、メンマが載っている。また、器全体に刻み葱と柚子らしき柑橘類の皮も散りばめられていた。
何と言うか……一見した感じはラーメンだ。しかしフォーと言われれば、フォーではある。
よく分からない不思議な料理を、僕は箸で
美味しいは美味しい。だが何だったろう、これは……。
まずフォーでは使わない醤油が入っている事だけは分かるのだが、他にも
僕は主人公達が目の前で会話を繰り広げている事さえ、今はどうでもよくなっていた。ただただ、目の前にあるフォーらしき何かが気になって仕方がない。
一体僕は何を食べているんだ……?
麺を食べる前に、上にどっかりと載っているチャーシューを箸で拾い上げる。フォーでは牛肉や鶏肉が載っている事はあるが、チャーシュー……? 豚肉だろうか?
しかし訝しみながらチャーシューを一口
これは――!
そこで僕は――このフォーの正体がようやく分かった。
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