閑話
「そしてまた、声があった」
「何か言いたい事はあるか?」
周囲に何も見当たらないのに、見覚えのある白。
ただ成す術もなく、僕はそこにいる。
「あれ、別の人だ……」
聞こえて来た声は、初めに聞いた声とは異なり明確に男性の声だと分かった。僕の中に、若干の戸惑いが生じる。
最初に聞こえたのは、男性とも女性とも取れないような……うーん、よく思い出せない。ただ、この声の主と違う事だけは、はっきりと分かった。
「我が存在は無限にして唯一の物。その認識は、正しくもあり間違ってもいる」
何やら難しい事を言っていると言う事だけは理解できた。
しかし本質的には、殆ど何を言っているか理解できていない。
「言いたい事はそれだけか?」
声の主が問う。
「いや、じゃあ1つだけ。言いたい事と言うよりは質問なんですが」
「申してみよ」
「どうして僕はこんな目に遭ってるんですか?」
初めからずっと心中にあった疑問。解決しないなら解決しないで構わないが、知っても良いなら知りたい。
「それは……汝が自らそう望んだからだ」
「僕自ら……? それはどういう……」
「言いたい事は終わったようだな。ではまた――傍観者たれ」
声の主は、僕の二の句を完全に無視し、言葉を続ける。
確かに1つだけと言ったのは僕だけど、そんなに曖昧な解答では腑に落ちない。
しかしそんな不満を口にする事さえ出来ず、ただただ今まで通りに、僕は深い闇へと飲み込まれていく。
――僕自身が望んだ事……? 全く身に覚えはないが。
僕の脳内で100人の僕がこの件に関しての憶測を飛び交わせる。しかしその最終的な結論はわずか0.5秒にして導き出された。
「「「考えても分からん」」」
討議不能。強制終了。
――僕は、脳内100人会議を開催するのをやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます