閑話

「そしてまた、声があった」

「何か言いたい事はあるか?」


 周囲に何も見当たらないのに、見覚えのある白。


 ただ成す術もなく、僕はそこにいる。


「あれ、別の人だ……」


 聞こえて来た声は、初めに聞いた声とは異なり明確に男性の声だと分かった。僕の中に、若干の戸惑いが生じる。


 最初に聞こえたのは、男性とも女性とも取れないような……うーん、よく思い出せない。ただ、この声の主と違う事だけは、はっきりと分かった。


「我が存在は無限にして唯一の物。その認識は、正しくもあり間違ってもいる」


 何やら難しい事を言っていると言う事だけは理解できた。


 しかし本質的には、殆ど何を言っているか理解できていない。


「言いたい事はそれだけか?」


 声の主が問う。


「いや、じゃあ1つだけ。言いたい事と言うよりは質問なんですが」


「申してみよ」


「どうして僕はこんな目に遭ってるんですか?」


 初めからずっと心中にあった疑問。解決しないなら解決しないで構わないが、知っても良いなら知りたい。


「それは……汝が自らそう望んだからだ」


「僕自ら……? それはどういう……」


「言いたい事は終わったようだな。ではまた――傍観者たれ」


 声の主は、僕の二の句を完全に無視し、言葉を続ける。


 確かに1つだけと言ったのは僕だけど、そんなに曖昧な解答では腑に落ちない。


 しかしそんな不満を口にする事さえ出来ず、ただただ今まで通りに、僕は深い闇へと飲み込まれていく。



 ――僕自身が望んだ事……? 全く身に覚えはないが。



 僕の脳内で100人の僕がこの件に関しての憶測を飛び交わせる。しかしその最終的な結論はわずか0.5秒にして導き出された。



「「「考えても分からん」」」

 討議不能。強制終了。



 ――僕は、脳内100人会議を開催するのをやめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る