第二章 胸キュン青春学園 恋之丘高校
序 「星降る夜に、君がいて」
(承前)
「あ、見て! 流れ星!」
「あー、間に合わなかった。ホントにあったのか?」
海斗が疑いの目を晴夏に向ける。しかし彼のその反応が不服だったのか、晴夏は頬を膨らまして返した。
「海斗がどんくさいからでしょー! ホントにあったんだもん!」
「分かった分かった! 別に本気で疑ってるわけじゃないから!」
詰め寄って来た晴夏を宥める海斗。その様子がまた可笑しく感じられ、晴夏は思わず吹き出した。
「ぷっ、あはは! そんなに一生懸命否定しなくても大丈夫だよ! 海斗ったらおかしー!」
弾けるように笑いだす晴夏。そんな晴夏の笑顔に、海斗はこれまで支えられてきた。晴夏がいて、
「あーあ、でもあんな一瞬じゃ、お願い事できなかったなー」
がっかりとした様子で晴夏は、肩を竦める。
「晴夏のお願い事って何なんだ?」
「え、そうだなあ……」
考え込む晴夏。海斗の方をちらりと横目で見た後、また笑顔に戻った晴夏が言葉を続ける。
「私は、こんな毎日がずっと続けばいいなーって思うかな」
「こんな毎日って?」
「うーん、だから……結以とか誠くんとか、勿論海斗も。今までみたいに、みんなで楽しく過ごせたらそれが一番いいな。これからも毎日みんなで、たくさん思い出が作りたい!」
晴夏は手を大きく広げて、夜空を仰いだ。その晴夏の姿を見ながら、これまで過ごしてきた日々が、海斗の中を駆け巡る。それらはどれも忘れ難い物で、海斗にとっても晴夏にとっても、貴重な宝物だった。
「ははっ、お願い事って……そんなことかよ! まあ、晴夏らしいと言えば晴夏らしいか」
「むー、私らしいってどういうことよ! じゃあ、海斗のお願いは何なの?」
「俺の……願い事か」
海斗は自身へと問い掛ける。俺の願いって何だろう。俺が欲しい物って何だ? そんなことは、考えたこともなかった。
「うーん、分からない、かな」
「えー、何それ! 海斗だけずるーい!」
晴夏が海斗の胸元をぽかぽかと叩く。欲しい物は分からなくとも、そんな晴夏が、自分にとっても大切だということだけは、海斗にも分かった。
「悪い悪い。でも、俺も晴夏と同じかな。俺もみんなが大事だし、こうして俺のことを見つけてくれた晴夏のことは、大切にしたいなって思う」
海斗の言葉で、思わず晴夏の鼓動は速くなる。その言葉の真意が、暗に彼女が期待している物ではなかったとしても、その声は晴夏の中で何度も何度も胸の内を掻き乱した。
「じゃあ……」
「ん?」
晴夏の呟きが、海斗の耳元で響く。星や木々が見守る中、今この世界には自分たち2人だけしかいないかのような錯覚を海斗は覚えていた。
「何かあったら、海斗はまた私のことを助けてくれる?」
先ほどまで胸元で騒いでいた晴夏が、仄かな笑みを
今まで見せたことのない晴夏の表情に、海斗の心臓は早鐘を打つ。
自分の中で、目の前の少女が大きな存在となって来ていたことは感じていた。しかしこの瞬間、その思いは膨らみ続け、海斗の心を圧迫する。
守りたい。守り続けたい。
しかし心の内に湧き出る衝動に反して、その感情が何なのか、海斗には分からなかった。
「まあ……考えておくよ」
海斗は、顔を背けて答える。また、怒られるかもしれない。しかし今の海斗には、これが精一杯の強がりだった。
だが予想とは裏腹に、晴夏は彼を責めはしない。
「ふふ……ありがとう」
また、いつもの笑顔で、海斗を見つめるばかりだった。
「さ、そろそろ宿に戻ろう? なんだか寒くなってきちゃった。先生たちにバレても面倒だし」
その晴夏の言葉は、海斗の意識を現実に引き戻した。言われてみれば随分と夜も深まり、山奥特有の身を切るような風が木々の間を抜けてくる。
「あ、ああ。そうだな。行くか」
「うん!」
晴夏と共に、宿へと歩みを進める海斗。しかしその頬は熱く火照って、全く寒さを感じない。
どうしてしまったんだ、俺は。海斗の疑問に、答えは出ない。
しかし、自分に晴夏の願いを叶えることは出来ないだろうという予感だけは、海斗の中に漠然と残り続けていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます