終 「あくる朝の日常」
ハルバート達がローリエ村を出て、2か月程経過した頃、ブレットから邪竜が討伐されたという話を聞いた。
「そうか、ついにやったのか! 流石はハルバートさん達だ!」
「おう。もう今はどこに配送に行ってもその話で持ち切りだ。ローリエ村には、まだその波は来てなかったみたいだな」
あの後、時折風の噂で彼らの動向を聞く機会もあったが、特にこの村に影響を及ぼすこともなく、今日まで平穏な日々が続いていた。
そう言えばひと月ほど前に、空が暗くなって赤黒い月が上がったままになっていた時期が数日あった。あれは世界レベルで影響をもたらす敵とでも戦っていたのだろうか。不穏な空気はあったものの、実害がなかったので村の人たちも3日目ぐらいには慣れていた。僕も今の今まで忘れていた。
それにしても、旅を終えたハルバート達は、その後どうするのだろう。故郷に帰るのか、まだ旅を続けるのか。それとももっと別の目的を持って動き出すのか。正直、今の僕には知る由もない。
そもそも邪竜の討伐が終わって世界が救われたのに、今は何の時間だ? 後日談か? まあそれしかないか。
きっとどこかで活躍しているハルバートの姿などが、煌びやかに描かれているのだろう。一体どこで何をしているのやら。
「そいじゃ、今日の配送はこんだけだ。また明日な!」
「ああ、ありがとう、ブレット。じゃあまた」
ブレットが荷馬車に乗って去っていく。今日もまた、平穏なローリエ村の日常が続く。
彼らがこの村で過ごした日々を思い返す。僕がテオボルトに与えた影響は、かつてそんなことがあったという程度の思い出にでもなっているのだろうか。
しかしそれでいい。僕の存在とはそういうものだ。誰の記憶にも残らないのが当然なのだ。ただの傍観者として、そしてただ一度だけの脇役として、僕は僕という存在を維持し続ける。
今もこうして、客のいない宿屋のロビーを箒で掃くのが僕の役目だ。自分でも損な役回りだという気がするが、そうなってしまったものは仕方がない。
そうして粗方床に溜まった砂埃をチリ取りで回収していると、徐々に意識が遠退いて行く感覚を抱いた。目の前はぼんやりと薄暗さを持ち、視界はその意味を失おうとしている。
この感覚は、間違いない。
きっとどこかで、ハルバートの物語が終わったのだ。
そして同時に、役目を終えた僕の意識も――深い闇に落ちて行った。
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