50.愛のない結婚

「大人になったあなたからの申しこみであれば、真面目に検討しますから」


 そう言われて、リーゼロッテはふしぎに思った。


「こどもでも、こんやくする人はいるでしょう」


 よそのお屋敷のご婦人を招いたお茶会で、母たちが世間話で語っていたのを聞いたことがある。もっとも母の表情は晴れやかではなかったし、心から祝福をしているようではなかったが。


「それは家同士の都合でそうなることもあります。しかし、ご本人の意思で決められるものではありません」


「ほん人のいしではないの? けっこんって、みんなすきなひとと、いっしょにいたいからするのでしょう?」


 リーゼロッテには納得できなかった。結婚とはすべて、愛し合うもの同士が一緒にいるために存在するのだと思っていた。愛し合わない結婚が、あるのだろうか?

 子ども向けの物語の中では必ずそうだった。龍を倒した剣士と囚われの姫君だって、若々しい王子と慈愛に満ちた王女だって、愛し合って結婚していつまでも幸せに暮らしたのだ。


 その言葉は、ルイスにとってなにかよからぬ効果をもたらしたようだった。彼は考えのうかがえない複雑な表情になった。声のトーンもやや下がる。


「愛ももちろん理由のひとつでしょう。ただ、みながそうなわけではないです。生活の安定や、世間体といった理由もありますし……」


 そんな彼のようすが、無性に気になった。


「ルイスはちがうの?」


 リーゼロッテのまっすぐな問いに、ルイスの黒い瞳は明らかに動揺したように揺れた。

 

「……そうですね。そういうことは、よくわかりません」


 めずらしく、ぽそぽそと口にした。

 ひどく辛そうな彼の表情が気になった。追いつめるのはかわいそうだと思ったが、ないことにできる話ではなかった。ふたりの将来に関わることだ。

 それはどういうことか詳しく問おうとした。

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