29.初対面の印象

「はじめまして。ルイス・ハーヴィと申します」


 品のある笑顔とともに、メイドの一人一人にまで礼儀正しくそう挨拶をした黒髪の青年は、カティヤの目に様々な点で好ましく映った。

 姿勢がよい、高めの身長もよい、清潔感がよい、言葉づかいがよい、年齢も近い。なにより顔がよい。

 カティヤ好みの武官のような力強さには欠けるが、及第点をあげてもいいと思われた。公爵家や貴族とのつながりがあるのもポイントが高い。


 ちらりとエステルとミアに目をやった。

 カティヤから見て、年頃の娘らしい心というものを持ち合わせていないように思えるこの同僚たちは、なにも感じてはいないようだった。

 もともとそういう性質なのに加え、とくにいまのようにリーゼロッテが病に伏している状況では、なおさら異性に関心を持っている場合ではないのだろう。


 しかし、カティヤはいつでも恋に生きる女を自称している。


「あぁら、はじめましてぇ。カティヤ・エーメリーと申しますわ。よろしくお願いいたしますわあ」


 よそいきの高い声で挨拶をした。エステルとミアがぎょっとしたようにこちらを見たが知ったこっちゃない。

 対して、ルイスと名乗った青年の態度は変わらない。相変わらずものやわらかな笑顔のままだ。


「ご丁寧にありがとうございます。エーメリーさん。よろしくお願いいたします」


「いやだわ、カティヤって呼んでくださいな」


 カティヤは差し出された彼の手をぎゅっと握ると、その手のひらを指でこっそりくすぐった。気があるという合図だ。

 若く美しいカティヤに好意を向けられて、無下にする男はほぼいなかった。


 しかしルイスは微笑みを崩さないまま、あくまで丁寧にやんわりと、すっと手を抜くようにひっこめた。


(あら……?)


 鈍感なのかしら……。それとも照れてるの……?


 そう思って、その後もことあるごとに何度か「サイン」を送ってみた。


 だが、そのたびにルイスは、なにもなかったかのような顔をして、カティヤからのアプローチを自然な態度でかわした。


 その事実はたいそう不愉快だったが、彼はリーゼロッテの健康を取り戻すために、へんてこなぬいぐるみを操ったり、健康によい食物を探したり、あちこちに根回しするのに忙しいようすだったため、心に余裕がないのかもしれない……と考えて気を取り直した。

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