第2話

 ノックの音に目を覚ました。

 起き上がり、髪を掻き上げる。

「どうぞ」

「失礼する」

 部屋へ入ってきたのは昨日の男とは違い、ガタイもよく背が高い。

 見上げるような形でその目をいつもの癖で真っ先に見た。

 蒼い目は外国人によくいるよな。

「君、名前は?」

 自分が名乗る前に名乗らせるとは。

 それについては目を細めるだけにして、猫背を直す。

「寺嶋と申します」

 そう、自分の名前は寺嶋テラシマ 和也カズヤ

 テラシーというあだ名でよく学生時代は呼ばれたものだ。

「テラシマ カズヤ?聞かない名だな」

 ふむ、と腕を組んでそう呟く。

 そう言われても、そうでしょうね、としか返せない口だ。

 何せ、どうやら此処は日本じゃないらしいから。

 それにしても言語が通じるのも不思議だ。

 この国……名前は何といったか覚えていないが、召喚だとかいう漫画やアニメ等でお馴染みのことが出来るらしいからな。

 日本でそんな話はやはり二次元でしか……。

 いや、待て、もしかしたら此処がその二次元でよくあるあの、異世界なのだとしたら?

「あぁ、悪いな。私は、クラウドと言う。テラ…、お前の世話役を任された。よろしく頼むぞ」

 今、名前を諦めたな?

 まぁ、仕方ない。

「なるほど。了解した。自分のことはテラシーで構わない」

「そうか、テラシー、何かあれば私に聞いてくれ」

「了解」

 取り敢えず呼びやすいように、自分の学生時代のあだ名を使うとしよう。

 このテラシーというのは、クラスメイトがリテラシーという言葉から勝手に編み出したものだ。

 地味に言いやすさ、覚えやすさでは気に入っている。

 まるで学生時代に戻った気分だ。

「クラウドさん、」

「クラウドで構わない」

「では、クラウド。自分はまだ此処に来たばかりで色々と勝手がわからないのだが、色々と生活に支障が出ないように教えて貰えないだろうか?」

 呼び捨てで構わないのならそうする。

 クラウドは頷く。

「そうだな。それではまず此処で過ごすのに必要な知識から教えていこう」

「助かる」

「なに、テラシーが此処に来たのは私らの失敗だからな。当たり前だ」

 フッ、と笑んで部屋を出て案内が始まった。

 無駄に高い天井の廊下を歩く。

 少し歩けば止まった。

「此処が風呂場だ。もし、他者の目が気になるのなら夜遅くに入れば使用する者が少なくて気が楽だろう」

「なるほど。なら、そうするとしよう」

 風呂場の掃除が行き届いていることを願うが。

 中は使用時に見るとして、次の案内に映る。

「此処が食堂だ。皆、此処で食を取る。料理人に食べたい物を言えば大概作ってくれるぞ。後で朝食を食べに行くといい」

「なるほど」

 食堂も無駄に広い。

 だが、こうした食堂は初めてで少し期待感はある。

 既に賑わっている様子はあまり見慣れず好かないが、隅の方で朝食を頂くとするか。

 次の案内に移る。

「それで、此処が図書室だ。大声での会話等は禁止している。気を付けることだ」

「なるほど」

 また無駄に広くデカく、多い。

 静寂が保たれているせいか、少しの音も響きそうだ。

「今必要そうなところはこのくらいだろう。気になる場所は行ってみるといい。比較的安全そうな場所はこの三つだ」

 比較的安全そうな?

 ということは、他の場所は多少なりとも危険が孕むということか。

 安全そうな場所がこの三つしかないのなら、この三つと自室を中心に生活をしていくとするか。

「私はこれから用事がある。何かあればその場の者に聞いてくれないか?」

「了解した。有難う」

「うむ」

 颯爽とこの場を去るクラウドの背を見送り、朝食を頂こうと食堂へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る