惣菜パン鶏肉入り

朝凪 凜

第1話

今日は友達と料理を作る日だ。

料理と云ってもそんな凝った物を作るわけでは無い。

パンを作るのだ。

そもそもなぜそんな話になったかといえば、うちでホームベーカリーを買ったからという単純な理由だった。

学校で、じゃあ一緒にやろう、と言うことで3人で作ることになった。


日曜日に女子高生3人で料理を作る。

それだけなら聞こえは良いのだけれど、まともに作れるかどうか怪しい。

料理経験者は居ないのだ。調理実習でそれなりにやった程度。アレンジレシピとかやった日には大惨事になること必至。

そんなわけで簡単なパンを作るということになった。材料を分量通りに量って入れるだけなのだ。これなら誰でも出来る。というか材料入れ終わってあとは待つだけだ。

「ウグイスパンってなんでウグイスなの?」

陽子が待っている間にそんなことを訊く。

「それはね。鵜という鳥が居てね。その鵜が食べる魚をウグイっていうのね。ウグイをスライスして餡に練り込んでパンに付けたらとても美味しかったからこれをウグイスパンって言ったのが始まり」

私は適当に答える。

「ウグイスが入っているからウグイスパンじゃないの?」

佳枝がお決まりのボケを入れてくれる。

「ウグイスは入っていない!」

ちなみに今作っているパンはブリオッシュと言うバター風味の食パンみたいなやつだ。

「でも鶏肉入りのパンだったら惣菜パンみたいで美味しそう」

「ウグイス食べるの? あっ、美樹の家に文鳥いたよね。入れる?」

「入れない!! 人の文鳥を食べるな!」

人間に捕食される文鳥。そもそも食べられるのかも分からないし、食べたくはない。

「そっかー。残念。そういえばその文鳥の名前なんだっけ? 文太?」

「文太って誰よ。うちの文鳥はよ。」

「へー、なんでって言うの?」

「あんた訊いてばっかりね」

「謎があれば解き明かしたい。それが私、陽子ちゃんです」

「はいはい。うちのは、ずんだ餅みたいに丸っこくて緑色をしていたからって名前になったの。」

「ずんだ餅。食べたこと無い。どんなお餅なの?」

「また訊くの!?」

「まあまあ。謎があれば――」

「さっき訊いた」

「あ、うん。陽子ちゃんです!」

「最後は言うんだ……」

あきれるというか答えるのも面倒になって途方に暮れる。

「……ずんだ餅は枝豆を潰して餡にしたやつよ」

「ものすごく端折られた気がする……」

「面倒になったからね」

「ウグイスパンってウグイス餡が入ってるからそういうって書いてあるよ」

佳枝は1人携帯を見ていたと思ったらウグイスパンを調べていたようだった。

「ウグイス餡? それは――」

「またか! はいはい。ウグイス餡はグリーンピースとかの緑豆で作ったものね」

「何も訊かずに答えてくれるなんてさすが私らの美樹」

「何がさすがなのかさっぱり分からない」

「でも枝豆でずんだ餅になって緑豆でウグイス餡なの、どっちも同じような気がする」

「和菓子に使うか洋菓子に使うかみたいな違い?」

「ウグイス餡は日本発祥らしい。というより、ウグイスパンという名前からウグイス餡が出来たみたい。逆だね」

会話に入ってこないと思ったら佳枝はまだ調べてたらしい。

「名前って訳分からないね。みたいに」

ピーという音が鳴ってパンの良い匂いが漂っていた。

「あ、出来たみたい」

外していたエプロンを着け直してホームベーカリーの蓋を開けると――

「パンの良い匂い」

「バターの美味しそうな匂いもする」

「これは成功だね」

材料を入れて、ドライイーストをイースト入れに入れて待っただけだから成功するしかないと思ってるんだけど。


そんな簡単なパンを美味しく食べることが出来たので、これはまたやろうと3人で決めた。

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惣菜パン鶏肉入り 朝凪 凜 @rin7n

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