遅咲きの花


「もう、同じことをどうして! 」


最近ラランは機嫌が悪い。次の町にやってはきたが、前と全く同じことの繰り返しだった。同じように町の人の家に泊めてもらったが

「妹さん、調子が悪いの? 」と言われるほどに、見たこともないようなラランの不愛想ぶりだった。家に帰って食事をしたら、彼女だけすぐに寝てしまうのだが、何故か睡眠不足のような状態が続いていた。


「ああ! 」


 仕事中のラランの大きな声に驚き、リュウリはラランのもとへ駆け寄った。手で顔を覆い、「ああ」と言い続けていた。ラランの前には命色されたであろう花があった、だがそれはくったりと折れて、地面に近い部分はまるでとぐろを巻いた蛇のように、茶色と黒の斑点が出てしまっていた。


「色間違い」


茎の色と根の色を間違うという、極めて単純で初歩的なものだ。目が見えている自分でも、数をこなそうと思っているうちに危うく何度かそうなりかけた。だがラランにとっての色間違いによる失敗は、聴色師として犯してはならないものだった。


「ララン、少し休むといい、心を落ち着かせた方がいい、もっと早くそう言ってあげればよかった、ごめん」


「そうね、落ち着いていなかった、まったく、見ても、聴いてもいなかった・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


花に必死に謝っていた。ここまでなってしまっては取り返しはつかないのだ。リュウリはちょうど通った荷車にラランを乗せてもらい、一人残って命色をした。


「ララン、僕は何も考えていなかった。自分の事しか、散色師の事しか、何よりも君のことを考えなければならなかったのに」


失敗から二人とも学ばなければならなかった。




 次の日、ラランはこの町の自然に詳しい人と話をさせてくれないかと頼んだ。すると「最高の適任者がいる」とある男性を紹介された。年は自分たちの父よりも少しが上だろうか。落ち着いた、老師と似た雰囲気の人だった。


「よろしくお願いします」


「若い、カワイイ聴色師だね。うれしいよ、命色の手助けができて」と男性はこの町の自然案内をしてくれた。聞けば様々な経験を経てきている人だった。

 

 命色師になるのは難しいことだ。ある程度の才があれば学校には入れるが、それが伸びなければ道を断念せざるを得ない。命色をしなくなると、不思議なことに命色の能力自体もなくなっていってしまうと言われている。在学中に急に出来なくなる、そのような事態に陥ることもある。その時は休学して復学という道も残されているが、そのまま帰ることなく、という生徒、それが彼だった。


「昔々のことだけど、その時は落ち込んでね、でももともと自然が好きだったから、それを忘れてはいけないと教師になったよ」と今はこの町の先生だった。この世界にももちろん基本的な教育、義務教育がある。リュウリもラランもそれを受けただけで、そのあとはずっと命色をしていた。


「散色師の彼は大変だったと思うよ、資料は学校にあったかもしれないが、散色師はそれこそ千差万別で、やり方も決まったものがない。手探りでここまでやってきたんだろう。彼の姿を見て私は涙が出たよ。悪くいう人もいるがそれは違うと思う、君も大変だろうけれど」


それを聞いてラランは、前の町で聴いた花の声を、イライラした気持ちで命色してしまっていた自分のことを打ち明けた。


「あまりにも長い時間白化したものの側にいることは良いことではない、特に聴色師の、感覚の強い君にとっては死活問題になる。お兄さんも休み休みでないと、逆に能力が下がってしまう可能性がある」

 

 白化したものの側に寄り添い、声を聴くことは大事だ。だが長時間は良くないことだと言われてきた。例えば聖域の山の側などに行くと、能力自体が弱まると言われている。ラランはそのままリュウリに会いに行くことにした。


「リュウリ! 」


ラランの澄んだ声を久しぶりに聞いた。リュウリは 二人の所に近寄り年配の男性に


「どうもありがとうございます」とお礼を言った。


「いやいや、何もしていないよ、でもきれいだね、素晴らしい命色だ。君たちの山の色石はほかの所のものとは違うと聞いていたけれど、輝きが違う、別種の様だよ」と笑った。ラランはリュウリにピンク色を出してくれるように頼んだ。


「命色するの? ララン? 」


「ええ、私ではないけれど」と男性にその色を差し出した。


「やってみてください」


「無理だよ!」」


「大丈夫です」とラランの強さに負けたように彼は何十年かぶりに命色をしてみた、呪文の後、しばらくすると




「できた・・・」



花は固まったような白から美しい、優しいピンク色へと変わった。


「ここの動植物たちが、あなたに助けてほしいと言っています、今はそれが聞こえます。これからは、あなたがこの町の命色師となってください」そうラランは言った。


「ありがとう、ララン、リュウリ」


次の日からは、三人で短い時間命色するようにした。

 

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