散色師キザン

 

 昔は命色師は町に一人は必ずいたものだった。それがいつの間にかいなくなったのは、白化する場所が決まってくるようになったからだった。聖域の山からは遠いはずの、人の多い街の方が何故かそのことが多く起こった。だが前の町もここもそうなのだが、それほど大きな街ではないのに、大規模な白化が起こっていた。


「急にだった。確かにここは頻繁に人が訪れるところではない、でも全く通らないところでもない、気が付いたら一面そうなっていたんだ」

前の所でも全く同じことを聞いたリュウリとラランにとって、得体のしれない何かは、確実に着実に大きくなっているように感じた。


「私も今やっと命色師の端くれになれた。この町を守れるように、私も最善を尽くすよ、君たちはもっと大きなことをなさなければならないだろうから」とこれから先のことを予言するかのように男性は言った。

その一週間後、リュウリとラランはこの町を後にした。


 

 それからさらに三か月、二人は散色師の後をずっと追いかける旅となった。だが先に行けば行くほど、その散色師の腕が上がっていることに気が付いた。


「荒いと聞いていたんだが、それほどでもないけど」


と訪れた町の人は言うようになり、ほんの少しの命色をしただけですぐ次の町、ということになった。そしてここを出れば砂漠地帯が数日続くという町にやってくると


「一週間ほど前にやってきたよ、一気に命色して、そのまま砂漠に行くって言っていたよ、命色師の練習場があるから」と聞いた。散色師が命色した場所で数時間だけ補色(ほんの少しの手直しという意味)をして、二人はすぐさま大掛かりな旅の支度を始めた。




「大丈夫かい、重いだろうララン」


「大丈夫よ、リュウリこそ水があるのに」


「男だからね、これぐらいは運ばないと、って町の人に言われた」


 二人は大量の食糧を背負って砂漠地帯へと向かっていた。ここは砂の砂漠ではない。岩や石がゴロゴロあるいわゆる礫砂漠だ。この砂漠には染石と呼ばれる命色師が練習として使う石がたくさんあって、リュウリも最初の頃はこれを練習用として使っていた。命色して一旦染まるが、一日たてば元に戻る。大きく二種類あって、色が雨や夜露で流れてしまうものと、逆に吸収してしまうものがある。

 朝早く町をでて、そろそろ夕暮れ近くになろうとしていた。砂漠の中には点々と小さな小屋が立っていた。あるものは岩山を背に、あるものは踏み固められてできた道の側、岩山の中のとても小さな水の流れ近くにあるものと様々だった。その小屋を一人の大工が修理をしていた。

旅をするものはその土地でお金を払わなければならない。金額はもちろん町によって違う、この砂漠の町では払う代金が多く、そのお金でこの小屋を修理したりしているのだ。小屋は誰がどこを使っても良い、だが、常識的な使い方をしなければいけないという暗黙のルールはある。


「しっかりとした小屋だね、石造りのものも多い」


「ここはウオーフォーの出る場所なのでしょう?リュウリ」


「そうだったね、そのせいだ」


 この砂漠地帯には東の大陸最大にして最強と言われている、四本足の肉食獣が住んでいる。もちろん旅人の馬もその標的となってしまうことも多いため、頑丈な小屋がいるのだ。このウオーフォーを人間は何とか飼いならし、小型化したものに乗って移動することができるようになった。ウオーフォー乗りと呼ばれる人々は主に警察官が多い。平坦な道も、もちろん野山も自由に駆け回ることができる、この国では最速、最強の乗り物である。しかしウオーフォーに長時間乗ってしまうと他の動物、馬や鳥(大型化させて乗れるものがいる)には一切乗れない。それらを食べるウオーフォーの匂いが染みついているからだと考えられている。


「さあ、何処にいるのだろう」とリュウリは砂漠の中を見渡すと、一筋の煙が上がっているのが見えた。そこに向かってラランと歩き始めた。

石にラランが転ばないように気を付けながら歩いていると次第に声が聞こえてきた。



「ちくしょう・・・重いなあ・・・水の重さは命の重さ、か。先生も良いこと言うよな・・・くっそー面倒だな、自分のためとはいえ、いやそれだけじゃない、かわいい、かわいい・・・」


と小さな川から水を汲んでいるようだった。二人は足を止めた。すると谷のくぼんだ所にある川から上ってくる、極端に短く刈った頭、少し黒く焼けた細長い顔、すらりと引き締まった体が見え始めた。だが、両天秤の水の重さと大事さで彼は斜めの所にある足元しかまだ見ていなかった。やっと登り切って


「はあ、休憩、最後の一回だ」と桶をゆっくり置いて、その場に座り込んでしまった、


そしてやっと自分たちに気づいた。


「よう・・・相棒・・・」


三人でほほ笑んだ。

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