花畑の惨状

 

 度重なる神への裏切りは、その都度山を失うことを意味した。だからどうしても鉱石を取り出してそれを加工するという面において、我々の世界より劣っていると言わざるをえない。旅は徒歩、または馬(大きさは同じぐらいだが、我々の世界のものより少し目と耳が小さい)であり、海や川は船だった。この世界には、古くから聖域とされている大きな山がある島を中心に、南北、東西と四つの大陸がある。島の行き来は活発で、潮の流れも気候の変化も長年の積み重ねからよくわかっており、大きな船が難破ということはここ百年近く聞いたことはなかった。


二人の旅の目的はこれと言って決まっていなかった。とにかくいろいろな場所に行って数をこなすこと、それこそが何よりも大切だと話し合っていた。


「結婚式のドレスの色を迷っているの、どの色がいいかしら? 」


それが旅に出た二人の最初の仕事だった。命色師はこのような仕事も請け負う、

「色についてのすべて」と言っても過言ではない。


「これからの生活を包み込めるような色が良いかと思います。あなたの好きな色の中で、それを選ぶのがよろしいかと」自分よりも年上の女性にそう言い切ったラランは立派だったと、リュウリは後で言った。


「そう、やっぱりそうよね、どうも有難う」

それだけにしてはかなりのお金をもらったが、お祝い事なので、ありがたく受け取ることにした。これが最初の仕事になるなんてと人生の不思議に笑った。

 

 旅は思った以上に順調だった。近隣の町では老師の弟子ということは知れ渡っていたし、通信所と呼ばれている役所と郵便局を兼ねたようなところに行くと、命色の仕事を紹介もしてくれた。

「きれいな仕事をするね、ありがとう」と感謝をされて、宿に止まらず、町の代表者の所に世話になったりした。だが先に進めば進むほどやはり知らない人ばかりになるので、リュウリは無理をせず、日の高いうちに次の町に着くということを心掛けていた。そうやってその日も次の町に着いた時だった。

 

 そこの人たちが、自分たちを見るなり、ひそひそと話しているのが分かった。命色師はフードの下にたくさんポケットのついたベストを着ているのが普通だった。そこに何色もの色を入れるためだ。そのベストが見えるたび、たとえ刺繍の山が目に入ったとしても、その奇異なものを見る目は変わらなかった。二人はとにかく通信所に向かった。するとそこでは


「ああ! 君たちだね! 待っていたんだよ! 」とすぐさま立派な部屋に通され、食事やらデザートやらと歓待された。


「もうすぐ町の代表者たちがここに来るから、それまでゆっくりしておいて」

この世界では一般の人々が命色師のことを話すのはあまりよくないことされていた、命色師の名前を伝えることも。何故なのかはわからないが、それが風習となっている。だが町の代表者などは別で、案外詳しい情報なども知っている。

しばらくするとドアが開き、数人の年配者が入ってきた。


「君たちだね、とにかく現地に行ってみてほしい」

と屋根のついた立派な馬車でそこに行くことになった。この町は盆地の広い平野部で、ほとんどまっすぐな台地に、畑が広がっている。そうでないところには花が咲いていて、ミツバチが盛んに蜜を集めていた。リュウリは周りを見ていたが、徐々に奇妙な光景が見えてきて、馬車はその前で止まった。


「なんだ? これは 」


リュウリのその言葉に町の人たちは、うんうんという感じだった。


「白化しているの? それともそうじゃないの? 」ラランが聞いた。


「その両方だ、ララン、とにかく周りをまわってみよう」とラランと二人、ぐるりと歩くことにした。


「まるで緑色の水をぶちまけたようだな」広さはラス(サッカーのような遊び)のコートと同じぐらいあった。


「ひどい、花の横に色が落ちている」


「感じるんだね、ララン」


「ええ・・・」


二人が元の所に帰ってくると、町の代表者はこう言った。

「まあ、こんな状態なんだ。半年ほど前に白化してね、命色してもらったんだ。これから広がってはいないから、一応は仕事はしたとみるべきかもしれないね。すごいとは思うよ、これをほとんど数分でやったんだから」


「数分??? 」


リュウリとラランは兄弟で同じ声をあげた。

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