若い決意
ラランは、道を歩きながらいろんなことをと考えていた。
自分の決めたことは、感じたことは間違いではないと確信に近いものはある。だが、それが果たしてリュウリにとってみればよいものなのかと思ったからだ。
リュウリが命色の旅に出たいと思っているのは、随分と前から知っていた。もし母の容体が悪くなることがなければ、すぐさまにそうしたかもしれない。だが、できなかった。それがララン自身にとってはもしかしたら、怖いことなのかもしれないが幸運だったのかもしれない。数年前であれば、自分は幼すぎて同行ができなかった。
リュウリは幼い頃からとてもやさしかった。大きくなって母親が違うことを知り、それが理由かと納得したが、目のことも大きかったのだろう。
他の兄弟はまるで当然のように、ストレスのはけ口としてなのか喧嘩をするが、そんなことはしたこともなかった。だとしたら、リュウリはどこでそれを発散するのだろうか、そう思っていた。
「この町はもう大丈夫、ほかの所を手伝ってあげた方が良いかもしれない」
父とリュウリと三人で家にいるときに自分が言った。その時の二人の顔を見て見たいとラランは願ったほどだった。それに対して父は
「リュウリ」
と小さく言った。自分の願いは、リュウリに
「目が見えない若い女を旅に連れて行ってくれ」と言っていることなのだ。そのための苦労は計り知れない。命色のための旅なのに、このことに、もしかしたら一番注意を払わなければならないかもしれないのだ。
でも、それでも心が何かざわつく。今動かなければ、何千年も守られてきたこの町さえも、何かに飲み込まれそうな予感がするのだ。
しばらくしてリュウリは言った。
「ありがとうララン。そうだ、行こう一緒に」明るくそう答えてくれた。
「私も、自分でできることは、自分を守ることはしなければ」
と聖域の山の道で、固くラランは誓った。
リュウリは幼い頃からを順々に思い出していた。自分の母が亡くなって、家の中に何も、自分すらもいなくなったような感覚を覚えている。そのあと一人の優しい女性が来て、自分の世話をしてくれるようになった。その人が自然と母になり、そしてラランが生まれた。ラランは生まれた時から目が見えなかった。だが、ピンク色のきれいな頬も、小さな小さな手もリュウリは大好きだった。
「ラランは救い人になるんだよね」
と言った自分の言葉が大きな支えになったのだと、後々両親から聞かされた。救い人、人間が神の怒りにふれ、また色のない世界に戻った時、目の見えない彼らが逆に導いて、生き抜くことができたのだ。だからこの世界では目の見えない人のことをそう呼ぶ。そして救い人の中には命色師も、人並外れた聴色師も多くいる。
初めて命色した日、それは忘れられなかった。色が付いた瞬間は驚きと感動で自分の時が止まってしまった。でもラランの言葉の後にまた命色がされると、その花はまるで光っているように見えた。
「成功、失敗、大成功だったよララン! 」
その日は眠れず、二人でずっとその話をしていた。自分が命色したときはしんとした感じだったこと、ラランが言う通りの色にしたら花がキラキラと輝いて、まるで喜んでいるようだったこと。そのことを何度もラランに話して聞かせた。
それから命色が面白くて仕方がなくなったが、リュウリも友達と普通に遊ぶこともあった。男の子同士で遊ぶ約束をして学校から家に帰るとラランが
「今日は結縄文字(キープ)の練習をするから」そう言った。
「ラランは人の心がわかるのか」そう思ったことは一度や二度ではない。
特別にラランのために何かをしたと言えば、ラランの目のことをからかわれて、勝てるはずもない、年上の大きな男の子に向かっていったことがあった。必死だったので、逆に相手が怖がって逃げてしまった。次の日、掌を返すとはこの事かと思うほど、その子はラランに優しく丁重になったのは、きっと救い人のことを親から聞かされたからだろう。女の子たちもラランを仲間外れなどにはしないように見えた。
だが旅だ、全く違う、守らなければならない。妹として、女として、いや、優れた聴色師としてだ。
ラランなしで命色をしてみたこともある。しかし数日後、その植物がみるみる弱っていくのがわかり
「ララン実は・・・」と正直に話した。するとラランも
「私も命色をしてみたいとお願いしたの。できないことはなかったんだけど・・・あまり上手くはいかなかった」と打ち明けてくれた。その後、バラバラに行動するのは止めた、自分たちの力試しのために犠牲者が出てはいけないのだと痛感したからだった。それからは白化するものが多くでて、二人で完璧に完全にやらなければならなくなった。母のお見舞いよりもかけている時間が長くなったが
「町を救わなければ、リュウリ、ララン」と母は逆に励ましてくれた。
葬儀の時に
「ごめんなさい、あなたたちに頼って・・・まるで町とお母さんの命を・・・」
と何人かから言われたが、このことはどうしようもないことだった。
それからまだ時間がたってはいないのに、旅に出るべきかどうか自分は悩んでいた。それを一見大人しいラランがパンと大きな音を立てたかのように「旅に出よう」と言ったのだ。ラランは案外そんなところがある。
「女の方がいざというときは覚悟が決まっているのかもしれん」
と父は自分に言い、短い間に創色の更なる技術を自分に伝授した。自分たちが旅立った後、父が全く一人にはならないという安心感もありはした。何故ならこの町には国中から、また他の国からも創色の技術を学びたいと言う者がやってきていて、父もそろそろ弟子を取って育てなければいけない年齢ではあったからだった。実際、何人か尋ねてきたが母のことで丁重に断っていた。きっと自分の部屋もラランの部屋ももしかしたら今後彼らのものになる可能性の方高い。
それぞれのやらなければならないことが見つかっていた。
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