二人のサンガ


 言っていることと、やっていることが真逆の署長を、リュウリとコジョウは信じるしかなかった。


「急げ!!! 山が崩れるぞ!! 」

全速力でその場から離れたが、気になったのは操り人形たちの事、何人かは同じように逃げ出そうとしていたが、

「リュウリ! 振り返るな、前を向け! 」

誰かのその声に従わなければ、今はいけないと思った。


小さな聖域の山から爆音がし始めた。土煙が襲い掛かるように地を這い、また上からも降ってくるような状況から抜け出るのに、そう時間はかからなかった。


「完璧な作戦が組まれていたんだ・・・敵が山を崩すのもすべてわかった上だ。これが千里眼の力? いや、違うような気がする、相手の思考を読んでのものなのか」

リュウリはずっと考えていた。



「部隊の確認を! 」

「他の部隊は先行して退避しています。負傷者はいますが命に別状はありません、ここも全員います、リーリーとラランさんも無事です」


「よし、で、サンガは」


作戦の最大目的はそうだった。集まった部隊のものは、そのことを誰も何も言わずにいたままで、今度ばかりは「本当に知らない」顔をしていた。自分自身の身を守るのが精いっぱいだったという、リュウリと同じ気持ちのものはたくさんいたのだ。

リュウリはコジョウを見つけ、お互いが黙ったまま近寄った。



すると、ごく薄い茶色の布がかかったような聖域の山の方向から、複数の人の声と足音がしてきた。しかも少々楽し気な感じまでする。


「埃だらけだわ、お風呂に早く入りたい」


「全く・・・人使いが荒すぎるんだよ、何年ぶりに呼び出したと思ったら急にこれか! 」


「フフフフ、しょうがないさ、あいつのやること」


「ちくしょう! 離せ! 」


「まあ、しつけがされてない典型的な子供だな。お前の若い頃そっくり」


「こんなにひどくないぞ! 」


「うるせー!! じじい!!」


「何だと? お前より小さい子がいるんだ! そんなんじゃ、うちの子たちと遊ばせてやらないぞ! 」


「誰がガキなんかと! 」


「娘もいるわよ、あの子はとっても可愛いの、将来絶対美人になるわ」


「あんたの娘でなるか!!! 」


「何ですって!! 」

パン、と子気味良い音の割に、その後しばらく静寂が訪れた。


「神の娘の一撃じゃあ、危ないよ、ビギナ」


「ついつい・・・」


「大丈夫大丈夫、ケツを叩いたんだから」



 

「サンガと仲間たちだ!! 」


誰からともなくその声がして、次第に姿も見え始めた。

やはり最初に見えたのは、大男、その大男が荷物のように、手足を縛られた人間を肩に担いでいる。そして髪がふわりと横に広がった女性と普通の大きさの男二人


「サンガ!!! 」数人が近寄って行っが、リュウリたちはそこに立ち止まったままだった。そしてサンガと離れた他の三人は、明らかに自分たちの方に近づいてきていた。その時に


「コジョウ! 」

「ララン! 」


リーリーが到着し、若い恋人たちは再会できた喜びに、強く抱擁したので、三人も足を止め、リュウリとともにその様子を眺めていた。リュウリは、視界が完全に回復し、同僚に祝福を受けているサンガがちらちら目に入ると、サンガと会ったことのない警官たちと同じく、不思議そうに首を傾げた。何故なら明らかにサンガが他の三人に比べ「とびぬけて若い」のだ。


「そんなはずはない・・・だって噂が流れたのは随分前で・・・」


目の前の状況に、こればっかりは嘘はないはず。その不思議な雰囲気にコジョウとラランも気が付いたのか、コジョウは久々にサンガをちらりと見てから、この一行にラランとともに礼儀を正すように体を向けた。


「全く、息子に一番に嫌味を言ってやろうと思ったのに」

とちょっと癖のある感じの男は言った。

「アタシたちはもう大人よ、いいじゃない、これで」とビギナと呼ばれる女性は、サイサイと似た雰囲気だった。


「どうせなら本家を待つか、俺たちのサンガはどうした? 死んだのか? 」


「死んだ人間が答えるのか」


聞き覚えのある声がした。


いつの間にか別の男性がやって来ていた。


「キリュウさん?・・・」

「お父さん? 」


「本当にお前のおやじは何なんだ! 大悪人か? 弟子を影武者みたいにしやがって、なあ、若いサンガ! ああ! 言ってやった! お前の大きくなった息子に絶対いってやろうと思っていたんだ! ああ! すっきりした! 」


「お前に出会わなければ、俺は誰にも知られず、どぶにはまって死んでいたような人間だったって言ったのはどこの誰だ? それが今は何人も子供まで持つようになったのは誰のお陰だ? 」


「私のお陰よ、サンガ」


「確かに、ビギナ」


「ハハハハハ」

大きいがやわらかい大男の笑い声に、リーリーたちの輪の中心にいるサンガが、こちらに向かって歩いてきた。

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