サンガの力
しばらく草の上に放り出された大男の肩の荷物は、完全に忘れ去られていた。
「お久しぶりです、キリュウ、いえ師匠。まだまだ間抜けな弟子で・・・」
バツの悪そうなサンガをみんなは楽し気に見ていたが、キリュウだけはこの輪の中に全く入ることのできない、若い子悪人の方に目をやった。
「連れて来るのかサンガ」
「頼めるか、セン」
「たやすすぎることだ」
と大男はしばらくぶりにまたその男をからい、大勢が集まれるような所に持っていった。手首足首を縛られているが、座ることはできるので、センは優しく地面に下ろした。男は決められたように地面に座り、今度はこのフードをかぶった男が中心となった。
さっきまでの暴れていた元気は何処に行ったのか、無言の、しかしもちろん反省らしき雰囲気は皆無の者に、その場にいたものはほんの一部だけ同情の余地を残していた。
何故なら声から察するに、どう見ても若く、リュウリやラランとそう変わらない年であることが明白な事実としてあったからだった。
キリュウがその頭のフードをゆっくり外すと、
「う! 」
という声を出すものは当然のごとく多くいた。
「まだらな人間」
顔の一部は人体の解剖図のように鮮明でぴくぴくと動き、また石膏像のように白く固まって見えるところもある。また別のところは透明の様に抜け落ち、頬の端のほんの一部分だけが人間としての肌の色を残していた。顔という最も目につくところがそうだったのだ。
誰もがこの姿に驚きと、彼を「故意にこの状態」にした者への怒りがその場に満ちた時、それが導火線であるかのように、この人間が口を開いた。
「どうせお前たちはこのままおしまいだ! 命色師もこの世から消え去り、白化が世界を覆ってお前たちは生き残れなくなる! お前たちは敗者だ! ハハハハ! 」
縛られた状態で、勝ち誇ったように高らかに告げた男は、強い目つきであたりを見渡した。他の者はその態度以上に、発した言葉の方に衝撃を受けざるを得なかった。しかしその沈黙を破るように、それとは真反対の言葉がみんなに聞こえた。
「ビギナ、子供たちの所に帰った方がいい」
落ち着き払ったキリュウの声に
「サンガ・・・相変わらずあなたは気が利いて優しいわね、本当にいい男。だから私たち神の娘は若い頃、あなたに会いたくなかったのよ。婚約者もいたから、恋をしたら困るもの」
「夫の前で言うのは良くないんじゃないか? 男の嫉妬は醜すぎるぞ、なあチュラ」
「言ってくれるなサンガ、だがそうしてやった方がいいな、ビギナ。子供たちにパパはすごく元気だって伝えてくれ、疲れたけど」
「ふふふ、わかったわ」
とビギナが走ろうとしたとき(神の娘は走力も高い)サンガが
「駄目だビギナ、神の娘の能力を使うな。ここにいる者たち、命色師、聴色師もだ。この近辺にタカ便も飛ばしたが、半年は絶対安静だ。この山の粒子は体に入り込み、悪影響を及ぼす。警官たちもしばらくは無理は禁物だ」
「フフフ・・・地獄を見たもんな、サンガ・・・」
「フフ」
とキリュウと千里眼のチュラの会話が終わったと同時に、ビギナはウオーフォーで子供たちの待つ避難所に向かった。
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