優しい男

 

 自分たちがまだ幼い頃だった。町の随分と離れた所に一人の男が住み着いた。自分で畑を耕し、時々誰かが訪ねてくるようだったが、何年かしてやっと祭りなどに顔を出すようになった。


「いい野菜を作るね」と言われると、とてもゆっくりと微笑む優しい男だった。力が強いようで、小さな子供を肩に乗せて歩くこともできた。


「僕も!僕も! 」

「私ものせて! 」

そんな声が彼の周りからはいつも聞こえたが、リュウリとラランは自分から行くことはできない子だった。

すると、その男はそれを察して、何も言わずに、ずいぶん大きくなった自分と、小さなラランを肩に乗せてくれた。


「うわー!!! 」 急に高くなった目線にみんなと同じように声をあげた。


自分は今でもその時のことをよく覚えている。ラランも楽しそうだった。

それからしばらくしてだろうか、彼は結婚して子供ができた。彼は自分の子供を本当にかわいがっていて、何度かその男の子と遊んだこともある。夕方彼が迎えにやって来て「お父さん」とその子が抱きついた時の、本当に満たされたその表情は、今考えると徐々に死を覚悟し始めた母と似たように感じた。

 

 彼の妻と母は親しくしていて、街に来るたびにお見舞いに来てくれていたが

「白化の話」は聞いたことがないと言っていた。でも自分とラランは気になって、行って帰って一日がかりの彼の家に見に行くことにした。


「来てくれたのかい? 忙しくて後でいいと思ったのだけれど 」

やはりそう多くはないが、畑に白化したところがあって、すぐに命色をすることにした。


「見たい! 見たい! 」三人の子供たちはせがんだが、その時ばかりは父親が厳しく言っていた。


「命色線は小さな子にはよくないこともあるんだよ、もう少し大きくなったらね」

一番上の男の子は自分の言葉を理解したようだった。



「本当にありがとう、リュウリ、ララン」

「いつもお見舞いに来てくださっているから、そのお礼です」

それからほどなくして、母は亡くなった。



母の葬儀に彼は来てくれ、子供が病気だということで、挨拶だけしてすぐに帰っていった。だが自分たちが旅に出る直前、一人で家にやってきた。

彼が自分の家に来るのは初めてで、

そして全く自分たちが理解ができないことを言った。


「リュウリ、ここだよ。自分はここだ」


そう言って、首と背骨のつなぎ目の骨を押した。


「ララン、ここだ」同じことをした。


「でも新しい奴らは、きっとここより、骨二つ分下になっていくだろうと思う。覚えておいてくれ、必ず、きっと役に立つ」


父は彼にお礼だけを言った。

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