朝の挨拶
「おはよう」「おはよう」
命色師の一行はとても明るい表情で朝を迎えた。正確には昨夜寝床に入ってそれぞれが気が付き、自分たちが今までどれほど冷静でなかったのか、警官たちが何を隠しているのかということが、まるでなぞなぞの答えのようにわかったからだった。
「サンガの仲間たちだ、忘れていた! 」
キザンの小さく、楽しげな声
コジョウもリュウリも今まで感じたことのない極端な緊張がほぐれて、いつもと同じように命色の力が出せるように感じた。
噂は何度も耳にした。
一目見たら忘れられないような、目のくりっとした大男、
「好き嫌いが極端に別れる」という絶対聴色師には見えない派手な男、
ピンチの時に風のように現れ去ってゆく神の娘たち
個性的な人間を圧倒的な力でまとめ上げる
「東のサンガ」
かなり前の人々だが、神の娘の力はそう衰えることはないし、その聴色師は「最高の千里眼」と言われた男だった。
「現地集合、って感じなんだろう」
と命色師たちは希望を持ったが、警官たちはやはり緊張した面持ちだった。そして朝もやの中、聖域の山へと出発した。
聖域の山としては、そこはとても小さなところだった。山の中腹に忽然と現れたようなところで、昔から「特別な聖域」とされていた。まるで池のように周りがぐるりと道になっていて、その聖域の山に向かい合うように小高い丘があった。そこには石の台のようなものがあって、動物の生贄を備えたり、命色師がそこで祈りを捧げた、と伝えられていた場所だ。そして何故かそう高くないその丘の木だけが大きく揺れていた。
隊は三つに分かれていた。それぞれにコジョウ、キザン、リュウリとラランがいた。リュウリとラランはその丘に待機するように言われていた。もちろん矢を防ぐ木の板が設置され、小さな穴から外を除くような感じだった。
リュウリはもしかしたら、ラランと二人でいることはこれが最後のような気がした。これが終われば、ラランはコジョウと一緒にいるだろうし、自分は自分で考えていることもあった。
「もうすぐだ」
署長も指揮官としてここに一緒にいた。数頭のウオーフォーは見張り兼逃げるためのものだ。
「ウオー!!!」
誰かの声か敵の声かわからぬものが聞こえたと同時に、眼下で人と人がぶつかり始めた。
すぐさま、この高い所にも血の匂いが立ちこめてきた。時々力のない矢がここまで飛んできていたが、下の方もそれほどの数ではなかった。
「こちらの取り越し苦労か」とリュウリはのぞき窓から見たが、黒い影のようなものが、スッ、スッと何度か見えたので
「神の娘たちが、射手を倒していたのか」とわかった。
こちらが優勢なのは明らかだった。旗色が悪くなると彼らはすぐに聖域の山に隠れ、またどこからともなく出てくるということを続けていたが、その数も減り、またある種の規則性を見出せたので、そこで待ち伏せして仕留めることは簡単だった。
「どうして・・・どうしてこんなことをするんだろう」
戦いの最中、自分は何を言って、ここで何をしているのだろうとリュウリは自らを責めた。ラランもそのリュウリの言葉が苦しくなるほどで、どこかにコジョウの無事を祈っている自分が、身勝手のように思えた。
怖いからでもある、鍛えても自分の死があまりにも目の前に会って、そこから逃げたいだけのようにも思える。
でもこの惨状は何なのだろうか、自分は命色師として生き物の命を救うのに、動物として大きな、この人間という生き物だけが、自分の餌や繁殖相手と直結しなことで戦い、命を落とす。しかもこの操り人形や、犯罪者を束ねている人間は、奥の奥に、こちらの手の届かないところにいるのだ。
「何の目的で、何のために人を犠牲にするんだ」
やり場のない怒りがリュウリを満たし、それは制御できない危険なもののように自分でも感じ始めた。するとすぐそばで、風を感じた。小型の鷹便だ。昔から戦地では活躍する。マグマは本当に賢い上に、飛ぶ速度がそれほど速くないので、戦には絶対にかかわらない。
「操り人形の急所が違う者がいる? 」署長は口に出した。
「あ! 」
「ああ! 」
ユーシンの時よりも驚いた声を、リュウリとラランは出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます