初陣


「彼は・・・・・じゃあ・・・・・・・」リュウリのつぶやきに


「君たちの町は、彼らの救いの場所になることが多い」署長はそう言った。


「じゃあ、街を救った英雄は・・・」


ラランは昔話を思い出した。

自分たちの街は天然の要塞に守られているとは言え、長い歴史の中何度か危機はあった。モウ家が姿を消したときに「正規軍でない者たち」が派遣され、付近の街では大変なことになっていた。その時何人かの人間が自警団を作り、彼らを追い返したという話は、町の誇らしい伝説の一つになっていた。


 リュウリは唇をかみしめた。彼の表情、その子供たちのあどけない姿、そして父の言葉。


「僕たちはまだ子供だ、だから詳しいことは知らされていなかった・・・でももうそうじゃないはずだ。希望は、もう僕じゃない、あの子たちだ」

心がそう自分に命じた。


「きっと弱点が頸椎より骨二個分下です」


「ありがとう、リュウリ、私も下に行く、行くか? 」


「ハイ」ウオーフォーに乗り、二人はラランにじゃあと言って戦地に赴いた。

それとほぼ同時にウオーフォーに乗ったリーリーとすれ違ったので。


「ラランを頼みます! 」

「そのことは戦地で言うべきじゃないわよ、敵に丸聞こえ」と返された。

彼女達はやはりスペシャリストなのだ。


 次第に声と金属音、血の匂いが強くなってきた。


「初陣とは誰しも緊張する、リュウリが普通だ・・・あの二人は別格だ」と署長は思った。




 キザンという男は、人と接するのが上手なため、逆に若く悪いグループに取り囲まれるようなことが何度かあった。コジョウはその独特の雰囲気で「こいつは怒らせたらいけない奴」と彼らに思わせることができていた。

しかしキザンは逆にそのことを「利用する」ようになった。自分が散色師であること、それは戦乱とどうしても切り離せない歴史がある。それならばその戦いの

「練習台」にちょうどいいと思ったのだ。

細身のキザンだが、体を本格的に鍛えたことのある人間からすれば

一見して首が太く「いい体つき」をしている。だがそれを判断できず、頭数とナイフでどうになる、そうしてやってきたという連中は、いつものようにキザンを路地に連れ込んだ。


「あいつが頭、こいつは力だけはある、こいつは多少格闘技の経験はあるが俺のことが理解はできていない、一分だ、今日は」


と、いつも数秒で終えることができた。そして逃げていった子分には目もくれず、いくら強請たかりで手に入れているとは言え、あまりにも高そうな品を持っている男を締めあげ、


「知らない男からもらったんだ!・・・今度簡単な頼みごとをするからって」

白化の匂いのするものを持っていたので、そのまま警察に連れて行った。そのことからキザンは「警察官にならないか」と言われるようになったのだ。


「こんなもんじゃないよな・・・戦いは・・・相手だってかなり強いはずだから」

幾度となく感じたその思いが、今キザンの肌を刺すように、また、見えないうすい鎧のように彼の体を包んでいた。

目も耳も嗅覚もすべてを研ぎ澄まし、安全かつ速やかに敵を倒す方法を模索する一方、体はそれよりも早く動いていた。


「いいぞ! キザン! 」戦友たちの励ましはありがたかったが、遠方にある、きらりと光る透明の剣の命色には困難を極めていた。


「くそ! 命色光って言うのは当たっているのが判るからな、便利だぜ! やっぱりすごい技だ! 何が曲芸だ、隠しやがってコジョウ! 」


命色と戦闘を同時に行うことは、やはりキザンの体力を奪っていった。

「危ないな、判断力が鈍ってきている」と自分が思ったとたん、人の気配が真後ろにした。


「やられる! 」 すぐに飛びのいたが、そこにいたのは、黒曜石のような肌を持つ、自分と同じくらいの若い女性だった。


「あんた、南から来たって言う神の娘か・・・びっくりした」


「少し休みなさい、戦闘は初めてって聞いているけど、合格以上だわ、私ですら足がすくんだのに」


「男なんでね。でも神の娘ってあんまり姿を現さないんだろう? 」


「あなたはちょっと好みのタイプ、でもサイサイが好きなんでしょう? 」リラックスさせるように微笑んだ。


「君も素敵! 」簡単に体が回復していくのが分かった。


「そう! 私はギナよ。サイサイたちの教育係としてやってきたのに、いきなり実戦とはね、東の国は仕事熱心だこと。でも、自分の身は守ってね、この戦いももう終盤、最後の仕上げと行きましょう。見ておきなさい、見ることができればの話だけれど」


彼女の動きを見ていたら、自分の安全が守れなくなるとキザンは思った。



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