東のサンガ
その時代その国によってやはり代表する命色師がいる。基本的に名前を言うことを禁じられている命色師の中で「自然と広まる人間」は特に並外れた命色師なのである。
「東のサンガ」
彼はそう呼ばれるほどに、この国を代表する命色師だった。現在それぞれの国にも優れた命色師はいるが、このサンガはその経歴から圧倒的な人気を誇っている。
キザンのように「憧れの人にあやかってつけた」若者は海外にも大勢いるのだ。
何故ならこの人物はもともと「命色師」ではなかったからだ。
キザンは優秀な警官で、もちろん幼い頃は命色をしてみたがその力がないとあきらめた人間だった。警官となり、何かの拍子にたまたま命色ができたので、急遽その能力を伸ばすことにした。命色師には警察に務める者もいる。以前から「白化をわざと起こす」人間はいて、それを詐欺のように行うこともあったからだ。キザンが警察に誘われたのは決して珍しいことではない。
「大人になって急に命色ができるようになった人間」
それは貴重で、あこがれる存在であった。警察としては出来るだけ早く彼を命色師として活躍させたいと思い、ある人物に彼の教育係として白羽の矢を立てた。コジョウの父、キリュウである。
すでに幼いコジョウは命色界では有名になっており「その天才児を育てた彼ならば」ということだった。当時キリュウの父が命色師の代表職をやっており、
「サンガの教育に全精力を注いでくれ」という半ば圧力のようなものだった。
キリュウとしては当然あまり乗り気ではなかったが「使える命色師」は多いほど良いと思い、サンガの教育に真摯に、熱心に取り組んだ。このことがきっかけでキリュウもまた「優れた命色師」として名を馳せることになる。
しかし、その教育方法は完全スパルタ方式だったという。その姿を「見せたくない」という理由から、学校に行く必要のないほどの力を持つコジョウをわざわざ行かせた、という噂がある。サイサイもその当時は家を離れていて、キリュウは妻でさえ「危険だから」と家から退去させている。
そのやり方があまりに過酷だという噂は、学校にいる息子のコジョウにすら伝わり、「自分にはそんなに厳しくはなかった」と言っても誰も信じてはくれなかった。
具体的なことは伝わってはいない。
「どんな状態でも命色がきちんとできるように」という明解な目的で仕込んだのだが、命色師として活躍するようになったサンガが、敵に対し力で対抗した際、
相手はは完膚なきまでに叩きのめされ、「殺さないでくれ」と嘆願した。すると
「お前たちを殺す? 冗談ではない、俺の殺したい男はお前たちのような犯罪者ではない! 憎たらしい命色師だ! 」
と言ったとか言わないとか、そのような話が雨だれのように漏れてきていた。
ラランは何も言葉が出なかった。何を言ってよいのかわからず、普段なら聞こえるはずの虫の音も全く耳に入って来なかった。しかし、それから数分もたたないうちに、もう一羽の月夜鳥がやってきた。
「ああ!」
「あ! 」
二人の警官のこの小さな声は、明らかにどこか希望に満ちたものに聞こえ、ラランはほんの少し、緊張が解けたような気がした。同じような紙の音がしたと思ったら
「やっぱりサンガの月夜鳥だ! サンガは生きている! 聖域の山に閉じ込められているそうだ、どうもそこでは白化は防げるらしい」
「良かった・・・そうよね、敵だってそうサンガを簡単には殺せない。情報だって持っているのだから」
「サンガさんに、言うことを聞かせるつもりなのですか? 」ラランの言葉に
「ああ! サンガの家族を守らなければ!!! 」リーリーも署長も同じことを言うと、また、月夜鳥が今度はリーリーの手元にやってきた。急いで手紙を開けると
「署長、サイサイがサンガの家族の救出に行っています」
「ああ! 良かったサイサイさん!!! 」
「ララン・・・やっぱりわかったんだね」
「はい、私たちが守る、とおっしゃっていましたから」
一方、署内でも大変な騒ぎになっていた。警察官にとってはサンガは大切な仲間であり、英雄だった。キザンは茫然として、瞬きだけが生きている証拠のように、まったく動くこともできなかった。しかし「捕まっているが生きている」ことが判り、署長が大急ぎで食堂に戻ってきて大きな声で
「サンガの家族の救出にサイサイが向かっている! 」
と高らかに言うと
「さすがサイサイ!!! 俺たちの女神!!! 」と拍手と喝さいが起こった。
「すぐに家族の救出の手助けに向かうが、怖いと思うものは、自信のないと思うのは向かうな、サイサイの足手まといになる」
「ハイ」
皆それぞれに動き始めたが
「俺たちはここにいた方がよさそうだ」とコジョウが言った。
「どうしてだ? 行かないのか? 弟だろう? 」責めるようにキザンが言うので
「何だ? お前知らなかったのか? 知らないでサイサイ、サイサイって言っていたのか? 勘のいいお前のことだからわかっていると思った」
「じゃあ、サイサイさんは・・・」
「そうだリュウリ、神に愛されたのは俺じゃない。サイサイはモウ家始まって以来の・・・」
「神の娘だ!!! 」
ユーシンは嬉しそうにそう言った。
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