神の娘たち
この世界でも男性は女性より大きく力も強い。興行で格闘技をやっている女性もいるが、その王者と言われる女性でも、同じ格闘技をやっている男性の「一発」でダウンしてしまうという。この点は私たちの世界と全く同じである。しかし性に関しての最大の違いはこの「神の娘」の存在である。
この能力を持つ女性たちは一定時間ならば「男性を超える力とスピード」で動くことができる。この時間は個人によってばらばらで、最長三時間という娘もいる。遺伝的な因果関係は全くなく、突然変異的に形質が現れ、その数は面白いことに時代によってそう変わらない。全世界で百人程度常に存在している。散色師の方が本当に稀なのだ。ラランが「西の命色師が好き」と言ったのは、この「神の娘」でありながら「命色師」でもある人間が比較的多かったからである。
この桁はずれの能力はもちろん戦争には有効なはずであったが、彼女達は「神の娘」であり、国々の戦いには絶対に足を踏み入れなかった。だがこの能力を持つものを密かに育てあげ、自分の思い通りに動かそうとした王がいた。その噂を聞きつけた神の娘たちは、歴史書によると、城の外から「数分」もたたぬうちに、玉座にいる王の喉元に剣を突き付け
「またこのようなことをすれば、今度は殲滅する。他の国にも伝えよ」
と言い残しその国の神の娘たちとともに去ったと伝えられている。戦乱の世では彼女たちは「盗賊」と化した者たちと戦ったが、それでも世の中が収まるのには時間がかかった。
現在では彼女たちは独自のネットワークを持っており、リーリーのように警察の人間もいるが、サイサイのように一人で行動しているものもいる。また聴色師に近い能力を持つともいわれており
「平和の守護者」とも呼ばれている。
「そっか・・・サイサイさんは神の娘か、また偉大な魅力ができた」
「ああ! 会ってみたいな! 神の娘! 」
「此処にも・・・おっとっと」と一人の警官が言うと
「リーリーはサイサイとは仲がいい、それに命色師は神の娘たちと連携した方がいいので、あとで、みんなとリーリーを会わせたいのですがよろしいですか? 」
「それならば」と答えたが、だんだんとやはりサンガのことが気になってきた。そして命色師たちの所に一人の警官がやって来てこう伝えた。
「ラランさんが、サンガの家に向かっています」
「何故? 」
責めるようにみんなが言った。
「大丈夫、ララン? 」
「ハイ、鷲の時よりは、呼吸も楽です」
リーリーはラランを自分の前に乗せてウオーフォーで現地に向かっていた。
「何だろう、この嫌な予感は・・・すごく嫌だ。普段ならサイサイが行っているなら大丈夫と思うのに・・・」リーリーはどうしようもない、もう心にとどめておくこともできない、という声だった。
「私もです・・・何か嫌です・・・危険なのもそうですが、とても・・・今まで感じたことのないような・・・」
「両方の月が出ていない、暗いな、そのせいもある」
「サンガさんの家族はどうしてこんなに街から外れた所に住んでいるんですか? 」
「ああ、ラランならいいだろうね、あの裏手の山はもともと金山でね、今はもう取れていないけれど、あの家から坑道に入れるようになっているんだ」
「万が一逃げるため・・・」
「ああ、奥さんも賢い人だから。子供はまだ小さいけれど、逆に坑道のことは詳しいはずだからね」
「無事だといいですが・・・・・」
「ララン・・・・・私は・・・・・不安なのよ・・・・・なぜなのかわからない・・・・・サイサイが」
「急ぎましょう! 」
逆にラランのしっかりとした声に、リーリーは奮い立ち、ウオーフォーの速度を速めた。
低い崖を背にした小さな家には明かりが灯っていた。中ではとても小さな声していた。
「早く!! 坑道の中に!! 」
「何があったのお母さん? 」小さな男の子と女の子がいた。
「大きな声を出さないで、明かりはそのままつけておいて」
その家には黒い物体がぞろぞろと近づきつつあった。音を立てないように気を付けてはいるようだったが、小さな無数の「カチャカチャ」という音はサンガの妻には危険な音にしか聞こえず、急いで最後に坑道に入ろうとしたとき、どこかで聞いたことのある女性の声が、家のすぐ外から聞こえた。
黒い集団は、家の明かりに背を向けた、一人の女の前で動きを止めた。
女はその黒いものに向かって言った
「子悪党・・・・・落ちた命色師・・・・・そんな者に・・・・
このアタシが負けるか!!! 」
動きながら弧を描くように小刀をさっと抜くと、その集団の先頭の者は、ばたりと倒れた
「あれから・・・ニ十分、もうすぐ着く、ララン」
そう言ったリーリーは、数分前から硬直したようなラランの体に何かを感じ取っていた。そうしてやっとラランが人より鼻が利くのだと思いだした。
ウオーホーは林の中を進んだが、次第に強い匂いが立ちこめた。
「血の匂い・・・相当数だ・・・どうして? 」
神の娘であるリーリーですら怯えるような、初めての経験だった。
何故なら、この世界の人間は神の娘の力を知っている。大集団で襲って来たとしても、始めの数人が数秒で片付けられれば、臆して逃げてしまうことがほとんどだったからだ。逃げても少人数ならば捕まえるのはたやすいことで、大勢ならば、その中心となる人間に的を絞るだけの事だった。
だがこの血の匂いは尋常ではない。
「ララン、ズーと一緒に待っていて。ズー、何かが動いたらラランと一緒に逃げて」
ウオーフォーのズーももちろん嗅覚は人間以上で、手傷を負った人間が悪人であることもわかっている。そしてリーリーもここには「生きた悪人はいない」とズーの様子からも知ることができていた。彼女は走り、すぐさまサンガの家が見える道に出た。
「う! 」
道の上もその両端も、人がいた。そう、人が「物」として動かない状態で在った。中にはその「切れ端」のようなものもあって、リーリーの靴の裏にはペタペタと液体のついた感触がした。だが我に返ったように
「サイサイ! サイサイ! 」と森中に響き渡るような声で叫んだ。
すると明かりの灯ったサンガの家の入口に、ほんの少し動く何かが見えた。
「サイサイ!! 」
リーリーは走り寄り、家の壁にもたれて座りこんでいる体を両手で支えると、ウオーフォー用の手袋がじっとりと濡れていくのを感じた。
「サイサイ! サイサイ! 大丈夫なの? 」うっすらと涙が浮かんだ目でサイサイの顔を見た。
「うるさいなあ・・・死ぬほどのケガじゃないって・・ああ・・・悔しいなあ・・・もう少し命色の力があれば、あの透明な剣に色を付けることができたのに・・・
お父様も大恥ね、娘の私がこれじゃあ・・・・・」
「サイサイ・・・」
「あんまり近づかないでリーリー、においが移る・・・ああ・・・でも悔しい・・・ここでも・・・やっぱり命色の力がないことを思い知らされるか・・・・」
サイサイの目も少し潤んでいた。
するとガサガサと木々の間を抜ける音がして、ズーとラランがサイサイの目の前に現れた。
「ララン! なんでラランをこんなところに連れてきたの? 」
「サイサイさん・・・」ラランはズーを降り、ゆっくりとサイサイの居る方へ向かった。暗闇の中、血の匂いのする方へ。
「サイサイさん、サイサイさん・・・」
ラランはサイサイの体に優しく触れ泣き崩れた。
しばらくして
「全く・・・・・頭にくる・・・・・」
「今言うのサイサイ? 」
「今言っとかないと言えないから、ララン」
「何ですか? サイサイさん? 」
「そっくり、西の神の娘たちに・・・全然強そうじゃないのに、ラランみたいな子から一ひねりでやられる、命色もできるやつもいる、もう、腹が立つったらない。また言われる、力の使い方に無駄が多いだの時間を有効に使えだの・・・本当に、あの顔で言うんだから、絶対性格が悪い」
少しだけラランは笑った。
「アタシたちはねララン、神の娘としては下の方なのよ」
リーリーがそう言った。
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