戦いの前のプロポーズ


「君は千里眼として覚醒しつつある。その途中で失う訳にはいかない」

二人きりになってもコジョウの話の内容は変わらなかった。


「行きたくなくても行かなければなりません、私もリュウリも。私たちの町はずっと平和でした。高い険しい山々に囲まれて、運べるのはそれこそ「色」ぐらいでした。だからこそ創色が盛んになったのでしょう。作物の実りは人が食べてゆけるには十分でした。ずっと長い間、それを幸福と思っている人がほとんどでした。自然にもあまり手を加えることがなかったので、動物も植物もとても穏やかで、馬でさえ、暴れるところを見たことがありません。でも旅に出て、色々な体験をする中で、他の町の人々はもっと複雑な思いで暮らしていることがわかりました。もしかしたら人の心と言うのは本当はそうなのかもしれない、と思うようになりました。

だとしたらそのことを今まで考えなかった私とリュウリは・・・きっと向き合わなければいけないのでしょう、コジョウ。リュウリがあなたの方が随分大人だと感じると言っていました。名家の出で、命色の天才と言われたあなたの方が苦労がないようにみえるけれども、色々な、複雑な経験を積んでいるんだろうと、自分は恵まれ過ぎていた、と」


「だから行くというのか? 操り人形の・・・あの中へ」


「まだ少しだけ彼らの声も聞こえますから・・・コジョウ・・・」


「辛すぎるだろう、ララン・・・心が壊れてしまう」


「大丈夫です、この事が終わったら・・・・また夕方一緒に歩いてもらえますか? とても楽しかった。一番安心できる時間でした。どこの人もみんな同じ人間なんだと改めて思うことができました」


「ああ、いいけれど、でももう嫌だな」


「え? 」


「できれば・・・その・・・夕方・・一緒に食事をしたいな・・・ずっと一生その後散歩で・・・嫌かな・・・ララン・・・・」


「コジョウ・・・・」ラランの目から涙が流れた。


「一緒にいさせてください・・・

あなたに今度の戦いで何かあったら・・・

私は・・・」


「わかった、一緒に行こう」


コジョウは初めてラランを抱きしめた。

そして顔を見合わせて


「生きよう、ララン、ここで死ぬわけにはいかない」


「はい、コジョウ」


二人は手をつなぎ、部屋の外へ出た。

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