旅の目的
「行ってはだめだ! 」警察署長は命色師一行に強く言った。
「でもラランが行っているのに! 」リュウリは当然のように声を出したが
「こんなことを言っては悪いが、ラランさんは実際には見えていない。警察官ですら惨状に吐き戻している人間が大勢いる、君たちは命色師だ、精神的に不安定になっては命色もできない。それにサンガの救出作戦をすぐにでも決行する。その時に透明の剣を君たちに命色してもらわなければならない。わかるかね、それが君たちのやるべきことなんだ」
一喝するように言われたのは初めての事だった。
「今は、体を休めて、もうすぐラランさんは帰ってくる」
「リュウリ、そうしよう」キザンはなだめるようにリュウリの背中をたたいた。コジョウはサイサイの所に行っているし、ユーシンももうここにはいなかった。
「透明な剣を染める色」を大量に作ろうとしていたのだ。
現地でのことだった。
サイサイが医療チームに運ばれていくのを見送ると、すぐに、暗闇の中ラランは歩き始めた。リーリーと同じように、生まれて始めて血を靴の裏に付けながら、ゆっくりと、ゆっくりと。
何人もの警官がやって来て、現状を確認して騒ぎ立てることも出来ず、茫然と、あるものは深酒をしたような行動をとっている中、ラランはすべての感覚を研ぎ澄ませた。その冷静さを「目が見えないから」とその場にいたものは思わなかった。何故なら、さっきまでサイサイの側で泣いていた女の子とは全くの別のような、覚悟を決めた人間の強い姿だったからだ。
「二度と、こんなことは起こさせない」
ラランの思いは伝わっていた。
サイサイのケガもリーリーの嘆きも、サンガの家族の恐怖も、そして、あまりにも無残に扱われた人の姿も。
「月の出ない方が・・・能力が高まると聞いたけれど、本当の様だわ」
自分でも驚くように色々な事が感じ取れた。そして、警官たちがラランの行動に心を奮い立たされ、仕事をしようと動き出すとラランは
「止まっていて下さい! あちこちに透明の剣の折れたものがあって危険です。所在を突きとめ、私が命色をします、それまで止まっていてください」
ラランは細かな破片も命色しながら、辺りを調査をした。ほとんどの破片の回収ができたのは、もう夜明け近くになっていた。
そしてラランはこう告げた。
「男の子、私と同じ年くらいの。世の中に強い恨みを持っています。その子が今度のことの指揮を執っているけれど・・・」
「けれど? 何ですか? ラランさん」
「敵が・・・その男の子の上にいる者が・・・気持ちが悪い・・・」
ラランには、まだサンガの手紙の内容を教えていなかった。それなの彼女はそう言ったのだった。
しかし警官たちは最後の「気持ちが悪い」という言葉は、ラランの疲れによる体調の事だと思っていた。彼らがそう勘違いをしているであろうことも、ラランは承知していたが、無理に説明しようとは思わなかった。
何故なら、彼らの「最終目的」が見えそうで見えなかったからだ。むしろ不用意な発言はこれからサンガの救出に向かう警官たちの士気にかかわる、そこまでラランは読み取ることができていた。
不透明な敵と、サンガ救出という自分たちの明確すぎる使命は、まるで世の中の複雑さの表わしているようにラランには思えた。
「ごめんなさい、心配をかけた上に、待たせて」
ラランはリュウリたちに謝った。何故なら帰ってすぐに、体と服に染み付いた血の匂いをどうしても先に落としたいと思ったからだった。そして集中して創色に精魂を傾けているユーシンを除き、四人で話をした。
「幼い男の子か・・・」
「淡雪と全く同じ、人に対して攻撃的だわ、孤独からなのかも。それを上手く操っている人間がいるようなのだけれど、でもその人はこの近くには居ないようです」
「前線基地ってところなのかもしれないな、とにかく、俺たちは素早く透明の剣を命色しないことには。さっき見せてもらったけど、感覚的にはわかりそうだな、どの辺にあるとか」
「ええ、キザン、それは簡単にわかるとは思います、でもその・・・操り人形の・・・数がどれほどいるのかがわからないから」
「奴らも食事はする。どうも聖域の山に食料を持ち込んでいるようだが、そんなに多くはないようだ、リュウリ・・・どうした気分でも悪いのか? 」
「コジョウ、違うよ・・・何だろう・・・はめられているような・・・」
「上手くいきすぎているってことか? リュウリ、俺もなんか嫌な気がする」
「多分、現地に行けばもっとわかると思います」
「現地に行く? 聖域の山まで君は行く気か? ララン! 」
「もちろんです、私は聴色師です、それに千里眼と言ったのはコジョウあなたでしょう? 今一時的な力かもしれませんが過去も「見えます」。ただやはり遠く離れていると無理です。見誤るときっと全員・・・」
「死ぬ、ってことだね」ゆっくりとリュウリは言った。
「相手は命色師を恐れています。東のサンガ、天才の誉れ高いコジョウ、そして類まれな散色師キザン、そして、リュウリ、あなたもです。この前の会議で他の命色師たちが言っているのを何度も聞きました。「どうしてこんなに最強なのが集まっているんだ」って。敵からすれば一度に終わらせてしまえる好機でしょう。相手は得体がしれません、それに対応ができるのは今の所私だけです、遠くから優れた千里眼を呼ぶ時間はないはずです」
「君は女の子だ! 戦場なんかとんでもない! 人が死ぬんだぞ! 」
「コジョウ! 平気です! 私は直接視覚に入ってくるわけではありませんから」
「君の能力では見えているのと同じことだ! 連れてはいけない! むしろ足手まといだ! 」
言い合いになってしまったので、キザンが大きなため息をついた。
「そうだな、死ぬかもしれない。だったらちゃんとしとけよ、コジョウ、お前言い方下手だな、それじゃあモテない。ちょっと休憩、痴話げんかが治まってからにしてくれ、さあ、行こうか、お兄さん」
「痴話げんか? キザン! 」
「コジョウとララン二人で話せよ」リュウリとキザンはすぐに部屋を出て行ってしまった。
「さてさて、格好つけて出てきたけど、他人の俺が偉そうに言ってよかったのかな、お兄さんとしては」
「ありがとう、キザン、助かったよ」そこへ、いかにも外の空気を吸いに来たというユーシンがやってきた。
「ごめんね、話し合いに出れなくて。でも僕としては戦地の近くで色を守りながら、そこでも色を作った方がいいかもしれない。色量のことを心配せずに命色してほしいんだ。それが創色師としての今回の役目だと思う」多少の疲れの色は隠せなかったが、気合は乗ったままの様だ。そして
「ああ、コジョウとラランを二人にさせてあげたんだね」とにこやかに笑った。
「ねえ、ユーシン、一つ聞いていいかい? 」
「何? リュウリ、改まって」
「ユーシンにとってラランは・・・女の子とは見れないの? 」
「ハハハ、そんなこと? だって僕が入った時点で、コジョウがいたじゃないか。それに・・・本当のことを言うと、君たちのお父さんのことが見え隠れしてね・・・それを超える勇気がないのかもしれない」
「いやいや、お前の女性の好みは俺と同じ、サイサイさん派だ。だがラランはとってもいい子だ。結婚するのに「間違いのない子」だと思うよ、それは俺もユーシンも、リュウリ、兄ではなく男としてみて、そう思うだろう? 」
「まあ・・・どうかな・・・でもラランって案外男の好みがはっきりしていて。僕らの町でラランを良く思ってくれている男はいたんだ、僕の友達でも。でもラランがあんまり・・・・そうだな正直に言った方がいいよね、この旅の大きな目的の一つだよ。
「ラランの相手を探すこと」は」
「え! それも目的!! 」
「楽しいな!!! なんでもっと早く話してくれなかったんだ!! 」
「だって、コジョウもラランのことをどう思っているのかよくはわからないし」
「そうかな? リュウリ、その点ちょっと鈍くないか? 僕はコジョウの微妙な視線を感じたけど」
「ユーシンにはそうかもな!!! ハハハハ!!! 面白い!!! サイサイさんもきっと喜ぶ話だぞ」
「そうだね・・・彼女の分も頑張らなきゃ」
「そう言えば他の神の娘も来るんだろ? 」
「ユーシン・・・お前守ってもらうつもりだろう」
「実は極秘情報、神の娘の見習いが僕の側にいてくれることになった!!! 」
「おいおい・・・」
緊張の中楽しい雰囲気を作ったのか、みんなで作り出そうとしたのか、しかし、コジョウとラランは一生にきっと一度しかない話をしていた。
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