第一部 若き人々

神の怒りを受けぬもの



 この世界の空を青にしたのは飛ぶもの達だという。海に住む者たちが、その住処の色を決め、そっくりに真似たのだという人間と、その逆だという者もいる。

しかしこの世界の空の色は変わる。毎日の夜明けと夕暮れの赤い光ではなく、色月(しきげつ)という期間にである。南北の極めて寒い地方にだけ見られる、空の色がカーテンのようにみどりに光るものと似ており、そのカーテン状のものはなく、空が部分部分で多くの色に染められるのだ。

この世界も冬に雪が降り、春にそれが解け、暑い夏、実りの秋、そして一か月ほどの長さの色月の後にまた冬となる。長い歴史の中で彼らはこの色月が周期的に変化をしていることを突きとめた。そして何十年かに一度は三か月以上にもわたる色月、冬が続くのだ。それは今から三年の後で、このことが起こるとき、人の世界は大きく乱れると言われてきた。しかし、前回、前々回の長い色月にはこれといって何もありはしなかった。


「我々は、色月すらも乗り越えたのだ、これからはさらに明るい未来が人間には開かれるはずだ」という者も多かった。しかし、だが、と思う者たちも多くいた。



 


 彼はこの聖域の山々の頂点に君臨するものの一人であることには間違いなかった。その大きな翼は、彼を下から見る者たちには白く、数少なく上から見下げる者、たまたま木にとまっている姿を見たものには、灰色がかった青に見えた。聖域の山の粉を振りかけてもらった神の鳥という人もいた。

その一羽の青ワシは特に大きく、人間の赤ん坊はさらわれてしまうと、麓の町では話されていた。今日も彼はいつものように山から吹く風に乗り、そのそばの大きな彼の森、えさ場としている所を見回っていた。日差しは強く、空は澄み渡って雲一つなかった。風は弱かったが、いつもの高度まで上がればなんということもない。また山がもたらす風の、幾つかの筋道を熟知している彼にとっては、もし獲物が不意に目に入っても簡単に捕まえられると思っていた。

 すると、彼は斜めに、あっという間に急降下したが、それをすぐに止め、またもといた高さまで戻っていってしまった。彼は思った


「そうだ、さっきから遠くに見えていたじゃないか、あれはもう、狙うには大きすぎる。もっと小さな、生まれたての動かない奴なら、うまそうで、すぐに持って飛べるだろうが」


 彼の眼下の森に動くものが三つあった。一つはくたびれたような毛のもの、あと二つはつやつやした、いかにもその下に柔らかな肉があるような、光沢のある毛の塊が動いていた。


「そう、いけ好かない奴らだ、あれは本物じゃない、二本足の奴らだ。猿のように歩き、翼があるべきところに、それがないから、奴らはいろいろなものをこしらえる。そして、そうだ、いけ好かない、他の翼のあるものを勝手に変える。餌をやって自分たちのいいように使う。冗談ではない」


 しかし彼は一つ気になっていた。あの、自分がふっとひかれた、毛の元の持ち主が何であったのかを。それを確かめるため、三つの動くものの周りをゆっくりと、何度か回った。三つは森の中の草がなく、表土が見えているところをひたすらに動いているように見えたが、不意に立ち止まり、自分を見たようだった。何かの音を発したようだが危険なようではない、そして彼はやっと思い出した。


「そうだ、モグラだ、土の中にいるうえ、案外動きが速い奴らだ。そうか、たまには食べてみたい。丁度いい、この山の粉も落とすために行こうか。あそこには大きなものもいる、人間もいるが、あそこの奴らは他の者も言うように

「身の程をわきまえた奴ら」だ」

彼はすぐさま方向を変え、狭い一筋の道を通って目的地へと向かった。そこがこの下の三つの生き物の生まれ故郷だということは、彼にとっては何の関係もないことだった。しかし下の生き物は彼のこの行動を、意外なほどによくわかっていた。







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