第八話 再発予防
「しかし、
かんなは呆れ顔で立維を見る。
「立維様…
「む、そうなのか。不審な
「それは一時的な話です。また変な
「そんなこと、
立維は真顔で答え、かんなは溜息を付いた。
「まあ、その辺りは市破さまも交えてお話ししましょう。もし良かったらもう少しご一緒にどうですか。先ほどの
かんなは市破から奥の間を案内されていた。どうやらそこでもう少し何か話をするらしい。
ヴィムはすでに長屋を辞退し、
「良いのか、それは有り難い。しかし
立維は草履を脱ぐと、かんなと市破に続いて奥の間に入る。市破が襖を閉めると、三人だけの空間となった。かんなは洋袴の膝をそっと押さえつつ、畳の上に両膝を付くと、両手を左右の腿の上に乗せて市破を見据えた。隙のない正座だった。
「それでは市破様、目の前の脅威は抑え込めましたので、今後の再発予防の話をさせていただきます」
「へ、へい。よろしくお願いしやす」
市破は疲れた表情でキイキイと高い声でと応えた。
「まず、今回の不審な
「へ、へえ。しかしかんな様、その
「なぜその魔法署名が紀伊國屋だと思ったのですか?きちんと確認しましたか?」
「へっ!?そりゃあ、あの紋様のは紀伊國屋と決まってまさあ」
「市破様、見た目だけで判断してはなりませぬ。あの魔法署名は恐らく偽物です」
「「偽物」」
市破と立維の声が重なった。
「そうです。今回の魔法署名が本当に紀伊國屋が署名したものなのかどうかは、紀伊國屋の
「
「立維様、これは先ほどの話に繋がるのですが、
立維は唸った。かんなの話について行くのがやっとだったが、何となく分かって来た。
「つまるところ、今回の紀伊國屋からの
かんなは頷いた。
「そういうことです。ですから、今後は
「へえ、分かりやした。今後は気をつけやす」
「あと、丁稚への教育も忘れずにお願いいたしますね」
立維は
「そして市破様、実はこれからが本題なのですが」
「へ、へえ、まだ何かおありで」
本題、と聞いて市破は身構えた。
かんなは左の
立維は思わずおっ、と声を出し、市破はうっ、と唸った。
「これに見覚えはありますね?」
質問というより、念押しで確認するような口調だった。
もちろん立維には見覚えがあった。
「市破殿、これは何なのだ?」
立維はこの物体が何なのか気になって、市破に問いかけた。しかし、市破は畳を見下ろしたまま、凍りついたように微動だにしない。
部屋に沈黙が訪れ、外の喧騒が微かに聞こえて来る。
沈黙を破って話し始めたのはかんなだった。
「これは、『遺物』です」
「遺物!?遺物とは、あの『遺物の塔』で発見される、魔道具のことか」
「そうですね、市破様」
市破は答えなかった。
市破が答えない理由は立維にも想像がついた。
確か、遺物は全て幕府が厳格に管理していて、魔法奉行の許可無しでは利用できない。
幕府が武士となった者に配る刻印付きの刀の柄もその一つだ。立維は東北藩から配布されたものを使っている。
だが、都にはどこからか密かに入手した遺物が闇市で出回っていた。
(許可のない遺物の売買はもちろん御法度…)
ここで許可無く遺物を扱っていたことを認めてしまえば、市破はお縄ということか。
「遺物は、すべからく今の人間には到底理解の及ばぬ未知の道具。それを迂闊に扱ってしまえば、このような事態が起こるのです」
市破は肩を震わせながら、無言のまま
「今回の事案は
奉行による直接の裁きという訳か。
市破は額を畳に擦り付けたまま、へへえと返事をしたのであった。
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