第四話 解析 壱
「これから原因を特定するため、
「いや待たれよ。ふぉれんじっくとは何だ」
慌てていた立維は思わず聞いてしまった。
その発言に、時が止まったかのようにかんなの笑みが固まる。
立維はしまった、と思ったがもう遅かった。
「立維様、今なんと」
「いやその、俺は
「それは存じ上げております、先程そう申しましたが」
何かかんなの声で部屋の気温が下がった気がする。これがかんなが持つ魔法の一つなのだろうか。いや、かんなは武士には見えぬ。
「いやそれでだな、
「立維様、魔法処理安全確保支援士試験をお受けになったのですよね」
「ああ、先ほども言ったではないか。その長ったらしい試験名称は間違いない。合格通知も受け取っている」
この流れはまずい。この会話の先が読めた立維は慌てた。
「技術があると口で言うだけでは分からぬのだぞ。ほら、知っておるか。試験に合格した武士が遺物の塔で活躍している話を」
「勿論、
立維の話術では、話を逸らすことは出来なかった。
「試験をお受けになっているなら、
立維は返事ができなかった。
勉強したはずなのだが、すっぽりと忘れてしまっていた。
などとはさすがに言えず、立維は内心でさらに慌てながらかんなを見据えた。
しかし、慌てていたのは立維だけではなかった。
『かんなっ!』
「はいいっ」
『もういいだろう、てめえが決めたんだ、自信を持て。腹を据えろ。責任は俺が持つ』
「はい、申し訳ありません」
立維は
大抵、倭国の上役は責任を部下に押し付けるものだ。
かんなといい、
かんなは小さな手で口を覆って咳払いすると、立維に話しかけた。
「立維様、改めてお願いします。
「あいわかった。ふぉれんじっくだな」
「正確には違います。法的証拠の発見のために可能性のあるもの全てを調べるのが
「ああ、そう、その通りだ」
かんなは立維の曖昧な相槌にため息をつくと、市破に言った。
「ご主人、それでは例の
「へ、へい」
市破は頷くと、奥に向かって声をかけた。
「おい、カリ松、あの箱を持ってこい」
「は、はい」
小さなか細い子供の声がすると、板間を歩く音がした後、階段を歩く音が聞こえてきた。
「おい、早くしねえか。てめえはいつも遅いって言ってんだろ」
どうやら市破は上役には媚び
先ほど市破が出てきた部屋の奥の襖の隙間から、僅かに階段が見える。そこからカリ松と呼ばれた子供が箱を胸に抱えてゆっくりと階段を降りてきた。
カリとは珍しい名前だ。立維は市破に尋ねた。
「おい、市破、カリとはどう書くのだ」
「鳥の雁でやすよ。あいつは名前をカリだと言うんですが、漢字を知らないって言うもんで、あっしが適当に名付けやした」
雁が襖を開けた時、立維はその身なりにおやと思った。
まず目に付いたのは、引きずっている右足だった。歩行時に、右足をうまく前に出せていない。
そしてボロを
「雁松、ちんたらすんな。早くしろい」
「は、はい」
雁は市破に怒鳴られると肩を震わせ、細い声で返事をした。雁が市破に毎日のように怒鳴られているのが容易に想像がついた。
雁は右足を引きずりながら市破に近寄ると、番台に座っている市破に箱を渡そうとした。
「おいこら、作法がなってねえよ、いつも言ってんだろうによ。人に物を渡す時は、きちんと膝を付け、膝をよ」
市破はそう言ったが、立維にはこの丁稚が両手で箱を持った状態で、不自由な右足を使って両膝を付くのは困難に思われた。
案の定、雁は膝を曲げようとしてよろけた。
そしてかんなが「あっ」と言う間に、雁の手から箱が溢れた。箱は帳場の床に落ちるとその衝撃で蓋が開き、中から
市破は苦虫を潰したような表情で固まり、雁は慌てて
「触らないで、わたしがやります!」
雁が
「あわわわ…」
それを見た立維が代わりに対処しようと一歩前に踏み出した時、
『
『なにぃ。かんな、状況を知らせよ』
かんなは板間に両膝を付いた状態で右手を
「かんな殿、落ち着かれ…」
立維がそう声をかけようとした時、商品の陳列棚の前に、黒い人のような物体が唐突に出現した。
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