第458話 わずかなほころびから感電したら……終わりだ
イオージャの二本の尻尾がぶるっとふるえるのが見えた。
あの強烈な電撃弾『電気玉』が放たれようとしているのが、ヤマトにはすぐにわかった。
『移行領域』のベールが元の100%に戻るのに、10秒はかかる。
それはなんども確認していてユウキもわかっているはずだった。守りから攻撃、攻撃から守りに転じる切り替えの時間が、今回のイオージャ・魔法少女戦での急所になると。
正面側に集中して『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』のベールを展開すれば、電気玉はふせげるはずだ。だが、それは電気玉の衝撃だけで、無指向性の電撃までは保証できない。運がよければ、アルが塗布した超絶縁体が能書き通り機能して、電撃を遮断してくれるからもしれない。
だが、そうならなかったとき——。
もしわずかなほころびから感電してセラ・マーズがすこしの間でも動きを封じられたら……。
魔法少女どもの格好の
『移行領域』のベールを展開できないところに、『分解光線』を浴びせられれば、無防備なセラ・マーズに防ぐ手だてはない。
今度、ばらばらにされるのは、武器のような装着具の一部ではすまない。
間に合わない——。
ヤマトのあたまに一瞬、そんな最悪な事態がよぎった。
「ユウキ、イオージャにぶつかって!」
ふいにレイの指示が飛んだ。
ユウキの動きは俊敏だった。助走や溜めをつくるような隙などつくらず、前のめりになった姿勢から一気に地面を蹴ると、イオージャにむかってからだを飛び込ませた。
と同時に、その時上空から影がさした。
威勢のいい「いただきい!」という声とともにアスカのセラ・ヴィーナスがイオージャの頭上に落下してくる。手には長い槍を頭のうえに高々と掲げてイオージャの脳天を貫こうとしていた。
「ユウキ、じゃまぁぁぁ」
アスカが叫んだが、ユウキは突進をとめられなかった。
セラ・マーズはレイの指示通りに、肩から体あたりしていった。はね飛ばすほどの勢いはなかったが、イオージャの体躯はよろめいた。
それがアスカの攻撃の邪魔になった。
アスカが真上から振り下ろした槍の切っ先は、イオージャの脳天をそれた。
槍の切っ先は長くしなだれた左耳を貫いた。そしてその勢いのまま頬に突き刺さった。レイが前回、血で赤く染めた部分からまた血が噴き出した。
アスカのセラ・ヴィーナスは地面に着地するなり、すぐさま次の攻撃にしかかった。イオージャの口元に刺さっている槍を、薙ぎ払うようにして横側に引き抜いた。
イオージャは強引な力に振り回され、近くのビルの上に投げ飛ばされた。勢いでイオージャの頬に刺さっていた槍の刃先が、口元を切り裂き、こめかみ近くまで裂けた。
さらに血が噴き出す。
押し潰されたビルの上で、イオージャが咆哮をあげてのたうった。
アスカは引き戻した槍を頭上にふりあげると、倒れているイオージャの上からのしかかるようにして突き立てた。
今度はあおむけのイオージャの喉元を狙う。
が、その突き立てたはずの切っ先に刺さったのは魔法少女だった。
魔法少女たちが何層にも重なるようにして、イオージャのからだの上に立ちふさがり盾となっていた。槍を突き立てたが、二体の魔法少女が貫かれてイオージャに届かなかった。
「ちいぃっ!。やりづらいったらない!」
アスカはすぐさま槍を引き戻したが、そのとき刺されていた魔法少女のひとりが断末魔のなかでステッキをふるった。
アスカはそんなことおかまいなしに、魔法少女を遠心力で引き抜こうと、槍をおおきく振り回した。だが、その穂先がその勢いのまますっぽ抜けて、とおくへ飛んでいった。あっと思う間もなく、伸縮型の槍の持ち手部分が、継ぎ目部分ごとにばらけはじめ、ボトボトと地面におちていった。
「うそでしょ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます